アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

熊本地震で損壊した田中憲一作品を修復して御船地域の文化復興を牽引する事業

熊本地震 田中憲一の画を救う会

実施期間
2023年4月10日~2024年3月23日

活動の目的

熊本地震で被災してから6年8カ月かけて修復活動を進め、被害がひどかった田中憲一の油彩画の代表作最後の5点の修復が完了した。それらの作品を千葉のIWAI ART保存修復研究所から熊本の御船町に安全に持ち帰るのが今年度の一番の目的である。無事に運んで、御船町で作品の「帰郷展Ⅱ」を開催し、作品が甦って帰郷したことを地域に伝え、町民に紹介したい。作品の帰郷を祝って、田中氏ゆかりの地域の芸術家の作品展も同時に開催する。御船町の美術・文化の歴史をたどる「フットパス」は、コロナが落ち着いたので町外からも参加者を募り、開催し地域の魅力を伝える。

活動の内容

1 IWAI ART保存修復研究所に行き、修復が終わった被災油彩画5点を確認し、御船町に運送する日程の打合せを行う。
2 作品を御船町に運び、代表作が見事に甦ったことを伝えるために、御船町カルチャーセンター・ホワイエで田中憲一修復作品「帰郷展Ⅱ」を行う。
3 被災作品の“帰郷”を歓迎するために、御船町の芸術家による「御船町美術・工芸協会展」を同時期に開催する。
4 御船の美術をテーマにした学習会「田中憲一と私」を開催し参加を呼び掛ける。
5 御船町に残る美術品や文化財を巡る「フットパス・知明少年の通学路を歩く」を開催、コロナが落ち着いてきたので高校の校舎内に入り浜田作品や田中作品を紹介する。

参加作家、参加人数

1 絵画保存修復家・岩井希久子、岩井貴愛
2 「帰郷展」&「美術工芸協会展」出品作家:田中憲一、吉田都基子、福永幸夫、輝功、竹田津純、渡邊ヒデカズ、髙田一道、津金日人詩 来場者:209人/4日
3 学習会「田中憲一と私」 講師:竹田津純 参加者:47人
4 「フットパス」 スタッフ:10人、参加者:14人

他機関との連携

IWAI ART保存修復研究所、御船町、御船町教育委員会、御船町文化協会、御船町観光協会、熊本県文化協会、熊本日日新聞社、TKUテレビ熊本、(一般社団法人)アートネットワーク熊本みふね など。

活動の効果

熊本地震の後、保存修復家の岩井希久子氏が来熊され、作品の応急手当を実施。被災油彩画150余点の最後の修復が昨年度までに終了し、御船町へ運送し「帰郷展」開催。いまだ復旧半ばにある御船町民をはじめ多くの人々に修復して甦った作品を見ていただくことができた。会場の都合で4日間開催だったが、TVや新聞報道もあり、地震からの復興を感じ、美術作品や文化財の修復・保全という活動を理解していただく機会になった。

活動の独自性

地震で全壊したアトリエから地元画家の作品150余点を救出し、修復して「地域の宝」として保存・展示して未来に伝えようというプロジェクトであり、公的な支援がない中、被災した地域住民有志と駆けつけた専門家が一緒になって活動を始め、8年後の現在も継続している。それは、これまでこの地域で細々と取り組んできた地域の芸術文化の再興と美術による地域の振興を推し進めることになった。被災した重要作品のほとんどの修復・保全が、多くの個人・団体・企業などからの協力を得て、完了した。それらを展示・紹介し、いろいろなイベントを続けながら、地域の美術文化への関心を高める活動を行っている。

総括

熊本地震 田中憲一の画を救う会は、2016年7月に熊本地震の震源地の一つである御船町で、地震で全壊し雨曝しになった地元作家の故・田中憲一のアトリエの油彩画を修復して、「地域の宝」として未来に伝えようと結成した。田中憲一は晩年、地域の芸術文化の再興の活動を熱心に行い、没後は地域住民や教えを受けた人たちで「遺作展」が開催され、作品のデータを作成・保管し、作品は作家の自宅アトリエに収納していた。2016年7月から2023年3月までの活動で、被災した作品の中で重要な作品のほとんどが絵画保存修復家の協力で修復され、この間「アートによる地域振興助成」も受けることができ、「熊本地震被災作品公開修復展」や「被災/レスキュー展」等で活動を紹介しながら、地域では定期的な「御船の美術・学習会」の開催や地域の美術品や文化財を巡る「御船町フットパス」などのイベントを継続してきた。これからは、まずこの7年間の活動のまとめとして「熊本地震・被災作品・修復報告展」の開催と『報告書』の作成をめざし、さらに地域活動に取り組んでいく予定である。

  • IWAI ART研究所で、作品輸送の打合せ

  • 御船町で田中作品の「帰郷展Ⅱ」を開催

  • 「フットパス」で浜田知明が学んだ御船高校へ