瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

【犬島パフォーミングアーツ助成】犬島パフォーミングアーツ公演『URA-SHIMA』

特定非営利活動法人アートファーム

実施期間

活動の目的

「舞台芸術でつなぐ、夢のつづき、島のみらい」をコンセプトに、かつて産業の島として栄えた犬島が、今はアートの島へと変貌してゆく現実のなかで、離島に生きる人々の逞しさへのオマージュを作品化した。 近代化産業遺産の遺構に刻まれた夢の痕跡、石材業の興亡が物語る人の流転、過疎化と高齢化に見舞われた負の現実などを、浦島太郎伝説の時間と虚構のロジックを用いて物語化し、観客はそれを巡りながら目撃する。

活動の経過

2014年秋に企画が立ち上がり、劇作を岡山市に在住しながら県外の劇場・劇団にも作品を提供している劇作家・角ひろみが書き下ろし、演出には演劇・舞踊を横断したパフォーミングアーツで国内外からの評価が急上昇している演出家・小野寺修二を抜擢した。
翌年4月末から東京の森下スタジオで稽古が開始され、角の描いた幾つかのシーンをもとに、小野寺がそれを俳優とともに立体化していく。また逆に、小野寺からシーンのオーダーが角に出され、稽古場に通いながらテキストにしていく。こうしたセッションのような実験的創作が、夏頃まで継続されていった。
10月初めにスタッフ・キャストが犬島入り。島での本番を想定した稽古を前に、コミュニティーハウスで島に住む方々との交流会が盛大に開かれたり、本番前日には島の方々を招待してゲネプロが上演された。
本作品は、島内3カ所を俳優たちが観客とともに移動しながら上演していく野外劇。10月17日・18日の12時と15時の公演には、岡山県内はもとより県外からの来場者も多く、犬島の豊かな自然と歴史に囲繞されながら、日常の時間を忘れてしまいそうな21世紀版の『URA-SHIMA』体験を味わっていた。

活動の成果

□企画において
犬島と東京という地域を越えて、演劇とダンスというジャンルを超えて成立したオリジナル作品『URA-SHIMA』は、第1回の犬島パフォーミングアーツプログラムに採択され、その趣旨を体現することができた。犬島の地域資源を作品化することは、日本の近代を批判的に捉えることであり、経済から文化へとシフトチェンジしていく日本の未来を予兆的に描くことであった。
□創作において
劇作の角ひろみと演出の小野寺修二の傑出した才能は前述したので、俳優陣の出色ぶりにふれておく。出演は小野寺が主宰する「デラシネラ」のメンバーであったが、彼らの表現に立ち向かうストイックさとフィジカルが、本作品を成功に導いたといえる。犬島のオルタナティブな空間は、どんなパフォーマンスにおいても演じる者の真価を試してやまない。
□集客において
数としては計画を上回ることはできなかった。しかし、犬島での舞台芸術公演のリピーターも含めて、“犬島オリジナル”に期待して来場する人々が確実に増えている。先駆・先鋭・前衛・実験的創作が犬島ならではの使命かもしれない。
□運営において
滞在から公演までトラブルや事故もなく運営することができた。滞在施設の調整に苦慮する面もあったが、キャスト・スタッフの理解で乗り切ることができた。島の人々とは交流会が奏功して、滞在期間中も穏やかな関係性が育まれ、成熟していく島の様子に接することができた。

活動の課題

やはり犬島の滞在環境の整備が喫緊の課題と思われる。国内外にアーティスト・イン・レジデンスの島をアピールするには、岡山市も含めた地域政策が望まれる。

  • オープニングは犬島海水浴場の熱砂の上で

  • 天然の舞台・近代化産業遺産の発電所跡にて

  • 山陽新聞10/31朝刊に5段記事で掲載