アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

KUMANO

一般社団法人マルタス

実施期間
2021年10月27日・28日

活動の目的

オランダと日本を拠点に世界で活動するピアニスト・アーティスト・ディレクターの向井山朋子は、生まれ故郷の新宮市に新たに文化施設が建設されることを知り、熊野古道がかつて巡礼者たちの情報交換、交易の〝場〞であったように、新宮が文化の交流、交差、発信する土地とならんことを目的とし、2019 年地元有志メンバーと共に「ここから実行委員会」を立ち上げた。 組織の名前通り〝ここから〞、新宮市から世界に発信するアートを掲げ、2021年度は、熊野で撮影した映像とピアノ音楽を軸にインターディシプリンな「KUMANO」と題した舞台作品を、新宮市の新たな文化発信施設オープンを記念するコンサートとして、地域在住市民と協働しながら制作した。

活動の内容

現実と非現実、身体と精神、神聖と穢れが混沌と共存するこの土地からインスピレーションを得て、向井山朋子がオランダを代表する映画人レニエ・ファン・ブルムレンと協働し、熊野で撮影した映像、ピアノ楽曲と自然音と電子音が交差する音世界、リアルタイムのコンサートと映像の投影を重ねる方法で、現実と架空のあわいの視覚化を試みた。ジェンダー、生と死が通奏低音となり、向井山の幼少の頃の記憶を映像で追体験しながら、極私的な視点で熊野の世界を再構築した。創作リハーサルと映像撮影は熊野市、新宮市にて行われ、発表は新宮市の新たな文化発信施設「丹鶴ホール」オープンを記念するコンサートとして2021年10月27日・28日の2日間開催された。

参加作家、参加人数

映像・インスタレーション・照明/向井山朋子、レニエ・ファン・ブルムレン
ピアノ/向井山朋子
いけばな/片桐功敦
テクニカルディレクター/遠藤豊(LUFTZUG)他
プロジェクト参加キャスト・スタッフ人数合計54名、有料来場者720名(全2回公演)

他機関との連携

ここから実行委員会(創作稽古準備、公演運営、広報活動の連携)、新宮市(市役所、市民、行政関係者との連携)、オランダ大使館(感染症により海外渡航が厳しい時期における入国までのサポート調整、広報協力)

活動の効果

中高生から高齢者まで幅広い地域住民への刺激、新たな価値観の提示となった。また結果として、地元では珍しい複合アート芸術による上演形態であったため、新施設の利用事例の提案にもなった。ワークショップを経た地元の小学生が舞台出演するシーンもあり、新施設での舞台出演は大変刺激になった。当初の目標を大きく上回る有料来場720名の動員結果となった。新宮周辺市民のほか、新宮熊野の観光を兼ねた関東関西など遠方からの来場者も含む。2022年度はオランダにて再演ツアーも予定されている。

活動の独自性

劇場や専門機関スタッフではない、地域の実業家、様々な職種の職業人、主婦などによる20数人の地域住民からなる地元実行委員会との協業による運営、広報活動と、その過程。特に広報チケット販売活動においては、対面人づての口コミによる拡散宣伝、ポスター掲示、稽古期間中の住民との交流による認知など、人と人との生の交流による成果が大きかった。また県外からの来場者に向けては、椿の花を主体にデザインしたポスターを、新宮市の海辺の風景や歴史遺産、街なみを背景に写真撮影し、SNSで数々のフォトジェニックなビジュアルを発信した。この展開は、地域住民ならではの土地勘やセンスが活かされ、また手作り感もあり、県外からの来場者から好評であった。この経験を活かし、ポストコロナの時代に協働企画を継続し、新たに国際化する術を探ることが今後の課題。

総括

和歌山新宮発、日本とオランダの国際共同プログラムという観点では、スタッフの入国来日のVISA発行を含む可否や隔離期間との関連で、まずは無事本番公演を予定の演出内容で実施できるかが課題であったが、幸運にも和歌山県内における創作リハーサル日程を削ることなく実行できた。人口も感染者も少ない地域における海外スタッフを含めての一同滞在という事もありデリケートな時期ではあったが、720名(有料入場者)を迎えた当日会場運営を含め、感染症拡大の問題なくスムーズにイベントを開催できた。上演した新作は、演出手法的には多くの地域住民には見慣れない先鋭的なものと捉えられたが、冒頭の導入部分に和歌山県立博物館蔵の「熊野観心十界曼荼羅」図をメイン映像として使用するなど、地域の中高年層観客が集中導入しやすい要素もあったと見受けられた。地元で音楽活動をしている若者からは、高度な映像技術をつかった演出や照明効果などが今後の部活動やコンクール、公演活動の参考になったと反響があった。感染症により人と人との生の交流が希薄になっている期間において、上記〈活動の独自性〉で触れたとおり、地域コミュニティ内のまちづくり活性化の刺激の一助となる公演となった。

  • 舞台公演本番

  • 新宮市の風景を活かしたSNS広報活動

  • 舞台出演を前にした小学生ワークショップ