アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ(プレプロジェクト)

学校法人 東北芸術工科大学

実施期間
2019年4月1日~2020年3月31日

活動の目的

空洞化が進む中心市街地に体験型アート作品を制作・設置することで、地元住民と観光客の交流推進や街づくりへの参加を促し、地域の賑わい創出につなげる。この制作プロセスを、アーティストと地域住民がマネジメントしながら、アートによる地域振興を担う人材を発掘・育成し、山形ビエンナーレを通して全国に発信する。

活動の内容

トラフ建築設計事務所の監修により、山形市中心市街地の解体跡地等や空きビル内に、オリジナルのスポーツ競技のためのフィールドをつくり、市民参加ワークショップで競技のルールや器具を決定・制作。地方都市における東京オリンピック2020年のプレイベントとして、アート+スポーツによる「ローカル競技・山カップ」を山形から提案した。
また、詩人の和合亮一さんと山形市街をめぐり、歴史的建造物、公園のベンチ、喫茶店、街路樹の下、お寺の石段など、さまざまな場所で詩を書く「ライト・オンザ・スポット」のレッスンを通し、各々が綴った詩片を箱型の本「詩ノ箱」に入れて設置し、未知の読者へと手渡し、詩作の旅へと誘う言葉の実験を行った。

参加作家、参加人数

【山カップ】鈴野浩一+禿真哉(トラフ建築設計事務所)、小板橋基希(アカオニ)、宮本武典(プログラムディレクター)/講座参加者14名/イベント参加者47名/展示会来場者1,061名
【詩ノ箱】和合亮一(詩人)、宮本武典/ワークショップ参加者31名/イベント参加者58名/展示会来場者13,270(参考値:県立図書館来場者)

他機関との連携

【山カップ】リノベーション物件の会場連携として、株式会社マルアール(とんがりビル)と株式会社旅篭町開発(gura)
【詩ノ箱】会場と企画連携として、山形県教育委員会と山形県立図書館。紙面連携として山形新聞社。

活動の効果

【山カップ】通常はそれぞれのコンテンツが独立した店舗として運営している施設を、ひとつのテーマで一体的に運営することで、来場者に通常とは違う風景・環境・質感の変化を提供できた(会場提供者コメント)。
【詩ノ箱】リニューアルに合わせて実施した「朗読会」では、開館時間中の静かなイメージとは異なる清々しい声が館内に響きわたり、図書館の持つ新たな魅力・価値を発掘することができた(山形県立図書館長コメント)。

活動の独自性

本事業では、美術館や劇場などのインフラに頼らず、足元の地域から多様な要望や課題に対応して、幅広くアートやデザインを利活用ができる人材が必要となっており、リサーチ、ファシリテート、場の経営能力もその職能に付与し、地方都市で活躍できるアートマネジメント人材の育成を目指すことが大きな特徴と言える。
この成果は本学が2年に一度開催している山形ビエンナーレに受け継がれ、多くの観覧者に対してコンテンツとして提供されることから、地域における活動人口と交流人口の増加を同時に図ることができることも、本事業の独自性を表すものである。

総括

人材育成の面では、すべての受講者が「各自が設定した目標を達成できた」と回答、96%が「参加することにより新たな発見・学びがあった」と評価しており、満足度はかなり高いものであった。また、「山形ビエンナーレ以外のまちづくり活動にも参加したい」との回答が70%以上あった。さらに、成果発表の場であるイベントの参加者も、93%が「期待以上の内容だった」、86%が「参加により新たな発見・学びがあった」と答えていることから、活動人口・交流人口増加の両面で一定の成果が得られたといえる。
一方で、連携先であるリノベーション物件オーナーからは、それぞれ目的が独立した店舗からなる複合施設を、同一テーマの下で一体的に運営することにより、街の新しい風景を生み出すことができたとの声が寄せられた。また、県立図書館のリニューアルオープンに合わせて実施したプログラムでも、図書館の概念を打ち破る画期的な発想の企画や、新しく整備されたオープンスペースのユニークな展示方法など、今後の運営の参考になる新たな魅力や価値を発掘してもらったという管理者からの声もあり、民間・公共いずれの施設からも今後の展開につながる高い評価が得られたと考える。

  • 山形にちなんだ3種競技大会「山カップ」

  • 街を歩きながら詩作するワークショップ

  • 成果発表展示と座談会で活動を振り返る