アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

イミグレーション・ミュージアム・東京

特定非営利活動法人 音まち計画

実施期間
2023年4月1日~2024年2月29日

活動の目的

美術家の岩井成昭が主宰するIMM東京(2010年~)は、地域に居住する海外にルーツをもつ⼈びととの交流を通じて企画されるアートプロジェクトです。地域に暮らす彼∕彼⼥らの⽣活様式や⽂化背景を紹介するとともに、それが⽇常の中で変容していく諸相を「適 応」「保持」「融合」という3つのキーワードから探ってきました。本事業では、活動を通して多⽂化社会を知り、考え、参画していくためのプラットフォームの形成を⽬指し、⾜⽴区の多⽂化化について考えていくきっかけづくりを⾏っていきます。

活動の内容

今年度は、昨年度に引き続き⾜⽴区内の⼩学校を対象とした多⽂化社会に触れる「アート•エデュケーションプログラム(EDP)」 を2校(中川北⼩学校•⿅浜第⼀⼩学校)と、中学校1校(扇中学)で実施した。⼩学校では、各校で1限⽬から5限⽬まで連続したプ ログラムとして設計することで、⼩学校を1⽇限りの「イミグレーション•ミュージアム」として⾒⽴てた。中学校では、美術部の協
⼒により、美術部の活動⽇(毎週⽕曜⽇)に4⽇間通い、毎週異なるワークショップを⾏うプログラムを実施した。
⼩学校で実施したEDPでは、4つのステップで構成したプログラムを実施した。(1)IMMの趣旨説明や⾃分のルーツを伝える⾃⼰紹
介、(2)⼀般社団法⼈アプリシエイトアプローチによるアートカードや既存の美術作品の画像を使った対話型鑑賞、(3)フィリピン出⾝のアーティスト、ラルフ•ルンブレスによる「システム•トライアングル」という、つながりのある役割や職業のひとと正三⾓形にな るように距離を保ちながら動くアクティビティを⽤いたフット•ペインティング、(4)(1)から(3)を振り返りながら1⽇の体験をリーフ
レットにまとめていくワークショップを⾏った。
中学校では、美術部の協⼒のもと、2⽉に毎週⼀回の部活動の時間を使って、アーティストのクロエ•パレとともにアート•ワーク ショップを4回実施した。4回のワークショップでは、厚紙に『鉱物』に模した模様をレーザーカッターで切れ⽬を⼊れたオリジナルキットを⽣徒⼀⼈ひとりに配布。⽣徒たちとのディスカッションを通して鉱物のもつ特徴に紐づけ、⾃⾝や周りの⼈びと、周りの環 境、そして未来について思考する中で作品を制作した。

参加作家、参加人数

参加作家等:6名(小学校:(一社)アプリシエイトアプローチ4名、ラルフ・ルンブレス、中学校:クロエ・パレ)
参加人数:208名(小学校:138名、中学校:70名)

他機関との連携

足立区シティプロモーション課、足立区立中川北小学校、足立区立鹿浜第一小学校、足立区立扇中学校美術部

活動の効果

⼩学校の児童へのアンケート結果では、約95%が好意的な回答をし、教諭へのヒアリングにおいても「絵を⾒て何がいいのかを観る視点、初めはなかったけど⾒る視点が広がっていくのを感じとれた」(⿅浜第⼀⼩)や、「継続することで、⾃分の意⾒を持つ能⼒が伸びていくように感じた」(中川北⼩)といった評価をいただき、多⾓的な視野•思考を持つことや⾃⼰肯定感の向上へ寄与した 可能性が⽰された。また、中学校では「ただ⼀緒につくるだけでなく、つくる環境(⾳楽)や表現の多様性を知る機会になって、⼦どもたちにとって刺激になった」(扇中)といったように学んだことをアウトプットすることへの⾔及もなされていた。

活動の独自性

本事業の独自性はこのアートエデュケーションプログラムが、「文化芸術に触れる機会の少ない方々に演奏や表現を提供」に留まらず、内なる国際化がすすむ足立区において、対話型鑑賞によって国籍問わず個々人の価値観の違いに気づき、海外ルーツのアーティストによるワークショップなどの交流を通して、多文化社会について考える機会としているところに独自性を見出している。また、今年度は海外ルーツのアーティストと中学生がより多くのコミュニケーションが取れるように定期的に通う形態での事業も実施した。

総括

児童•教諭からの満⾜度は⾼く、教諭へのヒアリングでは、児童の⾃⼰肯定感の向上に寄与する可能性があることも⽰された。ただし、残念ながら今回のプログラムでは、多⽂化社会への理解に繋がったかどうかは判断できなかった。とはいえ、実施後に⼦ども達から⾃主的に海外ルーツのアーティストに話しかけにきて、⾃分のルーツ(フィリピン∕中国など)を紹介する場⾯も何度か⾒られたことで、海外にルーツをもつ児童の⾃⼰肯定感の向上に何らかの影響を与えた可能性は⾒てとれたことや、個々⼈の視野の広がりや⾃⼰肯定感の向上(個々の差異への肯定にもつながる)の先に多⽂化社会への理解へと繋がっていくと考えられることから、引き続き⼩学校•中学校と連携しながらプログラムの改善を重ね、多⽂化社会につながるプログラムとして⾜⽴区内で期待される事業として根付くことを⽬指す。

  • 対話型鑑賞プログラムの様子

  • 中学校でのアートワークショップの様子

  • 海外ルーツのアーティストワークショップの様子