アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

葦の芸術原野祭

葦の芸術原野祭実行委員会

実施期間
2023年8月4日~2023年8月19日

活動の目的

当団体は、知床の抱える課題の解決、及び地域の文化振興に寄与すべく、知床に固有の文化、風土、自然環境そのものに対する世界観を様々な手法で表現し、広く発信することで、古くから持続する文化と新たな創造性とが地続きに融和することを目指します。 「葦の芸術原野祭」では、アートによる地域文化振興を目指し、知床半島に脈々と続いてきた人々の文化的な営みを、創造的、多角的な視点でとらえなおし、多様な表現をすることで、地域の魅力を再発見していきます。

活動の内容

2023年、参加や出会いがあり、引越していく人や閉店してしまうお店があります。こんにちはとさようならが、葦芸にとっても当たり前のこととなり、またその尊さを噛みしめられるようになりました。祭典という非日常を超え、日常に溶け込んでいく挑戦の一年になりました。場所をうつろい、人々をいざなうプログラムを実施しました。

1.パフォーマンス
■町民を対象に、タンスで眠っている古いハンカチを集め、一連のガーランドに縫いつなぐパフォーマンスを行いました。
■セザンヌの斜里岳@川村邸~北暦の原野
画家のポール・セザンヌが山を描く際の態度に着想を得て、山に向き合い、山へ分け入り、山と一体となる人間の姿を言葉と音によって描いた野外劇。1年をかけて作られた建物から始まり、斜里岳を望む草原へと観客をいざなう移動型の発表でした。
■前作に続く『葦の波part2』では、おもいでうろうろプロジェクトでお預かりした思い出の品とその持ち主を紹介するシーンや、斜里町という場所を想って生み出された「斜里ラップ」が披露されました。全回満員となりました。

2.展示
■地域作家による作品展示では、葦の芸術原野祭に向けて作られた新作や、これまでに制作された作品が旧役場庁舎に集いました。
■毎年お盆をまたぐ形で開催されている葦の芸術原野祭で、写真家であり狩猟者の川村喜一によって弔い、祈るような空間展示が行われ反響を呼びました。
■中山よしこらがオープンした「ヒミツキチこひつじ」にて、黒木麻衣が斜里町を想って描き上げた数多の新作を発表しました。

3.参加型プロジェクト
■初年度から継続している「おもいでうろうろプロジェクト」2023では、133点の思い出の品が集まりました。
■おはなししゃぼん玉による紙芝居
民間サークル「おはなししゃぼん玉」によって、子どもたちのために大型紙芝居が披露されました。
■気のいいアヒルによる朗読をはじめとしたプログラム「あしげいラジオ」
「語り継ぐ女の歴史」という伝記集の一節が読まれたほか、実行委による対話が会場内で放送されました。
■服づくりワークショップ
「しゃりコレ」とのコラボ企画で、端切れや古着を活用して、子どもたちが思い思いの洋服作りに挑戦しました。
■だれかのどこか×斜里高校
斜里高校の生徒8名と先生が街に散らばって集めてきた無数の映像をランダムに繋ぎ合わせて完成した映画『斜里(2023年のだれかのどこか)』を期間中、会場で上映しました。
■シレトコノオト
質問が書かれたくじを引き、自分なりの答えを短冊に書くというプロジェクトです。
町内外にかかわらず、多くの方にご参加いただきました。


初年度に掲げた通り、葦の芸術原野祭は人々の交流を生み出し、そして予想を超えて、たくさんのものをもらい受けて成長しました。量が厚みになり、確たる厚みによって物語ることができると信じて次へと進んでいきます。


実施までの流れ
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2023年3月  「葦の芸術原野祭2023」のHPを公開
2023年5月  斜里町公民館での町民交流企画「しゃりコレ」とコラボし、ワークショップを実施
2023年5月  葦芸オリジナルパフォーマンス作品「葦の波 part2」の制作を開始
2023年6月  斜里高校でワークショップを実施
2023年8月  「葦の芸術原野祭2023」会期
   

参加作家、参加人数

12日の開館で 768名の来場者数を記録し、そのうち98名がリピート来場でした。
全体数のうち6割が町内、4割が町外からの来場であり、未成年者の合計は49名でした。
「おもいでうろうろプロジェクト」の参加者は133名となり、公演観覧者は199名となりました。

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参加作家一覧

川村喜一、川村芽惟、今野裕一郎、黒木麻衣、中山よしこ、小林大祐、橋本和加子、松本一哉、坂藤加菜、船木大資、真青果てな、岩村朋佳、大森英晶、Airda、山田涼子、中條玲、本藤美咲、佐々木恒雄、あかしのぶこ

他機関との連携

「土地の声を継承し、今を生きる多様な表現者によって、今日の文化を築くこと」を理念に掲げ、他機関との連携を図りました。
・知床博物館の協力のもと、郷土史の価値啓発
・斜里町立図書館との共同展示
・本芸術祭を通して斜里町への移住を促進し、地域おこし協力隊へ
・斜里町における交流と表現の新しい拠点となる「北暦」との連携
・姉妹都市である弘前市の文化振興課との意見交換
・斜里町立公民館との連携、ワークショップの開催

活動の効果

3年の継続開催を経て、町内では芸術を広く柔らかく受け止めようとする風向きを作ることが実現しはじめています。来場者の声を積極的に聞き、初年度にいただいた「よくわからない」「変わったことをしている」という印象、そういった意見から、「わからなくてもいい」「おもしろい」と言ってくださる方が増えました。理解することが全てではなく、会話や参加を通して異なりを尊重する交流を起こせていると確信しています。また、本芸術祭の実行委として参加してきたメンバーのうち二人が移住し、地域振興の一環としてアートを取り入れた福祉活動に携わっています。このことを、未発見の地域課題を認識できる機会・公的施設や行政のあり方にも好影響を与えられる機会であると捉えています。

活動の独自性

1.固有性 ~知床の声を語り継ぐ~
 世界自然遺産として知られる知床半島ですが、その文化的側面はあまり知られていません。知床・斜里町にはかつてより人々の暮らしがあり、海洋漁猟を生業としたオホーツク文化、アイヌの文化、開拓の歴史など、厳しくも雄大な風土のなかで培われた文化的な価値が根付いています。一つの歴史観では捉えることのできないこの文化的地層は、語られてきたもの、あるいは語られなかったもの、失われゆくものを含みながら、今日を生きる私たちの地平に種々の芽吹きを与えています。

私たちは、このような土地の歴史と文化に敬意を持ち、その固有性を何よりも大切にしています。
あしげいにとって重要なのは、「手付かずの自然」や「額に入った絵画」ではなく、ここで私たちが育てるもの、収獲するもの、作るごはん、肌で感じ、心に抱き、放たれる声です。

あしげいの会場となるのは、この町のシンボルとして100年近く人々に愛されてきた「斜里町旧役場庁舎=旧図書館」です。老朽化のため使われていなかったこの建物を活用するなかで、再びこの場所に人々が集い、記憶や想いがめぐるようになりました。

 空っぽの建物を大きな樹洞(うろ)に見立て、人々の思い出の品を展示する参加型プロジェクト「おもいでうろうろプロジェクト」では、「樺太の地図」といった歴史的なモノから、「お父さんのトラクターの模型」といった何気ない日常を慈しむモノまで、老若男女が様々な想いを持ち寄り、大きな歴史には残らない郷土史や個人史が綴られています。




2. 対等性 ~表現者は生活のなかへ、生活者は表現のなかへ~

あしげいは、「地域に生まれ育った者」、「移り棲んだもの者」、「外部からやってくる者」という立場の異なる三者によってつくられています。
地域内外の有志が情熱をもって集まり、対話を深めながら、企画と運営、創作と発表を一体的に実践していることがあしげいの特徴です。
この三者三様の立場を尊重し、対等な関係のもとに生まれる創造性を大切にすることが、あしげい2つ目の理念です。
芸術祭の運営を通して、アーティストは一過性の巡回展や地方公演に留まらず、長い時間をかけて町の人々との交流を深め、いつしか友人のように、「生活」のなかへと浸透しています。
一方、地域の人々は、芸術祭を通じて、生まれ育った風土の素晴らしさや特異さを再発見するように、「表現」のなかへと踏み込んでいます。
あしげいを続けてきた中で、地域のおはなしサークルの方々が自発的にみずからの過去を語り始めるようなシーンが生まれてきています。
「アーティストと地域住民」、「地元とよそ者」といった差異を尊重しながら、それを飛び越えていくあしげいというフィールドには、「すべての営みが表現である」ことを発露させる可能性が広がっています。

総括

今年を含めるこれまでの三年間は、この先の葦の芸術原野祭が、知床斜里という土地から発信していく新しい文化活動を始めるための足掛かりでした。
これからの三年間ではこれまで街に住んできた人たちや出会った人たちと作品を発表したり、活動をさらに道東へと認知してもらう次のフェーズに入っていく時間になります。このあしげいという活動は、過去も現在も未来も手放さないでこの土地で生きていく文化活動の可能性を追求するためであり、そこに向けて継続するべきだという手応えがあります。
人間の一生は80年近くです。
一人の人間の歴史よりもとてつもなく長く土地は残っていきます。この土地に生きる人間や生き物たち、植物が、自然が、この先も続いていく時間を夢みてあしげいが繋げていきたい文化というのは、一つの命が持ちうる可能性とその他に存在している各自が育んでいる文化が尊重されたまま出会い、価値観を認め合って共に生きていけるのかという普遍的なテーマを持った願いのようなものです。土着的なもの、移民的なもの、異なる土地で生きるものとが交流を行いながら文化的な発展を継続していく可能性を提示する新たな芸術祭の確立を目指しています。
・Quality(質)ー歴史
・Accessibility(近づきやすさ)ー現在
・Possibility(可能性)ー未来
全てを離すことなく、すでにいたものたち、外からやってきたものたち、外からやってくるものたちの立場を尊重して活動していきます。

  • 『葦の波 Part2』の二回目の公演が行われました。『葦の波 Part2』は岩村朋佳、川村喜一、川村芽惟、黒木麻衣、今野裕一郎、坂藤加菜、中條玲、中山よしこ、橋本和加子、松本一哉、本藤美咲(敬称略)によって行われています。また、昨年のPart1に参加していた加賀田直子のシーンが引き継がれ、斜里という街で交錯する、いくつもの存在と不在が立ち上がります。上演は、野外→1階→2階という3部構成のツアー形式で行われます。2部の最後には、中山よしこによる「斜里ラップ」が披露され、斜里で生まれ斜里で育った彼女による、斜里への愛憎のこもったリリックに胸を打たれたという感想が殺到しました。実行委員たちがこの地で経験した出来事や思考が折り重なった他にない舞台となり、全日程とも満席となりました。

  • バストリオによる『セザンヌの斜里岳』を遠隔会場にて上演しました。野外劇のため、前日まで天気予報とのにらめっこが続いていましたが持ち堪え、濃ゆい雲の向こうに斜里岳を想像する上演となりました。過去に開拓しようと生きた人/これから場を拓こうと生きる人の土地である"川村邸~北暦の原野"に、総勢30名以上のお客様が集まり大盛況のうちに幕を下ろしました。

  • 一階の「どうわのへや」ではぬり絵のできるお絵かきコーナー、岩村朋佳制作の流木でできたおもちゃなどがあり、子どもたちの遊び場になってます。この日は子どもたちがここでぬり絵をしている姿を見ることができました。また、この「どうわのへや」では音楽家の松本一哉とその友人である斜里出身農家の大森英晶、そしてあしげい実行委員総出による参加型展示の「シレトコノオト」が行われました。二人が考案した100の質問が壁一面に貼られています。来場者はおみくじを引いて、そこに書かれている質問に答えます。北海蔵の七夕が8月であることに因んで、回答は短冊に記載し、流木でできたオブジェに結びつけるというものです。老若男女に関わりなく、誰もが参加しやすいプロジェクトの一つとなりました。