アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

Don't Follow the Wind

Don't Follow the Wind

  • 福島県,
  • 東京電力福島第一原子力発電所付近の帰還困難区域,
  • 2023
実施期間
2023年4月1日~2024年3月31日

活動の目的

2023年度は、「①科学者との協働により、帰還困難区域の(人間以外の)存在の動向を調査・研究すること」「②海外に向けて活動を発信・紹介し続けること」「③政府により突然行われる解除(展覧会会場の公開)を視野に入れ、展覧会サイトの継続的な整備と保持すること」を主な活動目的とした。

活動の内容

Don't Follow the windは昨年末、このプロジェクトの会場の2つが除染区域対象となったという報せを地元協⼒者の⽅々から受け取った。除染期間は未定だが、除染後に展覧会をオープンできる可能性が⾼くなったということである。
遠くはない将来の公開に向けて、現在の状況に対する認識を周囲に⾼めてもらうため、地元住⺠の⽅々との対話とワークショップ、科学者を招聘し収集したデータを共有し、海外発信(展⽰•ワークショップ)を⾏った。
帰還困難区域内にある「Don't Follow the WInd」展には、まだ⼀般の⼈は訪れることができない。実⾏委員会は、展覧会や展覧会の会場周辺に、⼈間以外の訪問者(動物)が多数いることに気づいた。そこで科学者や研究者と協⼒し、1.どのような⽣物が会場周辺
(および会場内)にいるのかを知ること、2.展⽰の公開が始まったときに、⼈間と⼈間以外の観客のためのスペースをどのように作ることができるのか、について研究を数年前から始め現在も進⾏中である。

参加作家、参加人数

(参加作家)艾未未(アイ・ウェイウェイ)、Chim↑Pom from Smappa!Group、グランギニョル未来、ニコラス・ハーシュ&ホルヘ・オテロ=パイロス、エヴァ&フランコ・マッテス、宮永愛子、アーメット・ユーグ、トレヴァー・パグレン、タリン・サイモン、竹川宣彰、竹内公太   以上12組
(キュラトリアル・コレクティブ)Chim↑Pom from Smappa!Group [発案者] 窪田研二、ジェイソン・ウェイト、エヴァ&フランコ・マッテス   以上4組
(実行委員)Chim↑Pom from Smappa!Group(アーティスト)、藤城里香(無人島プロダクションディレクター)、窪田研二(キュレーター)、緑川雄太郎(アートディレクター)、椹木野衣(美術批評)、竹内公太(アーティスト)、ジェイソン・ウェイト(キュレーター)、山本裕子(ANOMALYディレクター)
以上8組

他機関との連携

2023年度はコラボレーションが⼤幅に拡⼤し、研究が深まった。
•イノシシ•プロジェクト(チェコ共和国):7台のフィールドカメラが寄贈された(現在は10台のカメラを設置中)
•The Earth Species Project(アメリカ):現地に⾶来する⿃と渡り⿃を識別するために開発したAIアルゴリズムを使って、現地に⽣息する⿃の個体数を初めて分析した。
•沖縄科学技術⼤学(OISTG):新たな共同研究により、新たに 20本のフィールドマイクを購⼊し、現地に設置することで、科学者たちは、現地にどのような種類の⿃がいるのか、いつ活動するのかを分析し 、環境がどのように変化しているのかをより幅広く理解することを⽬的としている。
•ソウル⼤学造園学部:会場敷地内のCADマップを作成し、カメラで撮影した結果を地図上にプロットすることで、動物が会場内をどのように利⽤しているかを視覚的に表現する

活動の効果

活動⽬的の①については、海外から科学者(The Boar Projectのキーラン•オマホニー⽒)を招聘し、共同研究の成果として学術論
⽂が執筆された。
②については、現在進⾏中の状況に対する認識を⾼めるため、国内外での巡回展を続けた。「ノン•ビジター•センター」と題され た展覧会は、Don't Follow the Windが開発した新しい3チャンネルのビデオを中⼼に構成され、過去10年間の⽣態系と景観の変化を紹介した。この映像には、地元住⺠や科学者のインタビュー、Don't Follow the Windのサイトでのフィールドカメラの共同調査による最近の映像などが含まれている。2023年度は2つの新しいノン•ビジター•センターがオープンした。ひとつはドイツの Kunsthalle Giessenで、地球上の⻑期的な変化を⾒つめる共同展(2023年7⽉)の⼀環として、もうひとつはインドのニューデリーにあるポリネーター(Pollinator)での『Don't Follow the Wind』の個展(2024年2⽉)である。『Don't Follow the Wind』はインドの⼀部の美術学校でカリキュラムの⼀部として教えられているにもかかわらず、インドで展⽰されたのは今回が初めてだった。現 地の観客の関⼼も⾼く、多様な観客が⼤いに盛り上がった。
③について。会場の⼀部が除染対象区域となったことで、これまで以上に密に地元協⼒者の⽅々と今後についての対話の場を多く持って、将来的な活動についてさまざまなことを共有することができた。

活動の独自性

2011年以降、一般の人が立ち入ることができなくなった区域で活動を行い、この数年は人間以外の動物の調査を、海外の研究者とコラボレーションしながら進めていけるのも、2015年以来ずっと帰還困難区域内で作品を展示し続けそのための環境を整え、状況を世界に発信し続けたことによって得られたものである。外からはとてもわかりにくい活動ではあるが、地元住民、科学者、アーティストによるこの異例のコラボレーションは、このプロジェクトが現在の生態系をより深く知るために、そして未来に伝えるためのユニークな方向性だと考えている。

総括

前述の活動以外として、2023年度には2つの大きなワークショップを開催した。ひとつは、福島の地元住民、猟師、森林管理者、そしてDon't Follow the Windと共同研究者たちによるワークショップである。
このワークショップでは、この森で何十年も過ごしてきた住民とフィールドカメラの映像を共有した。このワークショップは、Don't Follow the Windがどのように多様なコミュニティと協力し、この地域の将来の人間や人間以外の住民についてより広く考えるための研究を行ってきたかを、地元住民に初めて知ってもらう機会となった。住民たちにはかつて彼らが歩き回っていた森に移動してきた動物たちの映像を初めて見ることができ、また環境の変化について理解を深めていただいた。科学者たちは、2つの新しい動物がこの地域に生息するようになったことを発見することができた。地元住民、科学者、Don't Follow the Windのメンバーが相互に知識を共有・創造することで、より多くのデータで裏付けされ、学術誌にこれから発表されるだろう。将来的には、住民の帰還が始まるにつれ、そしてDFWの次の会場が公開されるときにこれらの知識と記録の蓄積は非常に重要になると考えている。

  • 2023年12月、会場を提供くださっている協力者の方々と会場を視察

  • 2023年12月、会場を提供くださっている協力者の方々と会場を視察

  • 2023年12月、会場を提供くださっている協力者の方々と会場を視察