アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

原泉アートデイズ!2024

原泉アートプロジェクト

実施期間
2024年10月24日~2024年11月24日

活動の目的

「原泉アートデイズ!」は、HARAIZUMI AIR(原泉アーティスト・イン・レジデンス)の成果発表の場としての展覧会である。 これまでの6年間(2018~2023年)の積み重ねにより、原泉においてアート活動のある風景は少しずつ根付いてきたといえる。HARAIZUMI AIRと展覧会事業から、年間を通じた活動に拡大させ、地域へアーティストの移住者を誕生させるに至った。こうした実績から、団体自ら地域全体を活用した「原泉アートパーク化構想」を掲げ、その達成に向かうプロセスを通して地域を活性化させ、地域レベルにおけるサステナビリティを実現することを大きな目標としている。 7年目となる2024年度は、今後の土台形成となる以下の3点を目指して活動を行なった。 1)国際交流を活性化させる  2023年度より、パンデミック以降滞っていた国際交流事業をようやく再開することができた。地域での日常的なアート表現をますます深めていくと同時に、より広い視野でアーティスト一人一人が成長できる場を形成するために、国際的なネットワークづくりを強化することで、国際交流を活性化させる。また、海外アーティストとの交流によって、地域住民の興味関心がより一層強まることが期待される。 2)持続可能なアートコミュニティの基盤をつくる。  これまでの継続的な活動により、関心を持つ者や賛同者、協力者などが集まり、活動に対するニーズが高まる一方で、事業をますます継続させ、コミュニティを持続させるには、不足しているリソースが多いのが現状である。そのため、単年度事業の実現ではなく、継続を目的とした基盤づくりのための資金繰りや人材確保、運営体制などを強化する。 3)新ジャンルとの交流  1、2を通して、連携団体等の新しいジャンルの人びとの参入による、新規事業等の創出の可能性や、出会いや交流のクロスポイントとしてコミュニティを育てていく。 新しい出会い(企業人とアーティスト、クリエーションを行う者など)が、具体的な事業を創出することそのものよりも、「出会いがある現場」という面白みや印象を根付かせることを目的とする。

活動の内容

1)展覧会「原泉アートデイズ!2024」の開催

開催日時:2024年10月24日(木)~11月24日(日) 10:00~16:00 (月・火・水曜休業)
展示会場:原泉地区全域(旧原泉第2製茶工場、旧田中屋、旧掛川市 JA 原泉支所、 昌光寺、八幡神社、ならここキャンプ場内、黒俣市有林、その他多数)
テーマ: 感覚を呼び覚ます
内容:現代アート作品の展示、パフォーマンス、アートストアの運営、レンタサイクル 等

2)滞在中のアーティストによる交流イベントの開催

1、ワークショップの開催
外国人アーティストが、滞在中に、地域住民や展覧会の来場者を対象に、独自の技法や制作スタイル等を駆使したワークショップ等を開催した。

①ドイツ人写真家と歩く、クリエイティブ・ジャーニー~何気ない風景から、新しい世界を体験しよう~
アーティスト名:ファビアン・ハマル(ドイツ)
日時:2024年11月3日(日)15:00~16:00
場所:八幡神社
参加者:5名(定員5名)

②アメリカ人アーティストと一緒に、生きている紙人形をつくろう!!!
アーティスト名:モス・バスティール(アメリカ)
日時:2024年11月17日(日)13:00~16:00 (所要時間20分程度)
場所:昌光寺
参加者:13名(当日受付)

2、トークイベント「原泉での滞在と作品制作、その体験のすべて」の開催

 滞在中のアーティストをゲストに迎えたトークイベントでは、地域住民だけでなく一般参加者も招き、地域を体験したアーティスト等が、自身の滞在中の体験談、制作で着想を得たポイントや作品そのものについての解説を行い、原泉全体や登場人物として制作に関わった地域住民の魅力、地域における制作活動の魅力について伝える場となった。
地域住民側にとっては、国内外のアーティストから改めて地元の話を聞き、日本国内はもちろん世界に認められる「原泉」を認識することで、地域のシビックプライドを醸成し、地域の価値を再発見し、新しい表現の可能性を知る機会となった。

①アーティスト名:ハニー・ウィジャヤ(インドネシア)
 日時:2024年8月14日(水)19:00~20:30  場所:旧原泉第2製茶工場 参加者:12名

②アーティスト名:ハブリ(中国・内モンゴル)
 日時:2024年9月7日(土)19:00~20:30  場所:旧原泉第2製茶工場 参加者:15名

③アーティスト名:井口貴夫(日本)
 日時:2024年10月5日(日)19:00~20:30  場所:旧原泉第2製茶工場 参加者:18名

④アーティスト名:ファビアン・ハマル(ドイツ)
 日時:2024年11月9日(土)15:00~16:00  場所:八幡宮神社 参加者:14名

⑤アーティスト名:モス・バスティール(アメリカ)
 日時:2024年11月16日(土)15:00~16:00  場所:昌光寺 参加者:13名

⑥アーティスト名:山本拓人(日本)
 日時:2024年11月23日(日)15:00~16:00  場所:旧田中屋 参加者:20名

※松島誠&イマコラボ(中国・香港)は、パフォーマンス後にミニアーティストトークを実施した。

3)地域と一体となった制作サポート

 アーティストが制作やリサーチに必要な情報・資源・場所提供、制作協力、人材紹介等を積極的に行うことにより、地域の人材や資源が制作に生かされる機会が生まれた。例えば、作品制作のために、民具や資料提供等に8名の地域住民が快く提供して下さった。
 また、当事業の展示会場は、空き家や空き施設、空き地等を活用してきたが、今年度は新たに、耕作放棄地、放置林4箇所、神社の社務所等を地主や氏子衆の理解と協力により展示会場として活用した。

参加作家、参加人数

・参加アーティスト 9組(6つの国と地域)
井口貴夫、ハブリ、施琦、山口蛇、山本拓人、ハニー・ウィジャヤ、モス・バスティール、ファビアン・ハマル、松島誠/イマ・コラボ(中国・香港)

・来場者数 計1659 名(会期中20日間の総入場者数、ワークショップ・トークイベントなどの関連事業を含む)

他機関との連携

(1)地⽅公共団体
 掛川市⽂化・スポーツ振興課との連携。定期的に情報交換し、美術館内でトークイベントを共同開催した。2025年度からは、外国⼈アーティストによるワークショップを委託実施予定としており、今後さらなる連携の可能性が⾒込まれる。

(2)企業・事業者
①地域内の企業との連携。
 有限会社佐藤⼯務店、掛川市森林組合、柴⽥牧場(しばちゃんランチマーケット)、 森の都ならここ(東海ガス株式会社)。具体的な協⼒内容は、協賛、活動スペースの提供、滞在場所の提供、場づくりの協⼒、機材・資材提供、⼟地利⽤に関するアドバイス、広報協⼒等多岐にわたる。

②地域団体、⾃治会等による協⼒
 原泉地区まちづくり協議会、原泉地区振興協議会、さくら咲く学校(旧原泉⼩学校)。具体的な協⼒内容は、地域内の調整事項に関する相談、地域住⺠等⼈材の紹介、会議室の提供、制作場所や展⽰会場の提供、備品等の貸し出し、広報協⼒など、多岐に渡り、地域内に関することは、どんなことでも相談に乗りやすい関係を築くことができた。

③地域外の企業・事業者等との連携。
 資⽣堂企業資料館、資⽣堂アートハウス、powapowa、Funnyfarm、近藤⻭科クリニック、GAMACOFFEE、ダイアテック株式会社、他。協賛・協力団体として、展覧会やイベント開催時の参加者への返礼品等の提供、滞在中アーティストへの⾷材・資材等の提供、地域の魅⼒アップに貢献する⾃転⾞の提供、広報協⼒等。

(3)⽂化団体・文化施設
①掛川市⽂化財団による協⼒。2025年1月18日(土)に掛川市と共に、市内美術館にて当事業に関するトークイベントに協力。2025年以降は当団体への委託関係を結んでいる。

②鴨江アートセンターによる協⼒
1月22日(水)に当事業に関するトークイベントを開催。その他定期的に情報交換や広報協力、互いのアーティストネットワークを活かし合う関係を築いている。

(4) 教育機関(⼤学、⼩中⾼)
①静岡⽂化芸術⼤学(静岡県浜松市)
 学内教授陣と連携して、1月に特別講義の場を提供いただいた。また、滞在中の外国⼈アーティストによる講義も⾏っており、学内の国際交流センターとの連携により、原泉に滞在している外国⼈学⽣がアートを通じて交流できる機会を創出している。

②湖北⼯業⼤学(中国、湖北省武漢市)
 学内の国際交流室の取り組みにより、⼤学⽣のカリキュラムの⼀環で、研修プログラムを企画し、複数名の学⽣が当該エリアに数週間滞在し、⽇本とアート体験を実現。当事業内にて、取り組み内容を発表した。また事前リサーチ・当事業の広報を目的とした特別講義実施のため、⼤学へ招聘いただいたことが今年度の交換プログラムの実施に繋がった。2025年度は当⼤学が主催する国際カンファレンスにも参加予定である。

③静岡産業⼤学(静岡県磐⽥市)
 スポーツ科学部の⽊村駿介先⽣と共に、AIR MEALSの共食プログラムの研究・リサーチを継続的に行なっている。アーティストへのヒアリングや調査を⾏い、論⽂発表も⾏われた。今後はさらに仮説をまとめ、まとまった研究結果を残す予定である。

④オルタナティブスクール「実りの泉」(中⾼⽣)(静岡県掛川市)
 両親のナショナリティから、バイリンガル・トリリンガルなどの⽣徒、もしくは⾃主的に学習を⾏いたい⽇本の⽣徒が、通信教育などを⾃らの意思で⾏い、そのサポート⾏うスクールで、社会的な活動の⼀環で⽣徒と先⽣が集団で当団体のサポーターとして関わった。ここで学び、当団体やアーティストたちと関係を築いた⽣徒たちが、掛川市の「⾼校⽣チャレンジプログラム」に自主的に応募し採択され、当事業を盛り上げる企画を仲間同⼠で実現した。また⾼校卒業後にはアルバイトとして当団体に貢献するなど、継続的な関係構築に臨んでくれている。

(5) 地域住⺠、ボランティアなどとの協働
①地域住⺠による協⼒
 展覧会時に地域住⺠が地域外の若⼿サポーター達と共に受付・ご案内を担当し、楽しみながら良い関係を築きながら役割を担った。

②地区内の地主や神社の氏子による協力
 原泉地区に所在する法之脇神社(掛川市大和田)、八幡宮(掛川市萩間)、川近神社(掛川市黒俣)にて、境内または社務所を利⽤した展⽰・制作を実施した。また、これまでに、23箇所の空き施設・空き家・耕作放棄地・放置林等を使⽤してきているが、すべて地域住⺠の協⼒により地主の理解、協⼒、賛同を得て利⽤することができた。今後さらに新たな場所を開拓する予定である。

③団体サポーター・ボランティア
 市内、市外合わせて25名程度、10代~50代の男⼥。活動内容は、空き施設等の展⽰会場の清掃・準備、イベントや展覧会開催時の準備や運営協⼒、チラシ配布等の広報協⼒、アーティストの制作サポート、写真撮影、受付や駐⾞場係等の案内役など、必要に応じて多岐にわたった。

活動の効果

1)コロナ後の海外アーティストの受け入れが活性化
 2020-2022年は、渡航する海外アーティストの受け入れが難しく、オンラインを駆使した遠隔のアーティストインレ ジデンスや、日本国内に在住の外国籍を持つアーティストに参加してもらい、国際交流を推進していたが、2023年以降ようやく渡航アーティストの受け入れを再開した。今年度は、さらに活発に参加してもらうことができ、ドイツ、アメリカ、インドネシア、中国(武漢、香港)からのアー ティストを受け入れることができた。団体発足以来目指していた本来の姿をようやく実現できたといえ、今後ますます積極的な交流を推進していきたいと考えている。

2)制作期間中のプログラムや制作活動そのものが充実
1)を受けて、制作期間中にコミュニティ内外で国際的なトークイベントを催して、海外アーティストの思考や経験を共有する機会を創出することができた。必然的に、国内アーティスト同士のトークでは 得られない新しい発見や、国家の特性による政治的な困難さ、各国のアート事情、大きく異なるそれぞれのバックグラウンドなど、多角的な視点から情報を得ることができる内容となった。相互作用として、同期間滞在中のアーティストへの刺激や学びにもつながり、互いに高め合う場を形成し、それぞれ の制作活動そのものがこれまで以上に有意義な場となっていたようだ。実際に、中国・香港のパフォーミンググループは、日本国内在住の中国・内モンゴル自治区出身のアーティストと交流することによって、自国内同士でも互いに知らないことが多いことに気が付き、学びを得ていた。彼らの交流と共に日本人アーティストの国際的な視点が広がり、当該事業への参加に対する意義と充実度を高めていた。

3)地域住民と海外アーティストの交流
 滞在中の海外アーティストと地域住民の交流が促進されることによって、地域住民の事業への興味関心が高まった。交流は、制作、滞在、または滞在中の催事等への参加を通して行われた。特に印象的なエピソードは、毎年10月上旬に開催される地域の祭礼である。全ての滞在中のアーティストたちが、5つの集落ごとに行われる神事や山車の曳き回し、飲み会などに参加し、日本人スタッフやアーティストがつなぎながら交流をはかった。その中で、最も山の奥に位置し、若者の流出が顕著な集落の祭礼の集まりに中国・香港の若手俳優・パフォーマー11名が参加したところ、山車の曳き回しは人口が足りずに実現できないと諦めていた地域住民が、せっかくならみんなで山車を曳こうと盛り上がり、コロナ禍で停滞していた祭礼を復活させた。子どもたちは久しぶりに太鼓を叩き、現役世代は山車に電気をつけて、海外アーティストの存在に背中を押されて集落に一時的な活気が戻ったのである。この集落の住民は、パフォーマンス作品の公演に連れ立って足を運び、作品について感想を述べ、意見を伝えるなどのレスポンスでアーティストたちにお返しした。その他のアーティストについても、制作プロセスや滞在先集落において、互いに積極的な交流をはかった。

活動の独自性

1)民俗学者を導入した制作活動
これまでの当該事業では、アーティストたちが地域交流を行いながらのびのびと作品制作し、その体験を作品発表にて還元することによって、地域、アーティスト、コミュニティの有機的な循環が実現していたのだが、アートを通じて、さらに地域に密着した表現を模索することも同時に試み始めている。今年度は、民俗学を専門とするアーティストが参加し、地域に積極的に介入、フィールドワークを実施し、そのプロセスをアーティストたちに共有するなど、地域資源を活かし始めている。実際、アーティストが深く地域コミュニティに参画したことによって、地域住民の事業へのさらなる興味や協力体制につながった。今年度に留まらず、継続的にリサーチしていくことによって、さらにアートを通じて地域と親交を深め、地域の文化や歴史、何気ない暮らしの営みを解剖していく予定である。

2)耕作放棄地を積極的に活用
当事業は、空き家・空き施設を積極的に活用していると同時に、耕作放棄地や放置林などの土地の活用も行なっている。今年度はランドアートを専門とするアーティストが、原泉の隠れた魅力的な風景をいろんな方に知ってもらいたい、という思いから、計6ヶ所の土地(うち、5ヶ所が耕作放棄地・放置林)を活用して作品展示を行なった。それらは普段全くつかわれていなかった土地で、区長や地元の森林組合につなげてもらいながら地主から協力を得て利用に至った。作品は、実験的にその後の強度を観察しながら継続的に設置させていただいている。当事業が、アート鑑賞や国際交流だけでなく地域の自然や風景も発信できるような魅力的な事業に発展するきっかけとなった。

総括

 今年度は積極的な国際交流が再び実現し、アーティスト、来場者、地域住民それぞれの満足度が向上した。この成果により、地域行政からの信頼も徐々に得られ、今後の親交の深化に繋がった。実際、行政からの委託事業や協力体制の強化に向けた準備も進められており、次年度以降の連携関係構築に向けた重要なステップとなっている。また、海外の大学との連携が本事業の活性化や資金調達に間接的に寄与しており、今後も継続的な実施が予定されていることから、次年度以降の資金繰りや基盤形成に大いに役立つと期待される。
 人材基盤の整備に関しては、サポーター・ボランティアスタッフ説明会が開催され、活動を支える基盤づくりが始まった。今年度は多くの新しい出会いが生まれ、その経験をもとに、次年度以降の新たな体制構築が可能となった。特に資金調達に注力した結果、組織としての人材確保にも繋がっている。
 2027年には10周年を迎える予定であり、その達成に向けて、アートコミュニティの拡充と継続的な活動の実現を目指していく。そのためにも、資金繰りを意識した基盤強化に引き続き力を入れ、「原泉アートパーク化構想」の実現に向けて着実に前進していくことが期待される。

  • 若手海外アーティストの存在により、祭礼が復活した時の地元住民たちとの熱気あふれる記念写真。

  • 多国籍のアーティスト同士で作品を紹介し合うアーティストウォーク。制作プロセスや滞在中に影響を受けた経験などを共有し、互いに学び合う場となった。

  • 耕作放棄地を活用した、野外作品。原泉全域を活用した「原泉アートパーク化構想」のイメージ作りの一旦を担った。