活動の目的
阪神淡路大震災から20年経った2015年から始動した「下町芸術祭」は、歴史的にも移民が多く文化的多様性を持っていること、震災という共通体験を得ていることなどを活かし、新たなインフラを作ることではなく、文化芸術活動を媒介として町の持つ魅力を再発見し、未来に向けて次の町のビジョンを構築することを目指している。
活動の内容
下町芸術祭2019では、以下の全6プログラムを実施した。
・多角的な視点から地域の歴史や文化について考える「下町芸術大学2019 」
・神戸ゆかりのアーティストを招聘し、まちの変遷を作品を通して表現した「from 此処から、此れから」
・個人宅を公演会場とし地域住民が演者として出演するなど、地域との協働が行われた「家が歌う」
・3カ年プロジェクトの本説として能形式を引用した現代舞台劇にて下町の概念を捉え直した「森村泰昌 下町物語2017-2019」
・3名の写真家の作品を広場や商店街などの公共空間に大型展示した「下町寫眞」
・それぞれの企画を横断するプログラムとしてツアーやカフェを運営した「つなぐプログラム」
参加作家、参加人数
[約90組] あごうさとし/Erin Kilmurray/おおのあやか/片岡杏子/加藤千佳/神野翼/ 國久真有/澤田知子/砂連尾理/ソン・ジュンナン/高田雄平/高橋信夫/趙恵美 /寺田みさこ/永井順 /中元俊介/パクウォン/ハラチグサ/薔薇の性/広瀬浩二郎/藤森太樹/松見拓也/馬渕洋/宮崎みよし/森村泰昌、他
他機関との連携
兵庫県、神戸市、長田区などの地元自治体と連携。地域の25以上の団体が実行委員会に参画しており、資金援助だけでなく広報面でも協力いただき実施した。
活動の効果
「下町芸術祭2019」では、駅近くの広場や商店街など、地域住民の日常の動線内に作品を展示したことによって、30日間の会期で延べ147,125人に芸術作品の鑑賞機会を提供することができた。また、来場者やスタッフ、アーティストが気軽に立ち寄れるプラットホームとしてカフェ運営をしたことにより、カフェのスタッフや利用者から自発的にイベントが立ち上がるなど、双方向なコミュニケーションが生まれる場となった。
活動の独自性
下町芸術祭は、当エリアで活動しているアート団体を中心に、地域内のさまざまな企業が実行委員会に参画し、アートを媒介に地域内の人や団体がつながるハブとして実施。ただ作品鑑賞提供を目的としているのではなく、下町情緒が色濃く残る路地や古民家に足を踏み入れていただくことで、地域内外の人がアートと共に第三者的に街が持つ魅力に気づき、場そのものを深く体験していただけるようにプログラムを展開している。
総括
当実行委員会では、2015年より2年に1度芸術祭を実施しており、3回目となる「下町芸術祭2019」は、それぞれの分野にて専門性の高いディレクターに企画を委嘱したことにより、特色豊かで先進的な企画でありつつ、”下町”という地域性が立ち上がる全体として非常にバランスの良い構成であったと自負している。
本年は、地域住民から自発的に企画が立ち上がるなど、これまで培ってきた関係性の上でこそ成り立つプログラムが展開され、継続的な活動の重要性が浮き彫りになるとともに、下町芸術祭としてのアイデンティティが垣間見える取り組みとなったように思う。その一方、ボランティアスタッフの不足や恒常的な事務局の不在など、運営体制においてさまざまな課題も浮き彫りとなった。今年度は、実行委員会体制を見直し、企画内容に関わる実行委員は企画部会として委員会体制から分離するなどの大きな変更を行った。また、当エリアに合同庁舎が移転するなど、町自体も転換期となった。阪神・淡路大震災からの復興だけでなく前進する町の日常に、アートや文化が当たり前のように溶け込む日が来ることを願って、今後も様々な活動を模索していきたいと考えている。
-
展示プログラム「from 此処から、此れから」
-
パフォーマンス・プログラム「家が歌う」
-
写真展示プログラム「下町寫眞」