活動の目的
UNZENプロジェクトは、「火山と大地」「災害と表現」「記憶と伝承」を主題に、フィールドリサーチや展覧会の開催などの活動を重ねてきた。特に「災害と表現」は、被災地における表現とアーティストの関わりを捉え直すうえで大事な視点であり、戦後初の大規模火山災害である雲仙・普賢岳噴火の被害と復興の経験は、その後の日本各地の災害対応にも受け継がれてきた。
島原半島において、地域や世代を超えた交流の場をひらき、災害記憶をさまざまに結び直していく機会を生み出す。そのプロセスを通じて、火山と人間の関係、噴火災害と表現活動への関心を深めていく。あわせて、この土地に内在する経験や感覚をいまへと引き寄せながら、新たな意味や価値として未来へつないでいく。
活動の内容
1 トークイベント「UNZENのはじまり・いま・これから――火山と生きる、アートでつながる。」
日時:2025年8月31日(土)13:00~15:00
会場:Takagi. Apartment.
プロジェクトの立ち上げ経緯と目的などを共有したのち、美術家・大浦一志さんより平成期の噴火直後から継続している島原での制作活動について話を伺った。美術批評家・椹木野衣さんを交え、日本列島における災害と芸術表現の関係をめぐる対話からプロジェクトの現在地とこれからの展開について思索する時間となった。参加者を交えて島原の地域や個々が抱える課題、その背景についても言葉が交わされた。
2 展覧会「UNZEN ART PROJECT 2025 つながる、はぐくむ」
会期:2025年11月21日(金)~11月30日(日)
会場:まちの寄り処 森岳、雲仙岳災害記念館、保里川家住宅、atelierミドカ
雲仙・普賢岳噴火災害の記憶を手がかりに、大地と自然、人間と生命を主題とする島原在住作家らと招聘作家の作品および当時の記録資料を展示した。島原市内4カ所を会場に6つの展示構成で実施した。関連プログラムとしてギャラリートーク(11月22日、11月30日)とライブイベント「SHIN SASAKUBO 笹久保伸/LIVE in 島原」(12月14日、食堂COSTA)を開催した。
① 大浦一志「杉並区阿佐谷南3丁目23-13↔普賢岳『絶対時間』2011.05.04~2019.03.15」
② 池田俊彦 × 玉井泉「大地で記憶を刻む」
③ 普賢岳ネットワーク=アーカイブ「雲仙・普賢岳噴火資料展」
④ 砂守勝巳「Revelational Land」
⑤ 柚木伸一「柚木伸一のはじまり」展
⑥ 満行豊人 × atelierミドカ「山を、あるく みる えがく」
参加作家、参加人数
参加作家・団体:大浦一志、池田俊彦、砂守勝巳、玉井泉、満行豊人、柚木伸一、atelierミドカ(代表:林聖子)、普賢岳ネットワーク=アーカイブ(代表:松下英爾)
参加人数:トークイベント:43名、ギャラリートーク:41名、ライブイベント:35名
来場者:のべ651名
他機関との連携
雲仙岳災害記念館、多摩美術大学アートとデザインの人類学研究所との連携・協力のもと実施した。トークイベントの運営および展覧会の設営・運営にあたっては、地域の店舗や団体、個人の方々から多くの協力を得た。
活動の効果
本プロジェクトを通じて、災害記憶の継承と新たな交流の契機が少しずつかたちになっていった。雲仙岳災害記念館や絵画教室atelierミドカとの連携により、被災経験をもつ世代と、その後の世代とが交わる機会が生まれた。
噴火当時の体験や記憶が来場者同士のあいだで語られるなど、イベントや展示会場では、これまで個別にとどまっていた記憶も持ち寄られ、共有される場面がたびたび見られた。島原市の中心地に複数の会場を設け、商店や飲食店の協力のもと展示やイベントを展開したことで、日常的な生活圏のなかで作品に触れる機会が広がった。そうしたなかで、作家と来場者のあいだにも自然なやりとりが生まれ、立ち話のなかで当時の記憶が語られる場面も多くあった。会期を通して、そうした時間の積層が印象に残っている。
会期中は新聞各社やラジオなど複数メディアに取り上げられ、来場者は島原市在住者を中心に、雲仙市、南島原市をはじめとする長崎県内各地に及んだ。
また、地域在住アーティスト同士の出会いの場ともなり、今後の活動に向けた関係性も育まれている。行政関連施設との連携への意識も高まり、具体的な企画検討へとつながりはじめている。
来場者からは、今回の展示作品を媒介に、日常の風景のなかでこれまで見過ごしてきた場所や出来事に、あらためて目を向けるきっかけになったという声も寄せられた。
活動の独自性
噴火災害の記憶を、現在に立ち上がるものとして捉えながら、活動のプログラムや展示構成を検討した。作品の鑑賞とあわせて来場者同士の自然なコミュニケーションが生まれ、被災経験や当時の記憶が場や作品を介して共有されていった。島原に暮らす人びとのあいだでも、それぞれに異なる体験や記憶があり、それらが語りのなかで重なり合うことで、大規模災害から35年を経た現在における、新たな対話のあり方や記憶の共有・継承の姿として見出されていった。
また、既存の記録資料やアーカイブが蓄積されている一方で、本プロジェクトではそれらを参照・伝達するにとどまらず、アートを媒介にして記憶にともなう感情や感覚に触れる場面も少なくなかった。こうしたなかで災害の経験は、過去の出来事として固定されるのではなく、現在の生活や身体感覚と結びついたものとして捉え直されていく。
本プロジェクトは、記憶を現在から未来へつなげていくための場をかたちにしていく試みでもある。個々や地域にとって、これから起こり得る災害と向き合うためのひとつの実践のあり方として位置づけられる。
総括
地域や世代を越えた新しい関係性が、少しずつかたちになりつつある。雲仙・普賢岳に関する人々と土地の経験は、その後の復興のプロセスで育まれてきた自然環境や文化的な営みも含めたあり様として、丁寧に見ていく必要があると感じている。そうした複層的なグラデーションは、島原市、南島原市、雲仙市といった行政の枠組みを越えて、島原半島全体の生活や感覚とも関係づけられていくのではないか。
このことを共有しながら、それぞれがこの土地で生きる/関わるための表現やあり方を模索しつつ、火山がもたらす多様な影響と、そこから生まれる芸術表現の可能性を、UNZENから今後も発信していきたい。
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トークイベント「UNZENのはじまり・いま・これから」会場風景
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大浦一志による「雲仙普賢岳プロジェクト」での発掘作業を記録撮影した映像を、被災地で採取した土砂とともにインスタレーションとして展示 撮影:渡辺真太郎、藤田恵実
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砂守勝巳展「Revelational Land」ギャラリートーク 撮影:渡辺真太郎、藤田恵実