活動の目的
当法⼈は2011年に発⾜。「スキだらけのまちづくり」をコンセプトに掲げている。地域やヒト、団体の「スキマ」を様々な取組で埋めたり、時に地域の余⽩を広げることで地域への愛着を増やす取組を進めている。無⼈と呼ばれるエリアに住む⼈々の「誇りの空洞化の解消。誇りと愛着の再認識」を⾏うための芸術祭の開催を⽬指し、エリアに住む⼈々が⾃発的な取組を⽣み出すことをミッションとしている。その先で、関係⼈⼝や移住者の増加を⽬指す様々な取組を⾏っていく。「アート」の持つ様々な役割のうち、地域社会で作⽤する新たな可能性を⽰し地域再⽣の取組にアートが有効であるという新たな指標としていきたいと考える。
活動の内容
2018年より芸術祭の開催を⾏い、作家や来場者を地域が受け⼊れる⼟台が強固になりつつある。 2023年度も芸術祭の開催は2~3⽉の1か⽉程度とした。11⽉頃から作家がエリアに⼊りリサーチと作品制作を⾏った。参加作家は継続参加作家と公募による作家とし、サイトスペシフィックな作品表現や、集落のリサーチや住⺠との関わりの中から ⽣まれていく作品とした。公募においては1か⽉~1か⽉半程度のレジデンスプログラムを⾏った。会期に合わせて同時開催する「アートプラット/⼤井川」は市⺠の⽂化プログラムでありこちらも幅広く募集しプログラム構築から相談対応を⾏って実現に向けて背中を押していく。また、ゲストハウスを活⽤した2泊3⽇でのアート研修の受け⼊れを行った。
参加作家、参加人数
19作家30作品(イベント・パフォーマンス含む)
<インスタレーション>東弘一郎・LEE ISOO・Instant Coffee・上野雄次・内田慎之介・形狩りの衆・木村健世・小山真徳・佐藤悠・さとうりさ・獅子の歯ブラシ×女子美術大学・泰然+きみきみよ・TAKAGIKAORU・中村岳・ヒデミニシダ・前田直紀・力五山
<パフォーマンス> 前田直樹・上野雄次・森繁哉・かずさ
他機関との連携
島田市「アートによる地域づくり推進事業」、アーツカウンシルしずおか(支援)、島田市、川根本町、大井川鐵道株式会社(協力)
島田市観光協会とは協働して電動アシスト付き自転車によるアート鑑賞モニターツアーの開催を行った。
また資材提供等、島田市内の中小企業20社程度から様々な形での支援をいただいた。
活動の効果
①来場者数
第7回展となる今回の来場者は約4万5千人に上り、全国各地に加え、海外からの来訪者もあった(韓国、台湾など)。前回を大幅に超える来場者数であり当芸術祭の知名度が高まっていることを感じた。加えて近隣集落からの来場者も増えた。域内の温泉やスーパーなど様々な場所で個別の作品や芸術祭の話題があがる機会が多く、複数年の取り組みを通じ地域全体における取り組みの浸透を実感した。
②サポーターの増加
サポーターは通年での地域活動や制作活動への参加を踏まえると約50名増加した。地域団体や地域住民だけではなく、全国各地から複数回参加するサポーターの姿が印象的であった。また、新たな層へのアプローチとし、2泊3日での県外大学生を対象としたショートインターンの受け入れを行ったところ、首都圏を中心に14名の参加があった。美術関係学科だけでなく地域づくり、歴史、人文学等の様々な学部からの参加があり、当プロジェクトが分野を横断した1つの学びの場としての可能性を感じることができた。
③地域の変化
地域住民有志を中心に構成される「抜里エコポリス」は、ほとんど全ての作家の制作の手伝いに関わり、そのスタンスと制作チームとしての力量なくては芸術祭ができないほど重要な位置を占めはじめている。「作家の意図を尊敬の中からくみ取り、手を出し過ぎずに制作協力を行う」「共に食事をし、関係を深めることで、作品と作家への理解を深め唯一無二の信頼関係を構築する」このことは作家にとっても良い影響を及ぼし、地域に入り、自身の代表作品と呼べる作品を作り上げることのできた作家もいた(小山真徳「てのひら」など)。アートがわかる/わからない以前に人と人の関係を紡ぎ、それが作品の完成度に作用することがアートによる地域づくりの根幹となっていく場面が多く見られた。
④作家、作品、制作について
今回は19作家、30作品の制作展示となった。(パフォーマンス・イベント含む)
小山真徳「てのひら」は2か月かけて当地での滞在制作を行った。制作にはスタート時からエコポリスと協働の中でスタートし、作家が意図する形や制作手法を理解した上で試行錯誤の中制作が進んでいった。エコポリスは制作当初から制作チームとして作家に信頼され、意見を出し合いながら制作が進んでいった。今回特筆すべきは、作家⇔地域との関わりの強さから生まれるものはこれまでも多くあったが、作家⇔作家のコラボレーションや支援の動きが見られたことである。
小山作品は開幕前夜、徹夜で朝までの作業となった。その際には同じく参加作家である上野雄次と東弘一郎が仕上げの手伝いを自発的に行っていたり、森繁哉の公演会場がさとうりさ「くぐりこぶち」で行われたり、前田直紀と上野雄次のパフォーマンスが実現したり、かずさ「碗琴道島田流」のパフォーマンスを、小山真徳「てのひら」や中村岳「訴求空間」で行ったり等のコラボや協力体制が生まれていったことである。
レジデンス施設「ヌクリハウス」での滞在の中、作家同士の交流や制作に触れることで作家同士の関係やリスペクトの気持ちが生まれていく場面が複数あった。
このことは、ゲストハウスに作家だけが滞在していても起こる現象ではなく、媒介役としてのエコポリスの存在が大きいものと感じる。エコポリスがいることで単独で制作を行う作家も「寄り合い」の場に参加しやすくなり、媒介の存在があることで作家同士も交流と理解が促進されていった。エコポリスが作家同士の媒介役としての役割を意識せず自然に行うことができるよう、我々はコーディネーター役として、黒子として場を回すことを徹底した。
活動の独自性
「無人」というキーワードのもと、人が減ることで、手が入らなくなる場所やコト(空き家や空き店舗、耕作放棄地、祭り、無人駅など)が、当芸術祭によって、新たな価値を見出すことができたと言える。そして、アーティスト等と地域住民との関係性の深さや信頼関係の強さは印象的であった。主体的に制作に参画する住民たち、福岡から毎月足を運ぶサポーター、年間を通じて農作業に関わるアーティストなど、無人とよばれる場所で人と人とが関わるプロジェクトへと成長した。7回展を経てアートプロジェクトを活用した「地域の土台作り」として大井川流域住民が誇りを取り戻すことに寄与できたといえる。地域住民とアーティストがこれだけ関わりを持つ芸術祭はないといえ、同時に、新たな地域芸術祭の姿として一つの到達点に辿り着くことができたと考える。
今後は、「地域とアートが地続きに接続されたコミュニティづくり」を目指し、イベントにとどまらない活動へと発展させていきたいと考える。アートの本質を、住民の営みと地域活動の実践として捉え、大井川流域における学びと参画の場の創出に取り組んでいきたいと考える。地域活動にアートを効果的に活用する、作品の発表だけでなく制作の過程での多様な人材の参画に、作家の成長や地域コミュニティの変化が見られること、これらの特徴を今一度整理し、来場者数や作品の規模ではなく独自の、新たな地域芸術祭としての価値を今後につなげていきたい。大規模な国際芸術祭や地域芸術祭が数多くある中、我々が行ってきた「UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川」の特徴と実績を可視化した上で今後の「アートを活用した新たな地域再生への取り組み」を模索していきたい。
今後の実践に当たっては、7年の間に積み重ねることができたものは数多い。作家と地域、作品と制作プロセス、作品づくりのノウハウ、管理手法、耕作放棄地や空き家等地域の荒れていく場所の活用方法、作家選定ノウハウ、作品プランづくり等々、半農半アート等生み出すことができたものは多いと感じる。また一方、芸術祭イベントの開催における来場者数や作品の規模だけにとどまらない、関係性の深度、誇りなどの指標作りについても検討をする必要があると感じる。また、プロジェクトの実施体制(組織体系、運営資金、開催頻度、支援者の確保など)の課題が多い。それらを踏まえ、今後の静岡県の地域における文化芸術の在り方、接続の方法を考察するとともに、未来に向けた地方部のロールモデルづくりに向けて活動したいと考える。地域づくりの視点は元より、文化創造都市(地域・街)という視点において静岡県中部エリアで何ができるかを模索したい。
総括
無人駅を現代社会の象徴と捉え、アートを手法に地域をあらわし発信するプロジェクト「UNMANNED 無人駅の芸術祭/大井川2024」(以下、無人駅の芸術祭)が2024年3月17日をもって閉幕した。7回展となる今回は19組の作家による合計30の作品を制作展示し、各イベントプログラム等を開催した。会期中は全国各地に加え台湾や韓国といったアジア各国からも多くの来場者があった。
作品会場及びパフォーマンスの舞台は、大井川流域に位置する島田市及び川根本町の計4エリアにて会場を設定した。作品数の最も多い抜里エリア(集落全域)を中心に、島田エリア(島田駅前通り、川越し街道)、金谷エリア(大井川鐵道代官町駅・日切駅、KADODE OOIGAWA)、川根本町エリア(三ツ星小学校、青部地域)となった。設置場所としては、無人駅ホームや駅舎、空き家や空き店舗、耕作放棄となった茶畑や竹藪、農作業小屋などが主な会場となった。地域における様々な遊休空間が芸術祭と共に蘇り開示されていく点が特徴であった。
アーティストによる作品表現においては、大井川流域の様々な資源が軸となり、大井川や茶畑の雄大な風景など土地の持つ力を表現する作品や、地域の人々の記憶や伝承など集落に生きる人々が介在する作品が創作されていった。いずれの作品も大井川流域の土地に根差した「ここでしか表現することのできない」作品となった。
作品制作の過程においては、地域団体をはじめ、多くのサポーターや住民に協力をいただいた。特に抜里エコポリスにおいては、芸術祭を動かす重要なエンジンとなっている。作品会場の検討から作品の土台や制作をチームとして進める姿や、会期を通じた作家や来訪者との関わりには感動をおぼえる。県内外のサポーターは、通年での地域活動の作業に参加するとともに、作品制作への参加や会期中の運営など、地域住民との交流を楽しみながら参加する姿が印象的であった。
今展での特徴的な取り組みを三点あげる。
一つは、東アジア文化都市2023静岡事業に関連した韓国アーティスト3名2組の参加である。約1ヶ月にわたる2回の滞在制作において市町内の小中学校等でのアウトリーチ活動などを実施した。受け入れ側となる地域において初の海外アーティストであったが、幅広い交流とともに滞在から制作への支援が行えた。多様な人材を自然に受け入れる地域土壌づくりが複数年での芸術祭の取り組みを通じた成果であると考える。
二つに、関係人口事業を通じ抜里地域で受け入れを実施した、女子美術大学によるフィールドワークの成果発表の場を芸術祭にて設定した点である。学生たちのリサーチ滞在の場面において、数十年の間、表に出ることのない「獅子頭」と出会った。各人の制作とは別に「獅子頭」への調査を行うとともに、住民とともに復活の演舞を実施し映像に記録した。地域に眠っている資源の再発掘に創造的な視点を持つ異分子が入ることの意義を痛感した。
三つに、地域課題に対する発展的な視点である。耕作が放棄された茶畑を活用したアート作品が多数登場してきた点である。小山真徳「てのひら」、ヒデミニシダ「音の要塞」、TAKAGI KAORU「抜里の茶畑に花を咲かせる」などは、広大な茶畑の刈り取りや整備を複数日かけて地域住民や県内外のサポーターとともに実施をした後に作品制作へと入った。また、東弘一郎「茶畑のサイクリスト」、さとうりさ「縫い合わせ」など、茶畑に対する新たなアプローチをアートにより実践することができ、同時に作品の設置を快諾した地域における当取り組みへの信頼と理解の深度を実感することができた。地域の枠を越え、県内外各地から、通年で一年に何度も茶畑への作業に参加する多くの人々の姿をみると、耕作放棄茶畑は地域課題とは言えない。多様な人々が集い、交流し、活動する重要なフィールドであり舞台へと変化したのだと痛感する。
当芸術祭の7回にわたる開催を通じ、アートの先で地域への再発見を導くことを主目的とし「無人駅エリアの風景や人の営みを開示する」という点において1つの到達点に達することができたと考える。なにより、「抜里エコポリス」をはじめとした住民の変化、アーティスト達との絆、そして多様な人々の行きかう集落の変化は芸術祭をはじめた7年前からは想像もできないような目覚ましい変化を遂げている。
今後は、より民俗学の視点を有した取り組みへと変化させ、大井川流域の集落から生まれ集落が動かす新しい地域芸術の姿を模索したいと考える。大井川の持つ特異性とともに、地域農業、コミュニティ、四季折々の風景への道しるべという地域の「日常~ケ」にアートが存在し、アーティストという人間が地域に混ざっていく姿を目指してく。
確かに人は減っていく。減っていくから地域は消滅するのか。我々はそんなことはないと断言する。現代社会が効率化、スピード化の先で捨てていくもの、数値や既存の価値の中で“お荷物”的存在になっていくもの。アートによりそれは日本全体にとっての新たな価値となり無人と呼ばれる地域がひらいていく姿は1つの奇跡と呼ばれるかもしれません。我々はこの希望のプロジェクトの歩みを止めることなく進めていきたいと考える。