アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

イミグレーション・ミュージアム・東京

特定非営利活動法人音まち計画

実施期間
2024年4月1日~2025年3月31日

活動の目的

美術家の岩井成昭が主宰する「イミグレーション・ミュージアム・東京」は、2011年から地域に居住する海外ルーツをもつ人びととの 交流を通じて企画されるアートプロジェクト。地域に暮らす彼らの生活様式や文化背景を紹介するとともに、それが日常の中で変 容していく諸相を「適応」「保持」「融合」という3つのキーワードから探る。また、「ミュージアム」という名称でありながら施設を持た ず、足立区の空き店舗や教会、古⺠家などを移動しながら、そのとき限りの体験ができるプログラムを展開してきた。多文化社会 を知り、考え、参画していくためのプラットフォームの形成を目指し、足立区の多文化化について考えていくきっかけづくりを行う。

活動の内容

今年度も、一昨年度昨年度に引き続き足立区内の小中学校を対象とした、多文化社会に触れる「アート‧エデュケーションプログラム(EDP)」 を2校(関原小学校・古千谷小学校)と、中学校1校(第14中学)で実施した。また、今回もIMMに携わる市民リサーチャー「IMMねいばーず」の協力を得た。小学校では、各校で1校時から5校時までの時間を使い、全体を貫く芯となるテーマのもと4つのプログラムを実施した。中学校では、美術部の活動日(毎週火曜日・木曜日)に4日間通い、毎回異なるアーティストによるワークショップを行い、4日間をかけて生徒たちが学びを集めていく「トラベルジャーナル」を作成した。
小学校で実施したEDPでは、4つのステップで構成したプログラムを実施した。(1)探検家ミミ&ダンダンによる「Good place」を探す冒険の旅に出るプレワークショップ、(2)アートコミュニケーターによるアートカードや既存の美術作品の画像を使った対話型鑑賞、(3)ベラルーシ出身のアーティスト、イリヤ・イェラシェビッチによる「見えないをみえる」をテーマとしたワークショップ、(4)(1)-(3)を振り返り、全体のテーマである「自分たちのGood place」について考えるワークショップを行った。
中校では、美術部の協力のもと、11月に毎週2回の部活動の時間を使って、3人のアートコレクティヴとともに「Cultural Kaleidoscope(文化の万華鏡)」をテーマにアート‧ワーク ショップを4回実施した。多様なルーツを持つ三人のアーティスト(アヤナ・サイトウ・ミラ、フローラ・ミンダ・ガルシア、アーサー・デ・オリベイラ) によるワークショップでは、自身のルーツや文化の話から自然や文化的シンボル、テキスタイル、体の動きという幅広いテーマを通して多様性を体験していく機会を提供し、「トラベルジャーナル」の作成につなげた。
IMMねいばーずの活動では、プレワークショップの企画構成のためのブレインストームセッションおよび小学校のアート・エデュケーションプログラムへの協力を得た。

参加作家、参加人数

<中学校 1校>
実施校 :足立区立第十四中学校 美術部
参加作家:アヤナ・サイトウ・ミラ、フローラ・ミンダ・ガルシア、アーサー・デ・オリベイラ
参加人数:75名(4日間の延べ参加人数)

<小学校 2校>
実施校 :関原小学校(5年生2クラス)、古千谷小学校(6年生3クラス)
参加作家:イリヤ・イェラシェビッチ、アートコミュニケーター4名(田辺梨絵、石川恵、上田紗智子、大川よしえ、藤田まり)
参加人数:56名(関原小)、75名(古千谷小)

他機関との連携

足立区シティプロモーション課、足立区立第十四中学校 美術部、関原小学校、古千谷小学校

活動の効果

<中学校>
・今年度は、参加アーティストの公募を行い、事務局で選定した数組のアーティストを学校側に提示し、アーティスト選定に学校側の意見を反映させた。このことにより、学校側にともにプログラムを作り上げる一体感とアーティストに対する関心度が醸成された。特に専科教諭(図工、美術)の関心度は高く、すべての日程で実際にワークショップに参加するなど、強い意欲が見受けられた。
・中学校の生徒からは高い満足度とともに、「物の見方を変えることで、同じものでも違うものに見えた」「言語がわからない時があってもこんなに仲良くなれる」などの気づきや、より深く高度な視点からの他者、多文化への興味と理解したいという意欲が見られた。また、「様々な表現を使っていく中で、たくさんのインスピレーションがわいてきた」など、複数のアーティストの文化的側面や表現に触れたことにより、自身の自発的な表現への希求も散見された。教諭からも、通常の部活動とは全く違う体験ができたことや、生徒の様子、ワークショップの内容に高い評価をいただいた。「普段の美術の授業では作るものをタブレットで調べて作ってしまうこともあるが、そこにあるものを使って作成するので想像力があがったのではないか」など、生徒たちの変化も見て取れたという指摘もいただいた。

<小学校>
・前年までの事例と子どもたちにもたらされた効果を具体的に丁寧に説明したことにより、すべての実施校が非常に協力的であり、スムーズに実施できた。小学校では管理職教諭のみならず他の教諭の見学もあり、学校の関心度も高くプログラム実施に積極的な様子が見られた。実施二校ともに児童が作成した作品を引き取り、他の児童、保護者等にも作品の鑑賞機会を作りたいとの申し出があった。 
・小学校の児童へのアンケート結果では、約98%が好意的な回答をし、プログラム後の気づきについて「人それぞれ違っていいと思った」「同じ絵でも人によって感じ方が違うと気づいた」「友達の思いがけないところがわかった」などの他者への理解とそれによる自身の考え方への気づきが見られた。教諭へのヒアリングにおいても「無関心同士の子が一緒に作業をしている中で互いに関心を持つことができた」「英語で話している内容を理解したいという意欲が見られた」など、他者および多文化への関心、理解したいという意欲の向上が図られていたとの評価があった。

活動の独自性

本事業の活動の独自性は2つある。ひとつは、中学校・小学校ともに日本に暮らす海外ルーツのアーティストのワークショップを通して、創作ワークショップに留まらずアーティストたちのルーツや文化背景も共有・経験し、普段の生活では出会わない「他者」に出会う機会となること。

もうひとつは、小学校でのプログラムを創作ワークショップだけでなく以下の4つの工程で構成された1日使ったワークショップであると考えている。①身体を動かしながら思考もほぐす ②作品を見ながら対話しそれぞれの見方や感じ方の差異に気づく ③異なる「他者(海外ルーツのアーティスト)」とともに①・②の経験を踏まえて創作ワークショップに取り組む ④①-③で経験したことをもう一度振り返り、対話や創作、身体を動かしながらなど様々な方法でアウトプットする。

総括

小学校でのプログラムは今年度で12校、中学校では2校で行い、これまでどの学校からもプログラムへの評価も高く、実施校から継続を期待する声が挙がっている。ただ、一方でプログラムの性質上学校内での活動に終始してしまい、外から見えづらく事業の広がりが生まれづらいことが課題となっている。次年度以降は外への広がりを持つプログラムへと実施内容を再考していく。

  • 中学校美術部でのアート・ワークショップの様子

  • 小学校でのアート・ワークショップの様子 クレジット:冨田了平

  • 小学校でのアート・ワークショップの様子 クレジット:冨田了平