アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

保見アートプロジェクト

中島法晃(個人)

実施期間
2024年4月1日~2025年3月31日

活動の目的

 愛知県豊田市の保見団地をフィールドに、「地域住民×アーテイスト」が対話を通して地域の課題を探求し、アート活動によってコミュニティー環境の変容を図ることを目的としたプロジェクトであり、多文化共生×アートの可能性について活動を広く発信していきたいと考えている。  豊田市役所や、県営保見自治区、保見団地が校区である中学校、団地内で日本語教室や学習支援、就業支援をしているNPO法人トルシーダ、一般社団法人JUNTOS等と連携し、団地内の老朽化した掲示板等やごみの不法投棄に悩まされている集積所に設置されたダストボックスをアートで生まれ変わらせる。  住民とアーティストの協働によってアートに生まれ変わらせることにより、その過程で交流を生み、完成されたアートを守りたいという思いを萌芽させ、多国籍住民にとって団地への愛着形成を図る契機にしていく。

活動の内容

 団地に住む小学生や地域中学生、NPOコミュニティー等の児童生徒や大人を対象に、アーティストとの協働により団地内の老朽化した案内図1基とダストボックス10台、12枚の看板にペイントを行った。ダストボックスのうち1台は地域のコミュニティーセンターで実施したお祭りでのブース出展として広く地域住民を対象に実施し、中学校では「総合的な学習の時間」を活用しワークショップを行った。 アーティストによるデザインワークショップにより参加者からのアイデアを集約してデザイン案を決定した後、参加者のアイデアにアーティストの感性や技術を融合させた完成したデザイン案をもとに、中学生120名との協働によりダストボックスにペイントを行った。ここではダストボックス8台、看板12枚を完成させた。そして、3月に実施した保見芸術祭において、これまでのダストボックス作品を住民に向けて発表したと同時に、同会場においてもダストボックスを1台ペイントするワークショップを実施した。
 ダストボックス設置後に、分別ボランティアの住民に対してごみ問題が改善されているかについてインタビュー調査を実施した。アートが施される前後のダストボックスについての意識の変容と、それを通したごみ出しルールやマナーについての意識の変容について調査継続中である。

参加作家、参加人数

 岐阜、愛知、神奈川在住の計9名の以下の作家が関わった。
 赤嶺智也、新井真允子、井上珠未、木全靖陛、榮菜未子、坪井香保里、中島法晃、MadblastHiro、MI

 2024年度の本助成に関するプロジェクトのワークショップ参加者人数は延べ約300名であった。

他機関との連携

 プロジェクトの運営は愛知県住宅供給公社や豊田市役所猿投支所地域振興課、県営保見自治区と連携を図りながら実施し、ワークショップは豊田市立保見中学校、NPO法人トルシーダ、一般社団法人JUNTOSとの共同で実施した。
 また、名古屋出入国管理局や、豊田市文化芸術振興財団、豊田市国際まちづくり推進課など、2024年度から新たに連携することになった機関も多く、これまでの継続した活動が様々な場所で芽吹きつつあることを実感している。

活動の効果

 住民との協働によるアートダストボックスおよび看板制作を実施したことにより、設置後の住民への聞き取りから、「ごみが驚くほどなくなった。」「団地内にアートが増えてきて気持ちがいい。」などの声を多く耳にしている。自治区役員からは、ごみ出しについての問い合わせや粗大ごみ収集について外国人住民からの問い合わせが多くなったことから、団地内の美化意識が変容しつつある現状が垣間見える。
 また、アートダストボックスの関連イベントとして実践した、老朽化した団地内案内図を修繕したことより、案内図を活用する住民が増え、案内図を前にして来客者と談笑する光景が顕著である。
 さらに、これまでの活動や本助成により開設したウェブサイトによる広報の効果により、保見団地と同様に外国人住民との共生の課題を抱えた他の自治体から、新規のプロジェクト依頼を受けたことも活動の効果といえる。

活動の独自性

 定住者と移住者の差異と相互理解の対話が核となる活動であることが独自性であると考えている。
 多くの日本人は、保見団地に居を構え「定住」している地域住民であり、外国人は南米などから「移住」してきた人たちであり、定住する意識のある人は少ない。つまり、定住者と移住してきた人々の根源的な違いとして、ごみ問題が可視化されてきた。保見団地では、定住者である日本人の地域住民にとって、ごみの分別は不可欠な地域の重要課題である。一方で、遠く南米から移住してきた人たちは、まず、異国の地で生活の糧を得て、異質な世界に適応し、新たな人生を築くことが最重要課題であり、地域美化のためのごみ分別等に意識を向ける優先順位は低い。
 ごみ問題は、地域の定住者と移住者との間の、存在のあり方をめぐる攻防の象徴でもある。ごみの分別について多言語の文字表記や日本人住民による意識喚起などで相互理解を図ることは基本的なコミュニケーションである。それに加え、アートダストボックスペイントワークショップは、道を行き交うすべての人々の視覚に飛び込み、人々の感性に直接アクセスできる感性のコミュニケーションである。
 ワークショップの活動フィールドである中学校において、日本人中学生と外国人中学生が多角的な表現を生み、その表現を契機に地域の外国人住民と日本人住民の間で、アート表現へのリスペクトが言語の壁を架橋し、新たな対話が生まれつつある。

総括

 2019年から始まった保見アートプロジェクトであるが、2024年度はこれまでで最も充実した活動を展開することができた。ウェブサイトの開設により、様々な機関から視察や協働の相談があったり、次年度以降の新たなプロジェクトの展開を見据えた議論をすることができたりなど、発信することの意味を深く感じることができた。
 団地に住む日本人住民と外国人住民の交流促進の契機になることを願い、アートを通して団地内の環境美化に取り組んできたが、団地内にアートが増えたことによりごみの不法投棄がなくなりつつある現状である。自治区主催のクリーン活動等に外国人住民の参加者が増えつつあることも自治区から聞いている。豊田市や自治区から信頼を得ることができていることが円滑な活動の源泉となっている。
 しかし一方で、自治区役員の構成が2025年4月から一新したことにより、1から信頼関係を築いていく必要性がある。保見団地は自治区役員の影響力が大きいコミュニティーであり、自治区や住民に寄り添うことが重要である。2025年度も粘り強く活動していきたい。

  • 団地内案内図修繕のためのアートワークショップ作品

  • アートダストボックスペイントワークショップの様子

  • 保見芸術祭における作品発表の様子