アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

River to River 川のほとりのアートフェス2023

ya-gins

  • 群馬県,
  • 前橋市中心市街地(前橋市千代田町、住吉町など),
  • 2023
実施期間
2023年10月21日~2023年11月13日

活動の目的

コロナ禍からの地域の芸術文化活動やコミュニティの再興やアート関係者への支援、これまで前橋で行われてきた地域の人達とアートプロジェクトを通じて提示した問題や価値観を市⺠や街が継続的に支えること、前橋の歴史や文化の発信と活用、保存についての問題提起していくことを目的に、2021年より街を回遊しながら多様な作品を楽しむことができる「River to River川のほとりのアートフェス」を開催している。

活動の内容

前橋の中心市街地の歴史的建造物や文化芸術拠点6ヶ所に、前橋内外のアーティストを招聘して作品展示とグッズ販売を行った。
藤口諒太(会場:b)は、前橋市の主要産業の一つである養豚を取材しサウンドインスタレーションと、協力企業の製品を使った特別ランチを会期中限定で提供し、五感に訴える作品となった。西島雄志(会場:旧安田銀行担保倉庫)は、作家が県外から群馬へ移住し、培ってきた関係性の中から生まれた大型の動物をモチーフとした彫刻3点を展開した。煉瓦造りの暗い空間の中で、静謐な雰囲気をもった空間は、リピーターも多く訪れていた。糸井潤(会場:広瀬川美術館)は、作家のキャリア初期から折に触れて撮り溜めていた様々な形態のセルフポートレート写真をレトロな空間で一堂に展示した。MOMIKO(会場:ya-gins)は、作家自身が出産後に変化する生活の中でドローイングを多数制作し、一堂に展開した。平井陽子(会場:旧磯部湯)は、2013年度にアーツ前橋のプロジェクトの一環で制作された壁画(作:幸田千依)から発想を広げ、営業を終えた銭湯の空間に仕掛けを施した。アーティストトークと、県内を中心に場を持ち活動しているアーティストらによるトークイベントも開催した。

参加作家、参加人数

参加作家:藤口諒太、西島雄志、糸井潤、MOMIKO、平井陽子、ほか小作品展には過去の参加作家も参加
来場者数:全会場の延べ人数 3477人
10/29 トークイベント「場をもつこと/ゆるやかな繋がり」45 人
11/4「アーティストトーク 糸井潤/ 西島雄志 」50 人

他機関との連携

開催3回目ということで、旧安田銀行担保倉庫では、他団体による地域ゆかり作家や川の歴史に関する連携展示が行われた。期間を合わせて新たなアートイベント「上毛芸術線」も開催され、オープニングイベントを共同実施し、作家や関係者同士の交流も行われた。
特別協賛: SOWA DELIGHT
協賛:一般社団法人 前橋まちなかエージェンシー
協力(五十音順):アーツ前橋、アーツ前橋サポーター・グループ展 実行委員会、風と川のまち前橋史料館、神林興業株式会社、喫茶マルカ、近藤スワインポーク、上州文化ラボ、上毛芸術線実行委員会、白井屋ホテル株式会社、ハラサワコレクション、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち、前橋文学館、b、広瀬川美術館、べえす、ニャムコム、NPO法人マエバシ・アート・プラクティス、まえばしガレリア、安田煉瓦市実行委員会、らくだスタジオ、re/noma maebashi

活動の効果

日常的に足を踏み入れることができない歴史的建造物に足を運んでもらい、前橋の歴史や文化、前橋ゆかりのアーティストの活動を、本事業を通して知っていただく機会になった。他団体による連携企画も行われ、地域の歴史や文化に対して多角的なアプローチで知っていただくことができた。トークイベントは、県内の美術関係者や活動に関心を持つ市民と意見交換と交流が行われた。
他のアートスペースで若い作家が同時期に展示を行うなど、若手作家の紹介や育成に繋がった。また本事業をきっかけに他県の作家が前橋や群馬に関心をもちmapや榛名湖AIRなどでの滞在制作行うことや、アーティストが行うプロジェクトの継続と発展に繋がった。

活動の独自性

ya-ginsとしてこれまで12年程、継続的に活動してきた事により、商店街や地域の中でも少しずつ認知され、協力してくれる人や団体も増えてきた。現在の前橋では過疎や文化の衰退が大きくクローズアップされることはなく、むしろ民間主導での街づくりが活性化している。大手ギャラリーも前橋へ進出してきており、アートや建築の街として注目を集めている。そうした外からの刺激や変化も受けつつも、これまでの身近な関係性の中で、それぞれが経済的な規模は小さくとも主体性をもってDIY的に行ってきた、前橋というローカルな場所で生み出すことによる多元的な意義と文脈、そこから繋がり広がっていくものを大事にしている。
よって、会場と作家や作品のマッチングは考慮した上で、キュレーションとして強い方向性やテーマはあえて示さず、作家に会場そのものがもつ歴史や雰囲気、地域性、「River to River」というタイトルなどから、作家がその時一番表現したいものを展示やイベントとして形にしている。そうしたゆるやかな枠組みゆえに、来場者や企画・主催している我々自身も、これまで気づかなかった会場や地域に対する新たな可能性や知見を得ることができている。

総括

これまでの活動を通した関係性を活かして、アートイベントだけでなく他の文化活動や食やマルシェなどのイベントと連携して様々な活動をつなげる事ができた。
現在の前橋は、「めぶく。」をスローガンに、行政や民間企業によるまちづくりが活性化していて、ディベロッパーによる街の開発やコマーシャルギャラリーの誘致が行われている。前橋にいながら都心で評価されたアートに触れられる機会が増えた一方で、これまでの経済的には規模の大きくない地域活動や場所を押し流して、他都市と均一化していく不安も抱いている。そうした状況の中で、地域に根ざした小さな場や活動、ささやかでも豊かな関係性を結び、紹介する事ができたことは、地域の良さを再発見する機会としても必要なものになったのではないだろうか。
群馬県内ではそれぞれの地域で様々なアートの取り組みが行われているが、桐生と前橋を結ぶ鉄道を用いた「上毛芸術線」と連携したり、中之条ビエンナーレや榛名湖AIRの作家を招聘する事により、作家同士だけでなくそれぞれに関心をもつ来場者や関係者とも関係性を生み、広げる事ができた。
今年度より様々なイベントも復活してきて、コロナ禍からの地域の芸術文化活動やコミュニティの再興や支援という当初の目的自体は、一定の成果がありつつも役割を終えたと感じている。今後は、過去3回の活動を振り返ってまとめ、本事業で得た成果や関係性を持続可能な形で更に展開させていきたい。

  • 藤口諒太《養豚農場》Photo : Satoshi Mori

  • 西島雄志《間 ahahi》(左、部分)、《双瑞雲 sou-zui-un》(中央)Photo : Satoshi Mori

  • 拠点を運営するアーティストらによるトーク