活動の目的
石川県能登半島最先端に位置する珠洲市は、人口約13,000人、高齢化率約50%の過疎地域。しかし、半島の先端ならではの美しい景観、生業、生活様式、祭や食といった伝統文化が今も受け継がれている。この魅力をアートの力で発信したいと町の再起をかけ、2017年に「奥能登国際芸術祭」を開催。芸術祭は、さいはての珠洲市から人の流れ、時代の流れを変えていく運動であるという考えのもと、第2回目となる「奥能登国際芸術祭2020+」を開催。コロナ禍においてアーティストと市民が協働で創り上げた地域の歴史や特徴を活かした作品を通して、来場者へ魅力を発信し、移住・定住につなげる。
活動の内容
2021年9月4日に開幕したが、石川県内にまん延防止重点措置が発令されており、解除となった9月末日までは、屋外作品を中心とした一部公開のみとなった。当初予定した10月24日までの会期を11月4日まで延長し、市内46カ所で作品を公開した。
今芸術祭では、市民総参加型プロジェクト「珠洲の大蔵ざらえ」と銘打ち、各家庭に眠る代々受け継がれてきた農具や生活用品などを記憶や思い出とともに収集。これらの民具を廃校に展示し、音と光と映像、そしてアートの手法を融合させることで、他に類のない劇場型民俗博物館「スズ・シアター・ミュージアム」が誕生した。このミュージアムを奥能登国際芸術祭の拠点施設として、今後も様々な取り組みを展開していく予定。
参加作家、参加人数
16の国と地域から53組のアーティストに参加いただき、46会場で作品を公開した。コロナ禍での開催で、海外からの来場は実現しなかったものの、約49,000人の方々にご来場いただいた。また、アメリカやオーストラリア大使館からの視察があった。
他機関との連携
石川県、珠洲商工会議所、珠洲建設業協会、珠洲市婦人団体協議会、金沢21世紀美術館、能登半島広域観光協会、近隣市町観光協会、㈱東急モールズデベロップメント香林坊スクエア、㈱ハースト婦人画報社等
活動の効果
●コロナ禍で大きなダメージを負った市内の宿泊・飲食・観光関連を中心に、市内経済が好転した。
●移住者の人数が、芸術祭開催前と比較し2倍に増加。今年度は、年間の移住者目標数を達成。
●子どもからお年寄り、障がい者まで多くの方々に参加いただけたことで、市民の文化に対する関心が高まった。
●会期中、毎日のようにマスコミで紹介され、来場者との交流を通し市内の魅力を再認識することで、「自信」と「誇り」を持てた。
●スモールビジネスが増加。
活動の独自性
能登半島の最先端に位置し、世界農業遺産(GIAHS)に認定された美しく豊かな里山里海が広がり、その自然環境を背景に「揚げ浜式製塩法」やユネスコ無形文化遺産に登録されている「あえのこと」、日本遺産に認定された「キリコ祭り」など特色ある生業や生活文化、伝統文化が今もなお受け継がれている。また、2018年には内閣府が選定するSDGs未来都市29自治体の1つに選ばれ、2030年を目標に持続可能な過疎地域を目指し取り組みを始めている。
GIAHS×SDGs×Artを融合させることで、他にはない「さいはての芸術祭」を展開する。
総括
コロナの影響で開催が1年延期となった「奥能登国際芸術祭」。当初検討を重ねていたインバウンド対策をコロナ感染拡大防止に切り替え、来場者はもとより市民の方々にも安心して楽しんでいただけるよう可能な限り徹底した対策を講じた。63日間の会期中に、1人の感染者も出さずに閉幕でき、来場者からも地域の方々からも好評を得ることができた。
今回の芸術祭の一大プロジェクト「珠洲の大蔵ざらえ」では、約1,600点もの民具を寄贈いただき、他に類のない劇場型民俗博物館「スズ・シアター・ミュージアム」が誕生した。また、磯辺行久氏が市内の小・中学生を対象に、風船や浮き輪に手紙を添付し、偏西風・海流の流れを調査するワークショップを展開したほか、大川友希氏による、古着を使った思い出の紐10,000本制作ワークショップには、市内全地区の婦人会員が取り組んだ。
開幕後は、子ども会から地域のお年寄りまで多くの方々が受付に入ってくださり、キャッチフレーズである「市民13,000人でつくる 奥能登国際芸術祭」が実現できたように思う。
この他、企業からのコラボ企画の提案をいただくなど、これまでになかった連携も生まれた。次回2023年の開催に向け、地域一体となった新たな動きを生み出していきたい。
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劇場型民俗博物館「スズ・シアター・ミュージアム」
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磯辺行久による偏西風ワークショップの様子
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作品説明に聞き入る来場者