活動の目的
埼⽟県東松⼭市内の⾼齢者福祉施設「デイサービス楽らく」に常設のアーティスト‧イン‧レジデンス機能を設置。美術‧⽂学‧⾳楽‧演劇‧舞踊‧伝統芸能等のアーティストを招き、作品創作やリサーチを通じて利⽤者や職員と⽂化的な交流を重ねる。
高齢者をはじめ地域の人々がアーティストと出会い交流することにより、施設での⽇常に新たな出会いや発⾒をもたらすこと、また地域の多様な文化が再認識される機会を醸成することを目指す。
地域の⽂化‧教育施設等と連携し、アーティストと住⺠との交流を⾏うことで、福祉施設が地域内の様々な⼈にとっての⽂化的な出会い‧交流が起こる場所として機能することを⽬指す。
また地域内外の文化・福祉・教育機関との連携や、実践者・研究者との交流を通じ、活動で得られた知見を広く発信し、地域における福祉施設の可能性や、芸術と福祉の関係に関する新たな提案に繋げていく。
活動の内容
①アソシエイトアーティストの滞在
演劇・映像作品を制作するユニット「ハイドロブラスト(竹中香子、太田信吾)」を招聘。竹中は2023年度の公募で滞在したアーティストであり、滞在終了後、自身の経験をもとに制作した演劇作品「ケアと演技」を東京都内(YAU)で上演した。今回のアソシエイトアーティストとしての滞在では、同作をデイサービス楽らくバージョンとして再構築し、デイサービス楽らくの介護職員に向けて上演した。公演終了後は、長津結一郎(九州大学芸術工学院 准教授)がファシリテートする、対話型鑑賞会を開催した。鑑賞会では、作品から触発された職員が、普段の仕事を超えて個人としての介護の原体験や気づきを自然と互いに共有し、芸術を通してケアについて議論・対話する場を生み出すことができた。
②公募アーティストの滞在
萩原雄太(演劇)、とほ(美術)、村田宗一郎(美術)の計3名のアーティストが滞在。
萩原は施設利用者の服に注目し、自らの経験を語り披露するファッションショーを施設内で開催した。とほ、利用者の仕草や佇まいに着想を得て、漆塗りの彫刻作品やスケッチを制作した。村田は抽象画家としてデイサービスの中でデッサンをしていく試みを、ショートステイ(短期滞在)という形で行なった。なお村田は25年度も継続して滞在予定。このほか、
③ アーティストの作品発表への支援
滞在期間終了後に、前年度滞在したアーティスト3名(竹中香子、浅川奏瑛、野村眞人)が、滞在経験を元にした作品を制作。これら作品発表への助言や広報等の協力を行なった。
竹中は上述の演劇作品「ケアと演技」を制作し、2024年5月にYAU CENTER(東京都千代田区)で上演。同作には同じく滞在アーティストであった萩原雄太も参加した。浅川はソロダンス公演「いたような、いなかったような」を制作。7月にカフェムリウイ(東京都世田谷区)で上演した。野村は上演+展示 『分身と観客』 をアートスタジオ アイムヒア(横浜市)で発表した。野村の活動は、月刊「精神看護」に掲載されるなど、芸術分野外で注目される機会となった。
④地域交流
近隣の東松山市立唐子小学校と連携。4年生の総合的学習の時間を活用し、俳優・介護士である菅原直樹と共に、演劇を通じて介護を考えるワークショップを開発・実施した。
また関連して菅原はデイサービス楽らくへの滞在中に、デイサービス楽らく職員にもワークショップを実施。職員が演劇と介護の共通点を考える機会を創出した。
⑤情報発信とネットワーキング
アーティスト滞在の様⼦等をnoteで随時発信した。
https://note.com/crossplay
また前年度に作成した「クロスプレイ東松山報告書 2022 / 2023 ケアとアートが交差する場で起きていること」を500部印刷。福祉・アート関係団体や関係者等に配布した。
また取材実績として、埼玉新聞、中日新聞/東京新聞、TBSラジオ、高齢者住宅新聞等の媒体で活動が紹介された。特に埼玉新聞に関しては、1面で紹介されることで、大きな反響を得ることができた。
また、アーティスト・イン・レジデンスやアート活動に関心を持つ他の法人(医療法人・社会福祉法人)や、地域内のソーシャルワーカーから見学依頼が来るようになり、約15名程度の関係者の見学に対応した。また参加アーティストの竹中香子が企画した、クロスプレイ東松山公募アーティストの座談会(2024年5月 YAUで開催)の実施に協力することで、アーティスト同士のネットワーキングを推進した。
参加作家、参加人数
(1)参加作家:8名
・アソシエイトアーティスト:ハイドロブラスト(竹中香子、太田信吾)(演劇)
・公募アーティスト:萩原雄太(演劇)、とほ(美術)、村田宗一郎(美術)
・小学校交流プログラム:菅原直樹(演劇)
・ミュージシャン(ハイドロブラスト公演に参加) 2名(島崎智子・服部将典)
(2)参加⼈数
・デイサービス楽らく利⽤者 65名
・デイサービス楽らく職員 20名
・東松⼭市⽴唐⼦⼩学校4年⽣児童 51名
他機関との連携
唐子小学校とのプログラムを行うことができた。同小学校とは2023年度にアサダワタルプロジェクトで連携しデイサービス楽らくに来てもらったが、今年度は4年生の総合的学習の時間を活用し、演劇を通じ介護を考えるワークショップをアウトリーチする形で関わることができた。取り組みは高く評価され、その後6年生に向けた講演を楽らく施設長が学校から依頼されるなど、広がりが生まれている。
また、アーティスト・イン・レジデンスやアート活動に関心を持つ他の法人(医療法人・社会福祉法人)や、地域内のソーシャルワーカーから見学依頼が来るようになり、約15名程度の関係者の見学に対応した。見学いただくのを機に、その後もネットワークが生まれている。
また地域の社会福祉法人等に所属するケアマネージャー等福祉関係者が、アーティストの発表や滞在の視察に来る機会が増えている。
また、原爆の図丸木美術館、東松山市民文化センター、comeya galleryなどの地域の文化施設には、滞在アーティストへの情報提供や意見交換、アーティストの活動への備品の貸出など協力いただいている。
活動の効果
活動に参加した利用者からは「(発表を通して)夢がかなった」「思い出ができた」「若い人がいることが素敵」などの声を聞く。特定の利用者はアーティスト信頼関係が生まれ、滞在終了後もお互いに手紙を書いて交流するなど、利用者の生きがいにつながる面が多くみられる。
さらに今年は、アーティストの表現を通じて職員が利用者を深く知り、ケアの視座を広げるという出来事が多く生まれたことが特徴的だった。「(アーティストの発表を見たことで)これからの仕事の向き合い方、考え方を改めていこうと思った」「いつもやっている仕事を、自分にはない視点からアーティストが表現してくれて、その視点には驚いたし、(内容にも)とても共感した」「(アーティストの滞在が機会となって)職員間でも普段話さないようなことを話し、お互いを理解する機会となった」などの声を聞いている。アーティスト現場を見せた後、時間をかけてアーティストが作品として発表したものが、職員や利用者のもとに戻ってっくると、そこで発表されるアーティストの表現内容は、往々にして既存のサービス・マニュアルとしての範囲を超えた、ケアの本質を問うものとなっている。そのことに職員や利用者は感心し、アーティストとの関係がさらに深まることになっていった。
活動の独自性
⾼齢者福祉施設を活⽤したアーティスト‧イン‧レジデンスという特性は変わらないが、福祉分野の活動として見たときには、狭義の福祉サービスとして回収されない志向性を持つことが特徴だと考えている。アーティスト・福祉施設利用者・職員はそれぞれ、福祉施設という場にいることに目的がある。それぞれの主体性や言い分を損なうことなく、かつケアと芸術が交差する関係性の構築を繰り返すことで、ケアの輪郭を広げ、その本質に迫った社会福祉事業/ソーシャルワーク実践として捉えることのできる活動と言えるだろう。
また芸術の視点から、滞在経験がアーティスト自身の価値観に極めて大きい影響を与えることは特筆したい。デイサービス楽らく内の活動では、アーティストとしての地位が確立した状態ではなく、自らが何者か、なぜその場にいて芸術活動をしているのかといった、アーティストとしてのアイデンティティを問い直しながら、活動に向き合っていくことになる。また、施設の日常にある様々なケアを見ることで、アーティストには様々な発見が生まれている。一方で、コーディネーターや、ネットワークを築いてきた地域の文化施設(原爆の図丸木美術館、comeya gallery、東松山市民文化センター等)の関係者が滞在するアーティストの相談相手になることで、アーティストが孤立せずに思索を深めていく場を作っていることも特色だと考えている。
総括
プロジェクト3年⽬となる。今年度は、プロジェクトの質的見直し・向上の面での転換期となった。昨年度は常設のスペースを持つことの利点を活かすべく、多くのアーティストに滞在いただいたが、前年度の評価プロセス等を経て、アーティストが目まぐるしく入れ替わる環境が現場の利用者・職員にとってコミュニケーションの負荷がかかっていることが分かってきた。このため、デイサービス楽らくの利用者や職員の時間感覚の中で、アーティストがいる空間が受け入れやすいように、公募アーティストの受け入れ人数を絞り、かつ1名の滞在期間を15日以上としていたところから、20日以上に引き上げ、より長いスパンで丁寧に関わってもらう設計に変えた。
また、滞在中のアーティストの相談サポート、や職員・利用者・地域住民等につなぐコーディネート、プロジェクトとしての活動の記録等により注力する必要があるため、アートマネージャーである岩中可南子、岡崎彩音に公募アーティストのコーディネーターとして参加してもらい、実施体制を充実させた。
これらの取り組みもあって、アーティスト滞在中、特にアーティストと職員間でのコミュニケーション総量が増加した。往々にして設置目的のためにコミュニケーションがデザインされる福祉施設において、日常とは異なる価値観を持つアーティストを受け入れることには常に波紋が起きるが、アーティストという肩書きを外して1人の人間として受け入れるところから始め、徐々にそのアーティストの視点や表現の必然性・切実さを知っていくことで、福祉現場がアーティストと出会うことの意義を、現場職員は今まで以上に実感できたのではないかと思われる。
(表層だけではなく)ケアの根本にある文化性を考える、という本プロジェクトの特性が様々な形で外部メディアに取り上げられることで、プロジェクトに注目が集まり、認知度も向上されていることを実感している。コーディネーターの体制は整いつつある点は成長と言える。一方で、介護保険外の事業として固定財源を持たずに実施している中、ファンドレイズに関しては引き続き課題と言える。