活動の目的
本会は、畳を日本建築文化の核心と捉え、イグサによる畳文化の継承を大きな目的とし、備後地域発祥の中継表の技術継承も含め、備後藺表(備後地域産イグサを原料とした備後表)を地域協働で後世へ継承することを目的とし、様々な取り組みをしている。
今回事業対象とする町家(主屋と蔵)は江戸期創建の建築で、福山市鞆町重伝建内の伝統的建造物にそれぞれ特定されている。この2棟を借り受けて、2022年7⽉本会鞆事務所を開設した。この町家を必要最⼩限に改修しながら数年間維持・活⽤することで、将来の⼤規模修理を伴う事業計画に繋げることが⼤きな⽬標である。空家状態が続いて老朽化が激しかったが、使い続けることが建築保全継承の最も有効な⼿段と考え、地域伝統のイグサや備後藺表を介在させることで町家再利用を促進する。
活動の経過
借り受けから1年間以上、町家の掃除‧⽚づけを継続し、活動拠点整備を⾏ってきた。同時に、本事業着⼿前から建築調査‧実測を
⾏い、配置図、平⾯図、断⾯図、展開図等を作成した。福⼭⼤学建築学科の学⽣の協⼒で、いくつかの再利⽤計画案も提⽰された。
本事業助成の中⼼となったのは、当該町家と備後藺表への⼀般の関⼼を深めるために⾏った、古⺠家リノベワークショップ(以
下、WS)を含む2期間のイベントである。第1弾は6⽉23~25⽇の3⽇間「備後柿渋塗り&イグサハット製作実演」と題して開催 した。町家を会場に、WSや実演、町家⾒学会と共に、イグサ‧備後藺表や柿渋関連商品の展⽰‧販売も実施した。また本会会員が試 作した「イグサペレット」のお披露⽬もこの場で⾏った。第2弾として、9⽉22~24⽇の3⽇間「イグサ⼟壁塗り&古⺠家⾒学‧再 利⽤相談会」を開催した。地元の左官さんに指導いただき、⼀般向けに⼟壁塗りWSを実施した。イグサを装飾や繋ぎ材として壁⼟に混ぜる試みも⾏った。同時に、イグサにより広く関⼼をもってもらうため、バリスタと協働で創作した「イグサクリームソーダ」の 販売も⾏った。その他、畳のある町家空間を利⽤して、建築家による空家「再利⽤」相談会も開催した。
これらのメインイベント期間の他にも、随時町家を開放して、「⽣きている町家」⾒学会を実施した。11⽉28⽇には、「畳製作」の選定保存技術保存団体である「⽂化財畳技術保存会」の視察‧研修会場としても活⽤し、備後藺表の課題についても議論した。
活動の成果
掃除・片づけという基本的な建築維持活動や見学会を実施しつつ、事業年度を通じて建築調査・実測と図面作成を行った。詳細図まで作成できていないが、寸法把握の基礎調査は事業年度内に終え、今後の町家再利用に有益な基礎資料を作成することができた。
「畳は畳としてあるのではなく、建築化されてその真価を発揮する」というのが本事業の根底にある考えである。様々な一般参加型の事業を通じて、地域に残る希少な備後藺表の継承と町家再利用の双方の意義について、地域や一般の方々、職人や専門家と本会で共有した。本会の⽬指す備後藺表の普及啓発と同時に、町家再利用の取り組みを通じて鞆地域の魅⼒を発信することの一助にもなった。地元の特産品である備後藺表や備後柿渋を介在させることで、広く地域や地元⼤学を巻き込み、⽇常的な関係⼈⼝の増加を図ることもできた。本事業を機に、鞆町だけでなく他地域でも、備後藺表を活用した古民家再利用にも広がりをみせた。また、リノベWSで使用した備後柿渋についても、希少な伝統建材として備後藺表と共に焦点をあてることで相乗効果をうみ、備後地域における町家再利用の新たな可能性も示せた。これらの成果は、地元新聞にも大きく取り上げていただき、日本建築学会でも紹介した。
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事業対象の鞆町の江戸期町家(6月イベント時)
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備後柿渋塗りワークショップ(町家玄関部分)
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地元左官さん指導による土壁塗りワークショップ