活動の目的
犬島の歴史と自然を舞台に、ベルギーを拠点とするダンサー・振付家のダミアン・ジャレと、彫刻家・名和晃平が、彫刻と身体に対する新たな視点とアプローチを共有しながら創作を進めてきたパフォーマンス作品「VESSEL」において、新たな表現の可能性を探る。
活動の経過
世界各地を訪れ、その国の神話や土着的な信仰や儀礼などのイメージをダンスに取り入れ、肉体と精神の相克をダンスのなかに映し出してきたジャレと、さまざまな素材や技法を駆使し、イメージと物質性を両立させながら、有機的な世界観を彫刻やインスタレーションで表現してきた名和。
2015年より本格的にコラボレーションを始めた二人は本プロジェクトを通して、生と死、大地と生命の循環、その全てのバックグラウンドとなる「Vessel」(器|船)を作品の基本概念に位置づけ、物性の幅を有する舞台美術と、動的に「態」を変え続けるダンサーの肉体との融合に挑んでいる。
実施場所:犬島(精錬所美術館 敷地内)
【参加作家、参加人数】
ダミアン・ジャレ(振付)、名和晃平(舞台美術)、原摩利彦(音楽)、坂本龍一(音楽:特別協力)、浅井信好、エミリオス・アラポグル、戸沢直子、三東瑠璃、皆川まゆむ、森井淳、森山未來、(ダンサー)、吉本有輝子(照明)、尾崎聡(舞台監督)等が参加。公演当日は約184名の来場者があった。
【他機関との連携状況】
福武財団をはじめ、岡山市立犬島自然の家、島内の宿泊業者、船会社、バス会社、犬島住民の皆さまなどの協力により本事業を実施した。
活動の成果
犬島での現地調査や滞在制作、それに伴う島民とのコミュニケーションなどを通じて、劇場以外での公演の潜在的な可能性を引き出す機会となった。
島が育んできた歴史と自然、犬島という場所がもつ文脈を取り込むことで、作品を新たな次元へと導くとともに、パフォーマンス公演を軸とした犬島の活性化を促すことができたように思う。
活動の課題
【活動の独自性】
「VESSEL」は神話や哲学、物理学やバイオテクノロジーに至るまで、領域横断的な背景を内包しながら、曖昧模糊としたイメージの世界において、ダンスと彫刻の融合を目指してきた。振付家、ダンサー、アーティスト、音楽家が対話を重ね、それぞれの視点から新しい言語を積み重ね自ら進化してゆく作品であり、主に京都を拠点に共同制作を続け、時間をかけて創り上げてきた。また、国内外のアーティストやダンサー、学生たちとのワークショップ、展覧会への映像出品、トークの開催など、公演以外での活動も活発に継続している。
【総括】
今回の公演では、犬島の自然をはじめ、夜空や月など劇場では演出することのできない要素が加わり、パフォーマンス全体が自然と一体となって生命体のムーブメントとしてダイナミックな空間を創り出すことができる貴重な機会となった。
また、この犬島では「F邸」に名和の作品が展示されており、作品鑑賞後にパフォーマンス公演を観賞する、という流れを創り出すことができた。時間をかけて場所やその土地の人々と深く関わることにより、今までとは異なる視点から作品を捉え、新たな可能性を発見できたのは、犬島という土地が持つ力があってこそのことだったと思う。
常に進化し続ける「VESSEL」は、公演を重ねるごとに、空間や領域といった既存の枠組みを超え、常に実現に向けて多くの困難は存在するが、その全ては結果として全ての糧となり進む道を指し示してくれるだろう。
今後は日本だけでなく、アジアやオーストラリア、ヨーロッパなど海外公演ツアーが予定されており、今回の機会は必ず今後の公演にも影響を与え、つながってゆくだろう。末筆ながら、今回犬島で初めての屋外公演を開催するにあたり、ご協力いただいた皆さまに心より感謝申し上げたい。