活動の目的
本プロジェクトの最終的な目標は、私たちが住む小豆島の土地を“アートによって耕作する”ことで、人以外の生き物が持つ五感を超えた六番目のセンスをプロジェクト参加者が掴むことです。この六番目のセンスこそ地方で生きる希望となり、私たちが子供達の世代に渡すことのできるスキルだと考えます。そのために2024年度は5感の知覚を確かめるワークショップイベントを実施しました。
活動の内容
2024年は、小豆島池田を中心に創造的な社会生態の可能性を模索するため、私たちは「他者とイメージを共有」し、「共に創造すること」を目的にするワークショップイベントを5回実施しました。5感(視覚・味覚・触覚・聴覚・嗅覚)をキーワードに、前述のユニークな専門性を持つ人と協働し、子供から年配者までの世代・島の内外など様々な人が混在し、共に作業を行い「創造的なコミュニティ」を創出しました。ワークショップイベントは重要なマイルストーンとなりました。その他に私たちのスタジオでは日常的に続く小さな交流(「お接待」から子ども絵画教室まで)を行いました。年間を通し継続的なコミュニティ活動により参加者同士の関係性を深めました。各イベントはテーマごとに島内外からコラボレーター(船乗り・農家・料理人・土木会社の社長・島の子供・島内外のアーティスト・学識者)を招きました。各イベントを通して制作物(料理、ドローイングや立体)が生まれました。それらは活動の様子と合わせ写真家・宮脇慎太郎が記録し、島内外にポスター形式の広報物として発送しました。
参加作家、参加人数
2024年4月27~5月6日
地元の「めちゃ工房」展覧会にThe Termites参加、ふるさと村、夢想館
参加作家:ジェームズ・ジャック、越後正志
参加人数:会期中、およそ120名の鑑賞者
2024年5月30日
ワークショップイベント(視覚):島の「風景」をかき混ぜる。場所:瀬戸内海(小豆島近海)内容:小豆島の風景を海上から眺める。海からの視点を通して”見る”ことを再発見する。アリたちは小豆島の海上から海の生き物の視点を体験した。船長の更井明日夏とともに、参加者は触角を使って海流や風を観察し、航海で得た知識を基に人間を超えた視点の地図を作成した
参加作家:ジェームズ・ジャック、越後正志、宮脇慎太郎(招待)
参加人数:6名(作家とThe Termitesのサポーター)
024年6月22-24日8月27日
ワークショップイベント(味覚):島の「食」をかき混ぜる。場所:有機園内容:小豆島の食材を使って新たなレシピを共に考え、作り、食べるプロセスの共有を行う。目に見えない微生物は私たちにどのような影響を与えるのか。有機農家の今川早苗とともにアリたちは味噌作りの工程を楽しんだ。人々の手が微生物と混ざり合い、その瞬間ならではの風味となった。
参加作家:ジェームズ・ジャック、越後正志、宮脇慎太郎(招待)、川畑彩夏(招待)
参加人数:24名(作家とThe Termitesのサポーター、地域住民)
2024年9月1日、18日
ワークショップイベント(触覚):島の「空き家」をかき混ぜる。場所:せいげんじこどもえん内容:小豆島で土木業を営む「矢田建設」の協力のもと、島の空き家の素材(壁土・木材)を使った創作を島の子供たちと行う。
参加作家:ジェームズ・ジャック、越後正志
参加人数:52名(作家、せいげんじこどもえんの子供達)
2024年5月27日
10月29日
2025年1月10日
ワークショップイベント(聴覚):島の「生態」をかき混ぜる。場所:調整中内容:ゲストを招き、小豆島の継続可能な社会生態系についてドローイングを制作する。アリたちは人間以外の存在に耳を傾けることを目的に、スケッチ、昆虫の行動、地元の土のサンプルを使ったペインティングを通して大地に耳を傾け、他の人たちと一緒に体を活性化させる。
参加作家:牧山雄平(招待)、越後正志、山本育代(招待)、川畑彩夏(招待)
参加人数:65名(作家、リトルダック、地域住民)
2024年11月91621日
ワークショップイベント(嗅覚):島の「内外」をかき混ぜる。場所:スタジオ(小豆島町池田)内容:海から採取した物や匂いをテーマに協働制作を行う。サン・ウー・ユンは、子どもたちと屋外で香りのする素材を集めた。室内では、その香りから想起される色を選び、布に絵を描いた。オープンスタジオでは、作品を通して人間の嗅覚や様々な生き物の感覚を想像することで人々を斬新な体験へと導いた。
参加作家:サン・ウー・ユーン(招待)、牧山雄平(招待)、川畑彩夏(招待)
参加人数:37名(作家、地域住民)
2024年8月~2025年3月(継続的なインタビュー、交流)
島外へのフィールドリサーチ、レクチャー(連携教育機関やアートセンターなど)台南、生態学者インタビュー、台北res artisで発表と国際レジデンスの交流、富山で昆虫学者インタビュー、紀南アートウェーク訪問と交流、歴史海博物館の訪問、プログラムの定性評価
参加作家:ジェームズ・ジャック、越後正志、牧山雄平(招待)、川畑彩夏(招待)
参加人数:352名(作家、前川先生・富山大学、紀南アートウィーク関係者、松岡館長・瀬戸内海歴史民族資料館関係者、キュレーター・嘉藤笑子など)
他機関との連携
今年、The Termitesは、「人間以外の種への感覚的な気づきを高めること」を目的として、「五感」をテーマに、地域・国内・海外の諸機関と密接に連携して活動を展開しました。せいげんじこども園との協働では、地元および海外アーティストによるワークショップを2つのクラスで実施し、さらに、これまで小豆島で滞在制作を行ったアーティストたちの作品を、先生方やスタッフとともに園内に恒久展示する取り組みを行いました。
また、早稲田大学のアーティスト・科学者・学生たちとも一年を通じて協働し、相乗的な活動を推進しました。たとえば、小豆島のさまざまな場所(ヨット、有機農園、建設現場、幼稚園、旧フェリーターミナルなど)で開催されたワークショップは、地元住民と外部参加者が意図的に混在する形式で行われ、拠点となる旧そうめん工場から支援・記録・発信され、大学の枠を超えた独自の学びの現場として位置づけられました。
国際的には、特に台湾との関係を深め、島で暮らす者同士としての精神的な共鳴を共有しました。台南芸術大学の董偉修(Wei-Hsiu Tung)教授との継続的な協働を通じて、小豆島での地域活動への助言やネットワークの紹介、また台北でのRes Artisカンファレンス登壇にもつながりました。
台湾、シンガポール、イタリアにおけるアーティスト・イン・レジデンス、地方自治体、アート財団との間にも継続的な関係性を築き、小豆島在住メンバーによって運営されるグラスルーツ型のアーティスト・ラン・プログラムとしての独自性を再発見することができました。
活動の効果
The Termitesは、小豆島の地域社会に大きな変化をもたらしました。海や生態系、社会の現実を芸術的な視点から捉え直す機会を提供することで、地域に新たな視座と対話をもたらしたのです。
The Termitesの「巣」は、探索アリ(ジェームズ・ジャック、越後正志)、女王アリ(今川早苗、慈氏周豊、矢田常寿、皿井明日夏、宮脇慎太郎)、働きアリ(牧山雄平、川畑彩夏、久留島咲、神谷知里)、そして養育アリ(カリン・オーエン、ウェイ・ツィング、四方幸子、楊・アンドリュー)によって共同で築かれました。彼らは、それぞれの役割や視点を持ち寄りながら、従来の枠にとらわれない協働によって、地域型アーティスト・ラン・プロジェクトだからこそ可能となる新たな共生的成果を実現しました。
たとえば、The Termitesスタジオで年間を通じて開催された日常的な集いでは、年齢・ジェンダー・文化・ライフスタイルの異なる近隣住民が自由に出入りし、普段は交わることのない人々のあいだに創造的な混ざり合い=新しい関係性の芽生えが生まれました。
The Termitesが企画・実施した5つのワークショップは、ローカルなチラシやポスターに加え、県内の新聞、国内のアート誌、そして国際的なバイリンガルWebサイトを通じて、より広い層へと発信されました。
今年度、The Termitesの活動に関わった人の総数は600人以上にのぼり、そのうち半数は小豆島在住、半数は島外からの参加者でした。
さらに、小豆島で定期的にワークショップに参加した人々は約50名にのぼり、そこには保護者、農家、漁師、教師、アーティストなど多様な背景を持つ住民が含まれ、実践的な活動をともに行う、強固で継続的な基盤が築かれました。
活動の独自性
The Termitesの活動がもたらした最も特異性あるインパクトは、小豆島における「人間以外の生命共同体(more-than-human communities)」への働きかけにあります。
これまで人間から見過ごされがちだった存在――たとえばシロアリ、トンボ、カラス、シカ、渡りガニ、クラゲ、クルミ、ホトケノザなど――へ、私たちの活動を通してやさしいまなざしと丁寧な関心を向けられるようになりました。
アーティスト・イン・レジデンスを通して訪れたさまざまなアーティストや研究者とともに公的なワークショップや非公式な集い、そして島での日常生活を通じて、こうした他種の行動、呼吸、感情に静かに寄り添い、学ぶ時間を過ごしてきました。
これまで日本の地域芸術においては人間中心的(アンスロポセントリック)な視点が強調されがちでしたが、The Termitesの取り組みによって、「人間が生きる生態系に共に暮らす共生種の幸福」までもが、その対象に加わることになりました。
今年のThe Termitesの活動は、700人を超える人々に対して、全身の感覚を呼び覚ましながら、数千の昆虫、数百の鳥類、数十の植物たちと「共に生きる」ことを再認識させる体験を提供しました。
この「感覚の再活性化=resensitization」を通じて、人間は汚染・気候変動・種の絶滅といった危機のただなかにあっても、他種との相互共生関係に気づき、未来に向けた新たな共生のかたちを学び直していくことができるのです。
総括
今年度のThe Termitesの活動は、「モアザンヒューマンと共存 ― 耕作するアート/Cohabitation with Other Species: Cultivating Art Senses」というテーマのもと、以下の3つの柱で構成されました。
1. 「巣づくり」活動(インフォーマルな関係構築)
The Termitesに継続的に関わるメンバー一人ひとりが自分にとって意味のある役割を見出すことを目指し、年間を通じた対話の中で、女王アリ(Queen)、探索アリ(Scout)、収穫アリ(Harvester)、養育アリ(Nourisher)といった象徴的な役割が自然に定まっていきました。この「巣」は、小豆島の地質的に多様な地域にまたがって広がる人間以外の生き物との共生に関心をもつ人々のネットワークとして、無理なく育まれていきました。
2. 「五感」をテーマとしたオープンなワークショップ
視覚・味覚・触覚・嗅覚・聴覚のそれぞれの感覚に焦点を当てた公開型のワークショップを開催しました。
これらは、地域に根ざして活動している既存の団体との連携によって実施され、地域に深く根を下ろした五感体験の機会となりました。
3. 国内外とのアウトリーチと連携プログラム
大学、アーティスト・イン・レジデンス団体、NPOなど、国内外の機関との間で意義ある連携関係を築き、
The Termitesの実践を広く共有するとともに、他者の優れた事例から学ぶことができました。
これらのアウトリーチ活動を通じて、プログラム内容・スケジュール・運営体制・将来構想における強みと課題を、ミクロ(現場レベル)とマクロ(組織・戦略レベル)の両面から捉えることができました。
【今後への基盤づくり】
The Termitesは、”多様な生きものたちとの「ゆっくりとした、健やかで親密な関係性」”を通して、人間が人間以外の生き物に対する感受性を育むための基盤を築きました。この基盤は、これからも長期的に持続可能な活動として展開されていくことを目指しています。
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アリたちは小豆島の海上から海の生き物の視点を体験した。 船長の更井明日夏とともに、参加者は触角を使って海流や 風を観察し、航海で得た知識を基に人間を超えた視点の地図を作成した。
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ゲストアーティストのサン・ウー・ユンは、子どもたちと屋外で香りのする素材を集めた。 室内では、その香りから想起される色を選び、布に絵を描いた。 オープンスタジオでは、作品を通して嗅覚や人間以外の感覚が コミュニティの人々を新たな体験へと導いた。
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アリたちは人間以外の存在に耳を傾けることを目的に、スケッチ、昆虫の行動、 地元の土のサンプルを使ったペインティングを通して大地に耳を傾け、 他の人たちと一緒に体を活性化させた。Termites スタジオには様々な生き物のペインティングが集まった。