アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

山津波――山と海の被災地の現在を巡るアートツーリズム

小森はるか+瀬尾夏美

実施期間
2023年4月1日~2024年3月28日

活動の目的

東日本大震災の被災地域には、現状たくさんの伝承施設があるが、設置市町村の情報のみに特化しており、全体を俯瞰することは難しい。また地域の人と出会う機会も少ないため、せっかく遠方から訪問しても関わりしろを見出しにくい。本プロジェクトはアートを入り口にすることで、知識・体験の差や立場に依らない語らいの機会を増やしながら、出来事への直感的かつ深い理解を促したい。そうすることで、ほかの土地のことや、さまざまな社会課題、個々が抱える困難等にも目を向けるための想像力をも養う。

活動の内容

私たちがフィールドワークを重ねてきた三つの土地(石巻、陸前高田、丸森)を巡るアートスタディツアーを実施し、7名の参加者とスタッフらとともに対話を重ねながら旅をした。移動や滞在の間には、地域住民を案内人とする町歩きを実施し、まちの歴史や被災後の経験について教えてもらったり、講師によるプレゼンテーションを聞き、ほかの土地の事例を学んだうえで、ツアーで見聞したことと参加者自身が持つ関心事との共通性や応用可能性などについて議論をした。

参加作家、参加人数

ツアー案内⼈
(研究者、アーティスト)グレッグ‧ドボルザークさん(早稲⽥⼤学)、⼭⽥⼀裕さん(東北⼯業⼤学)、七尾旅⼈さん、友部正⼈ さん、磯崎未菜さん
(⽯巻市)有限会社熊⾕産業 熊⾕秋雄さん
(陸前⾼⽥市)永⼭悟さん、⼩野⽂浩さん
(丸森町)鈴⽊悦郎さん、宍⼾克美さん、島津信⼦さんツアー参加者
⼀般公募による参加:7名(男性4名、⼥性3名)

他機関との連携

(石巻市)有限会社熊谷産業、NPO法人リアスの森、(陸前高田市)山猫堂

活動の効果

⼀般公募による参加者は、アーティストを始め、建築や地理学を学ぶ学⽣、被災地と表現活動の関わりに関⼼のある社会⼈など多様なバックグラウンドを持つ⼈たちであった。参加後のヒアリングでは、表現活動のヒントを得たり、環境省が⾏う潮⾵トレイルへの反映、⾃⾝の研究の対象地を丸森に設定するなど、各⼈にとって少なくない影響⼒があったという声が聞かれた。また、ツアーで 巡った各地域の⼈たちにとっても、市内の住⺠ですらアクセスしづらいとされていた場所(北上川沿い)を知ってもらう機会に なったり、被災から時間が経ち、地域外からの関⼼が薄れつつある場所に興味を持ってもらえたなど好評の声があがった。丸森町では、後⽇町の公式フェイスブックにて本事業の様⼦が伝えられた。https://www.facebook.com/share/8D9aPnRzekNrvUy7/

活動の独自性

近年⾃然災害が頻発し、被災地となる⼟地が増える中、かつての被災地が忘れられていくスピードも年々早まっている。同時に、⼀般的な報道では各地の被災状況が似通ったもののように伝わってしまうことで、関⼼を持ちにくい状況が⽣まれている。本活動は、アートや表現を軸に据えることで、⼤きな物語からはこぼれてしまう個⼈的な語りや関⼼から、被災地の現状を学ぶことができるため、より具体的に「被災地の今」を知ることができ、参加者なりの関⼼の持ちどころが⾒つけやすいという点で、現状の問題解決の
⼀端になると考える。
また、各地域の枠を越えて、被災経験や、そこから得た知⾒を共有する試みも少ないが、被災地の当事者同⼠が直接コミュニケー ションを取ることは容易ではない。本事業では、参加者が「旅⼈」となって各地を結んでいくことにより、彼らを介して、訪問地に住む⼈が別の⼟地へ関⼼を持つきっかけにもなった。このような間接的な関わりが、いずれ被災地同⼠のコミュニケーションやネットワークづくりに発展していくのではないかと考えている。

総括

⼆泊三⽇という短い時間であったが、参加者、スタッフ、地域の⽅々ともに、学びや気づきが多い充実したプロジェクトとなった。 震災から13年の時間が経ってもなお、現場を訪れるとそれぞれにあたらしい発⾒があり、それらを共有することで、あらたな協働者として出会えた感覚があった。それはかけがえのないことである。
ただ、遠⽅から参加者を招き⼊れるためには、事前準備のフローが膨⼤となり、また当⽇も運営⾯で気にかけなくてはならないことが多く、対話やワークショップの質を上げるのが難しかった。とくに、地域の⽅々に負担をかけてしまったこと、彼らの持ち味を伝えきれなかったこと、スケジュールの詰め込みすぎで参加者の⼼⾝への負荷が⼤きかったこと、コミュニケーションの時間が⼗分に取れなかったことは⼤きな反省点である。
同じコンセプトで継続するならば、今回のようなコンパクトなツアーの形式ではなく、中⻑期的な枠組みにして、関係性をゆっくりと構築しながらフィールドワークを重ね、知識とアイディアを共有していく⽅が好ましいと感じたが、そのためには経済的な負担が増えてしまったり、参加者の時間が合わなくなったりとあらたな課題が出てくる。今回を踏まえて、よりよい形を模索したいと思 う。

  • 北上川のヨシ原の現地視察とレクチャー

  • 東日本大震災津波伝承館の視察と現地の方のレクチャー

  • 丸森町の住民による現地でのレクチャー