瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

男木島グッドサイクル道場PJ

明治大学地域デザイン(川島範久)研究室

実施期間
2025年4月1日~2025年3月31日

活動の目的

本活動は、男木島において失われつつある地域コミュニティの再生と、地域資源を活用した持続的な建築・地域デザインの実践を目的としている。 男木島では、移住者の増加によって民家改修の需要が高まる一方で、離島特有の施工条件や脆弱なインフラ、コミュニティ形成の難しさといった課題を抱えている。また、かつて地域コミュニティの中心であった「道場」は、高齢化や檀家の減少によって役割を失いつつあり、維持管理も困難な状況にある。そこで本研究室では、島内唯一の寺である「道場」を、知見共有や交流の拠点として再生することを目指している。その第一段階として、隣接する納屋を交流スペースとして改修し、島民や移住者、外部から訪れる人々が集まり、地域資源や建築技術を共有できる場づくりを進めている。 改修にあたっては、男木島および周辺地域で入手可能な自然素材や未利用材を活用し、建築の専門知識を持たない人でも維持管理しやすい構法の研究・実践を行う。また、改修過程そのものをコミュニケーションの機会として位置づけ、島民との対話や共同作業を通して、新しい「道場」のあり方を共に模索していく。 さらに、活動成果を展覧会や学会などを通して広く共有することで、地域実践としての知見を発信し、男木島への関心や関係人口の創出につなげることを目指している。

活動の経過

今年度は、納屋改修および今後の道場活用を見据え、島内調査、設計検討、施工実験、島民との交流、対外発信を中心に活動を行った。
まず、4月合宿にて改めて島内調査を実施し、写真・スケッチ・既往研究の整理を通して、男木島の地形や資源、生活環境への理解を深めた。その成果として、島全体の特徴や活動をまとめたドローイング、および道場と納屋を含めたマスタープランを作成した。これにより、従来の納屋単体の改修計画にとどまらず、道場や庭を含めた中長期的な計画を検討する基盤を整えた。
納屋改修では、地域資源や未利用材を活用しながら施工を進めた。キッチンと庭を一体的に利用できるよう、大きく開放可能な建具を設計し、構造補強や外装との連続性を意識した空間づくりを行った。また、既存躯体の歪みに対応するため、3Dスキャンおよび3Dプリンターを活用した欄間の施工方法を検討した。さらに、焼きが不十分で商品化できない焼杉や、反り・日焼けによって販売できなかった羽目板などを活用し、地域資源の循環的利用と材料費削減を図った。
一方で、納屋西側に実装予定であったオンドルおよび浴室計画については、計画内容を見直すこととなった。そのため、本年度は実装そのものではなく、薪ボイラーを用いた給湯システムやオンドル実装に向けた実験を中心に進めた。学内では、薪ストーブ内部に設置した銅管によって水を加熱する実験を実施し、インフラに依存しない給湯方法の可能性を検証した。実験を通して課題も明らかとなり、来年度以降の実装に向けてシステムを再検討する契機となった。
また、島民との交流として、島内清掃、祭り、運動会、食事会への参加を通じて継続的な関係づくりを行った。さらに、来年度以降の道場継承ワークショップを見据え、島民との意見交換を実施した。道場の歴史やこれまでの使われ方について話を伺うことで、地域における道場の役割や期待を把握するとともに、今後の活用方法について議論を重ねた。

活動の成果

本活動を通して、以下のような成果が得られた。
第一に、男木島全体を俯瞰した視点から、道場と納屋を含めたマスタープランを作成することができた。島内調査を基に、地形や資源、人々の活動をまとめたドローイングを制作したことで、これまで個別に捉えていた納屋改修や道場計画を、島全体の関係性の中で整理し直すことができた。また、これらの図面や模型は、島民や外部関係者に活動内容を共有する際の有効な媒体となり、活動の周知や対話の促進につながった。
第二に、地域資源や未利用材を活用した改修手法の実践を進めることができた。既存躯体の歪みに対応するため、3Dスキャンや3Dプリンターを用いた欄間施工を行い、既存条件に応答した施工方法を検討した。また、商品化できなかった焼杉や羽目板、施工過程で発生した端材などを活用することで、地域資源を循環的に利用する構法の可能性を示した。こうした取り組みは、離島における資材調達の制約に対する一つの実践的な提案となった。
第三に、オンドルおよび給湯システムの実験を通して、インフラに依存しない設備計画に向けた課題と可能性を整理することができた。今年度は実装には至らなかったものの、薪ストーブを用いた給湯実験を実施したことで、来年度以降の施工に向けた基礎的な知見を得ることができた。また、納屋西側および浴室計画を再検討する契機となり、より実現性の高い計画へ更新するための準備を進めることができた。
第四に、島民との継続的な関係性を深めることができた。島内清掃や祭り、運動会、食事会への参加を通して、これまで関わりの少なかった島民とも交流する機会を得た。また、道場に関する意見交換では、移住者の一時滞在場所や施工道具を共有できる場としての活用案など、島民の視点から具体的な意見を得ることができた。計画を一方的に提示するのではなく、対話を通じて更新していく姿勢を共有できたことは大きな成果である。
第五に、展覧会や学会発表を通して活動を島内外へ共有することができた。大阪で開催された「川島範久展 自然とつながる建築を目指して」では、模型やドローイング、ブックレットを用いて活動内容を発信し、多様な来場者から意見を得ることができた。また、建築学会大会では「男木島の納屋改修における地域資源の活用と構法デザイン」が審査員賞を受賞し、地域資源を活用した実践的な取り組みとして評価を受けた。さらに、修士論文では、大学研究室による継続的な地域実践の意義や課題を客観的に整理し、今後の活動の方向性を見直す契機となった。

  • 道場と納屋を含めたマスタープラン

  • 納屋東面の欄間施工

  • 展覧会での展示の様子