アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

アーティストと作る、新しい「フリースクール」開発

NPO法人月面脱兎社

実施期間
2024年11月2日~2024年11月17日

活動の目的

2023年度にアーティストが美瑛に滞在・リサーチを経て、町民とともに映画製作に取り組んだ際、①不登校児の「居場所」、②農家の人たちの孤独、③観光と農業の分断 を目の当たりにしました。一般的にフリースクールとは、不登校児童を対象として学習活動、教育相談、体験活動などの活動を手がける民間施設を指しますが、本事業で展開する「美瑛版フリースクール」は、(1)学校に行かない/行けない不登校児 だけでなく、(2)学校に通っているものの生きづらさや孤独を感じている子供達、あるいは定職があるものの社会的に孤立している大人たち、(3)定職も家庭もなく、ネット空間が唯一の居場所となっている人たち を視野に入れて、子供~大人までを幅広く対象にします。教師ではなく、アーティストとの出会いの中で、創作や表現活動に参加し、顔の見えるコミュニケーションの場を創出しながら、年齢や肩書きに関係ない学びの機会を町民の日常の中に作っていきます。そうすることにより、アーティストの方も美瑛でアート活動を継続する選択肢が生まれ、移住を見据えて活動の拡張性を高めていきます。2024年度は「美瑛版フリースクール」を生み出すためのキックオフとして、演劇、ダンス、書道などそれぞれ異なる分野のクラスを設置し、参加者やアーティストの反応から、プログラム開発のための第1歩を踏み出すことを目的とします。

活動の内容

「秋のアートクラス」では、4種類のアートクラスを通じて、家でも学校でも職場でもないところで表現活動に参加し、[自分]と[隣の誰か]の新たな興味や才能を発見できる場所を目指しています。今回は、「書」を楽しむ書楽家こと、安田有吾さん、振付家・ダンサーの斉藤美音子さん、俳優の鈴木佳由さん、美瑛町地域おこし協力隊の小嶋宏維さんがそれぞれのクラスを担当します。書、ダンス、朗読、ゲームとジャンルは異なりますが、年齢・肩書きに関係なく、答えのない世界を楽しむ中で、他者と顔の見えるコミュニケーションを図り、価値観を広げていく内容であることが共通しています。

書クラス:書楽家時間 でっかく書こう!筆!紙!墨!
進行:安田有吾さん
11月2日(土)- 4日(月) 15:00-17:00 
対象:誰でも(定員12人)
場所:地域人材育成研修交流センター

ダンスクラス HOGU-CING? ほぐしてダンシング
進行:斉藤美音子さん
11月5日(火)-7日(木)18:00-21:00
対象:小学校4年生~大人(定員12人)
場所:地域人材育成研修交流センター

朗読クラス シアター朗読 声で広がるわたしの世界
進行:鈴木佳由さん
11月8日(金)18:30-21:00、9日(土) 10日(日)17:00-20:00
対象:中学生~大人(定員10人)
場所:美瑛町町民センター大会議室

ゲームクラス もう一つのスクール--暇・制限・共有
進行:小嶋宏維さん
11月15日(金)18:00-21:00、16日(土) 17日(日)15:00-18:00 
対象:中学生~大人(定員12人)
場所:地域人材育成研修交流センター

参加作家、参加人数

<参加作家>
・書クラス:書楽家時間 でっかく書こう!筆!紙!墨!
安田有吾 書楽家 
書の作品展や揮毫、文字デザインで独自の世界観を追求しつつ、書の楽しさを伝えるワークショップ「書楽家時間」を全国各地で開催中。また、学ラン姿で踊るダンスカンパニー「コンドルズ」のメンバーとして世界各地で舞台に出演。幼き頃より茶道を嗜む。

・ダンスクラス: HOGU-CING? ほぐしてダンシング
斉藤美音子 振付家・ダンサー
3歳よりクラシックバレエを始め、ニューヨークとロンドンでダンスを学ぶ。帰国後1996年より、井手茂太率いるイデビアン・クルーに参加。PVやCMへの振付・出演も多数。小学生から大人まで幅広い層を対象にしたバレエクラスや、 自ら考案したストレッチとダンスを融合して楽しく心身の健康を目指す「ホグシング」のワークショップなど、アウトリーチ活動も展開中。

・朗読クラス:シアター朗読 声で広がるわたしの世界
鈴木 佳由 演劇集団円・俳優
NHKEテレ「u&i」キーロン役/演劇集団円こどもステージ「青い鳥」チロ役など。美瑛町とは、「コワーケーションビレッシジプログラム」(2022)の参加から関係を深める。美瑛町図書館での「夜のおたのしみ会」や「朗読会」、どんぐり保育園、青葉幼稚園への読み聞かせ、美瑛中学校での詩の朗読、小学校での読み聞かせとミニワークショップなど。橋爪功朗読会(美瑛フェスティバル)にて共演。

・ゲームクラス:もう一つのスクール--暇・制限・共有
小嶋 宏維 美瑛町地域おこし協力隊、アーティスト
東京藝術大学大学院修了。2022年から地域おこし協力隊として美瑛町に関わる。最近考えていることは「世界と繋がっていると感じられないこと」について。近年の活動にBankART AIR 2022 SPRING(神奈川)、個展「/deː.nós/」(2022/SOCO1010/東京)、さいたま国際芸術祭2020「I can speakー想像の窓辺から、岬に立つことへ」(旧さいたま市立大宮図書館)など。


<参加人数>(三日間合計、一日のみの参加も含まれる)
書クラス:14名
ダンスクラス:12名
朗読クラス:15名
ゲームクラス14名

他機関との連携

・開催場所の決定をめぐり、美瑛町役場文化スポーツ課の職員と連携をとりました。係長が自主的にチラシを拡大コピーしてポスターを制作したり、別途情報をまとめた資料を町民センターの受付に積極的に掲示してくださったので、場所の提供と宣伝広報面で協力が得られました。勤務時間外にもかかわらず、クラスの開催時には、役場の職員も様子を見学していました。
・チラシの作成にあたり、北海道教育大学岩見沢校イラストレーション研究室(大西洋研究室)とのコラボレーションが実現しました。チラシは宣伝媒体ではありますが、今回は1つの作品を共同で作るようなプロセスで進めていきました。つまり、デザインを一方的に委託するのではなく、ミーティングを重ねることで、大西研究室の学生や卒業生(渡部花菜さん)とも、美瑛町が抱えている問題や町の特徴を共有し、今後も研究室単位で協働できる可能性を探れる契機となりました。NPOにとっても、また20-30代の層が極度に少ない美瑛町にとっても、町の枠組みを超えて、道内の人的・文化的なネットワークを形成できたことは次のインパクトにつながると考えています。
・広報宣伝に関しては、同じく福武財団からの助成で活動をしている白老文化観光推進実行委員会の方も協力くださり、昨年七月の親睦会での出会いが現地での実際の動きに結びついたのは助けになりました。書クラス実施の際には白老から美瑛まで足を運び、様子を見学してくださったおかげでその場で同業者視点でのフィードバックもいただけました。

活動の効果

2024年6月に美瑛フェスティバルのプログラムにおいて朗読会、ダンス公演、演劇ワークショップを実施したのが、最初の展開でしたが、その際に観客としてアートに親しむ機会を持った人たちが、今回のアートクラスによって「鑑賞者」から「表現者」へのステップを歩もうとする動きにつながっていたのは活動の効果だと考えています(具体的には「橋爪功さんと鈴木佳由さんの朗読会を聴いて自分もやってみたいと思い参加した」という声がありました)。
また、冬に近づくと、町内の飲食店は閉店時間が早まり、それと同時に町中は人の気配がなくなって閑散としてくるため、このシーズンに家の外へと出て、人に出会うきっかけができたのは新鮮だったという声もありました。日の入り時間以降に、活動できる場があり、家庭や職場でもないところで他者との接点ができる時間は、町の日常において新しい価値観の提示につながっていたことに気がつきました。今回は主催クレジットに役場は入っていませんが、ここ2年ほどの活動の蓄積があったことで、役場の職員とのやりとりがスムーズになり、気軽に相談しやすい体制・関係性が少しずつ構築されてきたのも、活動の成果として考えています。

活動の独自性

「フリースクール」というと不登校のイメージが強く、アートを必要としているその他の人たち、特に「学校/仕事には行っているが問題を抱えている人たち」の存在にも目を向けることができるよう、プロジェクトの実施においては「フリースクール」という言葉を使うのは避けました。美瑛町において不登校の子供達を包摂する場づくりはどのようなものか、をマネジメント側とアーティスト側の共通の柱としつつも、コンセプトとして表には打ち出さないことで、参加者の幅を広げ、かえってその他の問題も同時に浮き上がらせる契機になったのは本活動の独自性です。クラス内で実施するアクティビティを考案するとき、不登校の子どもの存在は常に念頭におきますが、学校の教育の代替や補助といったアプローチではなく、アーティストという他所からやってきた少し異質な大人との出会いをどう誘発するか、を考えながら進めていきました。そうすることで、同時にこのアートクラスが新たなターゲットの求心力となり、新たなターゲットを見据えたプログラム開発の必要を考え直すきっかけとなりました。
また主な会場となっていた美瑛町地域人材育成研修交流センター(旧旭小学校)がイベント会場と宿泊場所を兼ねたため、4つのクラスを連続して開催することで、結果アーティスト間の交流も含めて、アーティストインレジデンスの実践になったことは独自の環境があってのことでした。

総括

主催側としては、この事業を立ち上げるきっかけとなった中学生本人たちが足を運んでくれたことで、企画の趣旨が揺らぐことなく事業を展開できました。企画当初は、アートが少しずつ町に馴染んでいけるよう、4つのクラスを緩やかに長期にわたって展開することを予定しており、4つまとめての開講は、地元のサポーターからは集客面で現実味がないという指摘を受けていました。しかし、アーティストのスケジュールの都合ではあったものの、「秋のアートクラス」という1つの大きなイベントに挑戦することで、朗読クラスのみの参加を予定していた人が後日ゲームクラスにも参加することになったりと、実際に参加者はクラスを横断する形になりました。どのクラスも主に話し合いや身体的な接触を含めた他者とのコミュニケーションが不可欠となっていたため、三日間のワークショップを通じて参加者同士の心的な距離が近くなっていたのは明らかでした。一方でクラスにリピーターができたのは成果ですが、いつも参加するメンバーが固定されてきてしまい、町の人が感じる内輪感や、自分はこのコミュニティではないという疎外感が次第に形成されつつあるのも事実です。
またアートクラスは初めての試みであったため、保護者の要望に応じてクラスの見学や保護者同伴での参加も可としましたが、その状況はこちらの企画意図とは少しかけ離れるものでした。「一人の個の人間」になって思考・行動できる時間の創出を考えた時、親と子の関係がクラスに持ち込まれるとクラス全体の雰囲気が変わってきてしまい、その制御にはやや難航しました(まもなく中学生になる子供が「お父さんが参加するなら私も参加する」(お父さんがいないなら嫌だ)というような親子状況については時間をかけて向き合う必要があります)。
宣伝広報に関しては、チラシの主催クレジットに「役場」がついていないことが予想外に足枷となり、町中でのチラシ配布・掲示は少々手間取ってしまいました。さらに参加費は低価格を意識しましたが、アートに「有料」で参加することのハードルはまだまだ高かったことを目の当たりにしました。

  • 安田有吾氏による書クラス二日目で、一人一画ずつ大筆で文字を書いた

  • 斉藤美音子氏によるダンスクラス一日目

  • 鈴木佳由氏による朗読クラス最終日発表後の集合写真