アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

崇仁すくすくセンタープロジェクト

山本 麻紀子

実施期間
2021年4月1日~2022年3月31日

活動の目的

崇仁地域において、京都市立芸術大学(以下「京都芸大」)移転などの新しいまちづくりによって、地域の歴史や人々の記憶、思い出の分断や消失が危惧されており、それらの継承を担うことができないかという思いを発端にプロジェクトを立ち上げた。移転予定地である元小学校、元市営住宅、元保育所などで生きていた樹木の挿し木を試み、それらを媒介として、地域の方々とともに成長を見守りながらお話の聞き取りや作品制作を重ねることで、土地の記憶や物語、人との繋がりを継承していくことを目指している。挿し木が十分に成長した際に、崇仁地域やその他ご縁のできた場所へ地植えすることを目標に2030年までを念頭に計画をたてている。

活動の内容

●崇仁デイサービスうるおいの利用者・職員の方との活動
具体的には、プロジェクト紹介と植物の世界に触れていただくワークショップ、挿し木を囲んでおはなしや絵を描く会、色和紙づくり、色和紙を使って挿し木のちぎり絵を制作した。また、デイサービスフロア内で挿し木の見守りをお願いし、成長記録日誌作成や挿し木に触れていただきながらのおはなしの聞き取りも行った。
●山本麻紀子による個人リサーチ
今後、年1回崇仁の屋外で開催を予定している「挿し木鑑賞会」の際の場の設え、ワークショップで行う作品制作おける素材や技法など探る実践として、主に「植物染め」と「焼き物(土)」をテーマにリサーチを行った。
●活動報告展の開催
上記2つの取組みを紹介する報告展を開催した(2022年2月14日~2月20日)。

参加作家、参加人数

デイサービスうるおいでのワークショップや挿し木の見守り日誌記録など(利用者と職員方)/約30名
地域連携などのアドバイザー/5名
展覧会入場者数/約130名

他機関との連携

崇仁自治連合会から、今後の展開について様々な意見をいただいている。崇仁発信実行委員会が発行している「崇仁~ひと・まち・れきし」「崇仁小学校の思い出冊子」にて本取組について掲載していただく予定。2022年度は、児童館、崇仁地域の手芸サークルの方々、京都芸大の学生などと作品制作を進める。

活動の効果

崇仁デイサービスうるおいと協働でプロジェクトを進めめさせていただけたので、高齢者の方々の意見や思いをより深く伺うことができ、施設とともに一体となって活動を進めることができた。今後毎年継続して行っていく作品制作のためのリサーチ(素材・技法を探る)を充実させることができた。展覧会を開催できたことで、地域住民とのつながり、地域外からの関心、新聞記者やメディア関係の方々と、今後継続して関係を育んでいく基盤づくりができた。年間記録集を幅広くお渡しすることができた。

活動の独自性

うるおいの利用者の皆さんからのおはなしの聞き取りでは、実際に挿し木に触れていただいたり、その挿し木の元の姿や、樹木が生きていた場所の写真を見ていただきながら丁寧にお話を聞き取ったため、より鮮明に昔の風景やその時の感情などを思い出していただけ、認定症予防などの福祉面での効果もあった。
植物の成長を見守る長期プロジェクトのため、大きなビジョンを持ちつつも一年毎にじっくりと計画をたてる中で出てきた様々な疑問点を、地域で活動されている他団体の方や行政、また樹木医やHAPS(東山アーティスツ・プレイスメント・サービス)から意見やアドバイスをいただくことで、より包括的な連携体制をつくることができる。
現在、崇仁地域と同じような課題に直面している地域の方々と、「挿し木」をきっかけにして、交流や協力体制を育みながら、地域を超えた活動へと発展させることができる。

総括

2021年度よりプロジェクトを自走させるにあたり、共生・協働・信愛を行動規範に地域で長年活動している社会福祉法人の職員、地域拠点や新しい福祉の場などの設計を通じ、「コミュニティの見える場面づくり」に取り組む設計事務所の建築士、京都市の文化芸術政策の担当職員とともに実行委員会を立ちあげた。また、樹木の専門家から技術的なアドバイス、HAPSからは地域連携・アートプロジェクトに関するアドバイスやイベント告知の協力など様々なサポートをいただいた。大がかりなまちづくりにより、地域の景色が急激に変わっていく中、またコロナ状況下で普段より外に出る機会が少なくなり、人との接点
も減った高齢者の皆さんと日頃から寄り添う福祉施設の職員と協働でプロジェクトを進めることで、地域で長く暮らしてこられた利用者の方が、できる限り主体的に作品制作や発表に関わっていただけるよう注力した。施設職員の方より、報告展で展示した作品を見て、利用者の個性がそのまま手を通して表れ、それらが集まった時に非常に魅力的な作品になるという気づきがあり、介護現場における職員の意識を少しずつ変える契機になったという意見もいただき、一方的ではなく相互作用のある組織体制が創り出せたように思う。

  • デイサービスでの挿し木の見守り風景

  • デイサービス利用者によるちぎり絵制作

  • 崇仁すくすくセンター活動報告展  写真:内堀義之