活動の目的
豊田市および愛知県住宅供給公社と連携し、団地住民とアーティストとの協働により10台のダストボックスにペイントを行う。ペイント後に団地内のごみ集積所に「アートダストボックス」として設置する。また、老朽化した団地案内板を修繕し、「アート案内図」として生まれ変わらせる。ワークショップの過程で日本人住民と外国人住民の交流を生み、多国籍住民にとって団地への愛着形成を図る契機にしていくことを目的とする。さらに、多文化共生×アートの先進的事例として全国に向けて発信することを通して、将来日本各地で起こりうる共生に関わる諸問題と向き合うための先例となっていくことを目的とする。
団地内にアートが点在することにより、団地全体が明るくなり、環境や治安の維持に貢献できると考える。住民が制作したアートがあるところには落書きやごみの不法投棄がなくなり、綺麗にしようとする心が育まれていく。将来的には、自治区が主体となって環境美化の一つの手段としてアート制作が位置づいていけるような仕組みを創っていきたい。
活動の内容
外国籍生徒が半数在籍する中学校およびNPOコミュニティーにおいて、児童・生徒から大人までを対象に、アーティストとの協働によるダストボックスのペイント事業を実施する。中学校では「総合的な学習の時間」を活用し、NPOコミュニティーでは日本語教室を通じてワークショップを展開する。
ワークショップでは対話的な手法を重視し、参加者一人ひとりの発想を引き出しながら、アーティストの感性や技術と融合させたデザイン案を作成する。完成したデザインをもとに、参加者との協働により計10台のダストボックスにペイントを行い、主体的な参画と表現の機会を創出する。
また、団地内の案内図修繕については、県営住宅23棟に設置された老朽化した案内図の再生を目的とする。住民とアーティストが協働してペイントを施し、視認性の高い、明るく親しみやすい掲示板として再整備することで、案内図としての機能回復を図る。
これらの制作過程においては、住民とプロのアーティストが協働することで完成度を高めると同時に、作品に新たな価値を付与することを目指す。完成後は、住民にとっての愛着の醸成につながるとともに、来訪者に対しても親しみやすい団地の印象を形成する契機となることが期待される。
参加作家、参加人数
岐⾩、愛知、神奈川在住の計9名(⾚嶺智也、新井真允⼦、井上珠未、⽊全靖陛、榮菜未⼦、坪井⾹保⾥、中島法晃、MadblastHiro、MI)の作家によって活動を実施した。
2025年度の本助成に関するプロジェクトの参加者⼈数は延べ約350名であった。
他機関との連携
プロジェクトの運営は豊⽥市役所猿投⽀所地域振興課、県営保⾒⾃治区と連携を図りながら実施し、ワークショップは豊田市芸術文化振興財団や豊⽥市⽴保⾒中学校、NPO法⼈トルシーダ、⼀般社団法⼈JUNTOSとの共同で実施した。
2025年からは豊⽥市多様性社会共創課や豊田市観光誘客推進課、隣市である瀬戸市の瀬戸商工会議所青年部と新たに連携してイベントを実施することができた。
活動の効果
保見中学校1年生とアーティストの協働により、アートダストボックスを新たに10台制作し、団地内のごみ集積所へ設置した。これにより、これまでに設置していた16台と合わせて計26台となり、団地内すべてのごみ集積所にアートダストボックスが整備された。
その結果、従来は無機質になりがちであった集積所の景観が明るく親しみやすい空間へと変化し、周辺環境の美化にも寄与している。実際に住民からは、「以前よりもきれいになった」「気持ちよく利用できるようになった」といった声が聞かれ、環境意識の向上にもつながっていることがうかがえる。
また、団地内の小学生約80名とともに、老朽化していた案内図の修繕を実施した。作業には保護者や家族も立ち会い、地域ぐるみで子どもたちの活動を見守る場面が生まれた。完成した案内図は、団地住民にとどまらず、外部からの来訪者にとっても有効に機能しており、実際に案内図の前で立ち止まり、行き先を確認してから移動する様子が確認されている。
さらに、アートダストボックスと案内図はいずれも近接した場所に設置されており、日常的に適切に管理され、美しい状態が維持されている。これらの取り組みは、景観の向上にとどまらず、地域への愛着や主体的な関わりを育む契機となっているといえる。
活動の独自性
本活動の独自性は、本プロジェクトがスタートした2019年から一貫しており、定住者と移住者の相互理解を促す対話を核としている点にある。
保見団地においては、多くの日本人住民が地域に居を構え「定住」している一方で、外国人住民の多くは南米などから「移住」してきた人々であり、必ずしも長期的な定住を前提としていない場合も少なくない。こうした背景の違いは、生活意識や地域との関わり方の差異として現れ、ごみや落書き問題において顕在化してきた。
定住者である日本人住民にとって、ごみの分別は地域生活を支える重要な課題である。一方で、異国の地で生活基盤を築こうとする移住者にとっては、就労や生活適応が優先されるため、地域美化に関わるごみ分別への意識は相対的に後順位となりやすい。こうした違いは、単なる生活習慣の差にとどまらず、地域における「存在のあり方」をめぐる構造的な課題として表れている。
このような状況に対し、多言語による表記や日本人住民による意識啓発は、基礎的な相互理解を支える手段である。それに加えて、本プロジェクトにおける案内図の修繕やアートダストボックスのペイントワークショップは、言語に依存しない「感性のコミュニケーション」として機能している。作品は日常の動線上で人々の視覚に働きかけ、感覚的な共感や関心を喚起することで、新たな関係性の契機を生み出している。
総括
2019年に始まった保見アートプロジェクトは、2025年度において、困難な状況からの出発となったが、関係各所の協力のもと、活動を継続・展開することができた一年であった。
本プロジェクトはこれまでと同様に、団地に居住する日本人住民と外国人住民の交流促進の契機となることを目指し、アートを通じた環境美化に取り組んできた。その結果、団地内にアートが蓄積されてきたことで景観の向上が見られ、落書きやごみの不法投棄が減少しつつあるなど、環境面における一定の改善が確認されている。
一方で、2025年4月には自治区役員の構成が一新され、あらためて信頼関係を構築していく必要が生じた。自治区役員の影響力が大きいコミュニティであるからこそ、地域の声に丁寧に耳を傾け、住民に寄り添った活動を継続していくことが重要である。
また、保見団地においては、住民同士および諸機関間の関係性が必ずしも十分に接続されているとは言えない現状がある。NPOや自治組織、行政などがそれぞれ活動を行っているものの、同一地域内であっても情報共有や協働の機会は限定的である。そのため、子どもが地域の中で多様な他者と関わりながら成長する機会は、必ずしも十分に確保されているとは言い難い。
今後は、団地の子どもを起点としながら、アート活動を通じて保護者や地域団体、外部組織との関係がどのように形成されていくのかを継続的に検証し、その意義と可能性を明らかにしていきたい。