アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

イミグレーション・ミュージアム・東京

特定非営利活動法人音まち計画

実施期間
2025年4月1日~2026年3月31日

活動の目的

美術家の岩井成昭が主宰する IMM 東京は(2010 年~)、地域に居住する海外ルーツをもつ人 びととの交流を通じて企画されるアートプロジェクト。地域に暮らす彼/彼女らの生活様式や 文化背景を紹介するとともに、それが日常の中で変容していく諸相を「適応」「保持」「融合」 という 3 つのキーワードから探ってきた。本事業では、活動を通して多文化社会を知り、考 え、参画していくためのプラットフォームの形成を目指し、足立区の多文化化について考える きっかけづくりを行う。

活動の内容

今年度も足立区内の小中学校を対象としたアート・エデュケーション・プログラムを小中学校各1校(花畑西小学校、足立区立第一中学校)で実施した。小学校では、5年生2クラスを対象に1日1クラスずつ実施し、1校時から4校時の時間内で完結させる3ステップのプログラムとした。中学校では、アート部員1~3年生を対象にアーティストとの出会いから制作、振り返りまで6日間にわたり実施し、アーティストと生徒との信頼関係の構築に重きを置いた。アート・エデュケーション・プログラム4年目となる今年度は、実施目的を「文化的多様性をアートを通じて体験することで文化的多様性への理解を深め、自分と異なる他者、さらに自分らしさに気づくこと」と捉えなおし、体験を通じて様々な気づきや正解のない問いを考える力を身に着け、多文化への理解を深めることをねらいとした。

小学校で実施したプログラムは、昨年度までの4ステップから3ステップのプログラムへと改め、学校側からも指摘されていた課題(昼休憩をはさむと児童の集中が途切れてしまう)の改善を図った。プログラム全体をゆるく通底する概念は、メインアーティストであるダン・ダゴンドン(Dan Albert Dagondon フィリピン出身 東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科博士課程所属)の視点でもある「ルタン」(Lutang:タガログ語で漂う、流れる、輝く、ぼんやりするといった概念)であり、ルタンな空間を共有する中で児童の想像力の無限な広がりを試みるプログラムとした。第1のステップは、アーティストとIMMメンバーのファシリテートによる音楽と体を使ったワークショップで、児童の心と体をほぐし自由に想像力をめぐらすエクササイズを行った。第2のステップでは、アートコミュニケーターによる対話型鑑賞を行い、アートカードやアート作品等を使って児童の持つ想像力のさらなる可能性を広げた。児童は自分自身と他者との考えの違いに触れ、そこには間違いも正解もないことを知識としてではなく実践することで感じ取っていた。また、アーティストから提供された写真を見て様々な想像をめぐらすことで、第3のステップへの橋渡しを行った。第3のステップでは、場所を2ステップまでの体育館からアーティストの物語の舞台として装飾された生活科室に移動し「星とむにむにータルシラのトラララ山への旅(The Journey of Trcila to the Mountains Tralala)」と題された参加型のパフォーマンスを実施した。床一面にはフィリピンンの手織りの敷物「banig」が敷き詰められ、部屋全体には白い蚊帳「kulambo」が吊られている。床のあちこちには無数の洗濯ばさみの山が置かれ、蚊帳の内部にも洗濯ばさみが吊るされている。部屋の中央にはカセットデッキが置かれその傍らにはアーティストが横たわっており、カセットデッキから流れるアーティストの母親の声との会話でアーティストの家族の物語が語られていく。児童らは床に落ちている大量の洗濯ばさみをアーティストにいざなわれながら自由に様々なものを作り上げていく。自分や他の者に洗濯ばさみを装飾したり、意味を持たないようなオブジェを作っていく児童もおり、タガログ語が流れる蚊帳の中の不思議な空間で児童たちは「ルタン」を共有する体験をし、自分が考える「トラララ山」には何が見えるかに思いをめぐらせた。また、小学校実施前に仲町の家において第3のステップのトライアルを実施した。この試行には、大学教員、学生、アート関係者、小学生、区職員等が参加し、ブラッシュアップの機会となった。オープンに開催したことにより、学校内に閉じられているというこれまでの課題についても解決に向けた一歩となった。

中学校では、中国にルーツを持つ現代アーティストのリ・ムユン(Li Muyun 東京藝術大学美術学部先端芸術表現科大学院)が、アート部員を対象に自分を見つめなおす体験を経て「あたりまえ」を再構築するワークショップを6日間にわたり実施した。IMMメンバーも含めた自己紹介から丁寧に行い、生徒との距離を縮めていった。映像を使った現代アートについての紹介を経て、自分自身を見つめなおす作業として美術教室を暗室化し、暗闇の中で自分自身と対峙する時間を設け、その体験の感想を造形で発表した。その後アーティストから「あたりまえを再構築する」という今回のテーマが伝えられ、教室内にあるアイテムを選び、それらがおのずと持っている意味や価値を考え直し、グループでアイテムを自由に組み合わせて形にしてみる実験を行った。このワークを経て美術室にある当たり前に存在するすべての物品を使い、それらの存在を再構築するインスタレーションづくりを行った。実際に展示するのは校舎1階の吹き抜けのエントランスホールで、アート部以外の生徒、教員も鑑賞できる場所とした。作業は学校の理解と協力を受け平日の部活動以外に日曜日も作業を行った。机や石膏像等を高く積み上げるものもあったため、インストーラー数名に設置してもらい安全面への配慮を行った。当初インスタレーション展示はプログラム期間中だけの予定だったが、学校側からの要望により小学生の学校見学期間にも展示をすることになり、作成後7日間展示された。

参加作家、参加人数

<中学校>
参加作家:Li Muyun
参加人数:104名 ※6日間の延べ人数 
各日の人数:6/23(月):17名、7/1(火):16名、7/3(木):12名、7/4(金):15名、7/6(日):17名、7/10(木):12名、7/15(火):15名

<小学校>
参加作家:Dan Albert Dagondon
対話型鑑賞ファシリテーター:田辺梨絵、石川恵、大川芳江、上田紗智子
ワークショップ・ファシリテーター:田村香奈、寺山穂
参加人数:48名 ※2日間の延べ人数
2/5(木):25名(5年1組) 、2/6(金):23名(5年2組)

他機関との連携

小中学校との調整役:足立区シティプロモーション課
実施校:足立区立第一中学校 アート部、足立区立花畑西小学校

活動の効果

<中学校>
・実施校の美術教諭の紹介によって、区内中学校美術専科教諭の研究会に招聘され、IMM東京およびアートエデュケーションプログラムのプレゼンテーションを行い60余名の美術教諭に活動を知らしめることができた。また、これを受けて東京都中学校教員の美術部会において今年度のアートエデュケーションプログラムを2027年度の研究発表の1本として実施したい旨打診があった。
・中学校美術教諭の提案により、アート部の生徒たちだけでなく、区内でも先進的な取り組みであるスモール・ステップ・ルーム(不登校未満の学生などを対象に教室以外の居場所として開室)に通う生徒たちとのワークショップ(4日間)も別途実施することとなった。
・中学校では担当教諭との良好な信頼関係が構築できた。こちら側の希望をさらに拡充する提案も受けるなど、当事業の趣旨を共有することができた。また、音まち千住の縁の他のプロジェクトにもアート部の生徒の協力を得るなど、プロジェクトと地域の学校との多層的な協創関係が深化した。

<小学校>
・小学校では、アートには正解がないので自分の意見をどんどん伝えられる、いろいろな意見や考え方がありそれを尊重し合うことの重要性など、多文化や他者との共生についてIMM東京の目指す目的が児童や教員に届けられた。

活動の独自性

本事業の活動の独自性は2つある。ひとつは、中学校‧小学校ともに日本に暮らす海外ルーツのアーティストのワークショップを通して、創作ワークショップに留まらずアーティストたちのルーツや文化背景も共有‧経験し、普段の生活では出会わない「他者」に出会う機会となること。
もうひとつは、小学校でのプログラムを創作ワークショップだけでなく以下の4つの工程で構成された1日使ったワークショップであると考えている。①身体を動かしながら思考もほぐす②作品を見ながら対話しそれぞれの見方や感じ方の差異に気づく ③異なる「他者(海外ルーツのアーティスト)」とともに①‧②の経験を踏まえて創作ワークショップに取り組む ④ ①-③で経験したことをもう一度振り返り、対話や創作、身体を動かしながらなど様々な方法でアウトプットする。

総括

今年度で、小学校でのプログラムは今年度で13校、中学校では3校で行い、これまでどの学校からもプログラムへの評価も高く、実施校から継続を期待する声が挙がっている。昨年度課題として挙げていた学校外への広がりについては、中学校美術教諭の提案もあり、区中研でのプレゼンテーションや東京都の研究会での実施要望、他の音まちプロジェクトとのコラボなどで、アート・エデュケーション・プログラムが単純な展開にとどまらず、有機的、多層的に広がる可能性を実感することができた。

  • 中学校アート部でのアート・ワークショップの様子

  • アート部の生徒たちと制作した作品の展示の様子

  • 小学校でのアート・ワークショップの様子