活動の目的
地域が主役となる地域芸術祭として、アートを手法に無人と呼ばれるエリアの魅力や時には課題をも顕在化させる取り組み。
地域とアートがまざりあい、共鳴しあうことで、地域の土台が作られ、そこで生きる人々の地域への誇りが生まれることを目的としている。
また、効率化とスピード化により現代社会が失ってきた本来の意味での豊かな暮らしは、未だ無人と呼ばれるエリアの人々の生活には残っている。その価値をアートを手法に新たな視点で顕在化させることも目的とする。
「ほりおこす・あらわす・ともにひらく」の3つのフェーズを軸に、地域のリサーチ、滞在制作、芸術祭会期というそれぞれの枠にて生活と芸術が行き来する地域づくりを目指す。
活動の内容
●UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川の開催
「ほりおこす・あらわす・ともにひらく」の3フェーズを軸に、作家によるエリアのリサーチ、滞在制作、そして、2つの市町を走る大井川鐵道無人駅とそこから広がる集落を舞台とした芸術祭を行った。大井川鐵道無人駅6駅とその集落の空き家や森などに15組の作家による19作品を展示した。うち、4組は作品プランを公募した作家であり、作家の作品発表の機会創出の場とした。
今回より、島田市川越し街道を新エリアに加えることで、当地を流れる大井川の持つ特異性に芸術祭としてより向き合うこととした。
12月25・26日の2日間において、芸術祭のプレイベント「奉納神事」を開催、川越し街道にて5組の作家が大井川をテーマとした作品を表現した。
●アートプラット/大井川の開催
「ぼくらのまちじゅう文化祭」をテーマとし芸術祭の会期にあわせ、市民が企画運営する文化プログラムの集約を行った。プログラムの立ち上げには伴走支援を行い食、ものづくり、歴史、ハイキング等、年代も幅広い様々な市民が多彩なプログラムを開催した。
34のプログラムが実施された。
参加作家、参加人数
15作家が参加。
Ii( アイアイ)、上野雄次、形狩りの衆、木村健世、小鷹拓郎、小山真徳、さとうりさ、しでかすなかまたち、杉原信幸×中村綾花、TAKAGI KAORU、夏池篤+山本直、ヒデミニシダ、森繁哉、ゆるかわふう+原正彦、力五山(加藤力・渡辺五大、山崎真一)
集落の人々やサポーターあんまん部は延べ300名が作品制作や芸術祭運営に携わった。
会期中は約20,000人が全国各地より来場した。
他機関との連携
島田市及び川根本町の社会教育課(文化担当)及び観光課、静岡県文化政策課、アーツカウンシルしずおかをはじめ、大井川鐵道㈱、該当エリアの自治会、また市内企業や一般社団法人等多くの機関の協力や関わりの中で開催を行った。
活動の効果
Web版美術手帖の「2022年注目の国際芸術祭6選」に瀬戸内国際芸術祭や大地の芸術祭と並び選出され、昨年よりも大幅に多い来場者が全国各地よりあった。作家と集落住民との関係は年々深まりを見せており、その深い絆から生まれていく作品も多くその熱量は会期中の集落のおもてなしに現れている。また芸術祭との協働の取り組みが評価され、「ふじのくに美しく品格ある邑」知事顕彰を抜里集落が受賞した。
活動の独自性
2つの市町をまたぐ鉄道に沿い「無人駅」をキーワードに開催をしている。「無人駅」を現代社会の象徴と捉え、情報化、効率化により無人化が進む現代の中、関係性やつながりの希薄さと共に人が減っていくという日本に共通する課題を浮き彫りにする。しかし、エリアでは今も人のつながりを大切に豊かにいきいき暮らす人々の姿があり、それらをアートを手法に発信することで新たな価値と発見、関係性を作る地域再生の取り組みとして芸術祭を開催している。
鉄道を軸とすることで浮かび上がる2つの市町にまたがる新たな地域の枠組みの中の、無人と呼ばれる集落を結ぶことで、新たな地域、新たな価値を見出す機会を創出している。
総括
神尾駅では上野雄次が、竹を400本活用し、旧駅舎を作品として生まれ変わらせ恒久設置されることとなった。抜里エリアでは住民による制作協力、作家との信頼関係から自主的に作品の設置や管理を行うなど、地域団体を中心とした支援体制が芸術祭の根幹を担っている。森繁哉公演「ヌクリ里・図絵」での幕間に、集落の高齢女性たちが、自作の衣装と唄と踊りで会場に華を添えるなど、住民自らが表現する意識が生まれており芸術祭を受け入れる土台の強さを感じた。5回の開催を通じ「無人駅エリアの風景や人の営みを開示する」という点において1つの到達点に達することができたと考える。今年度抜里エリアが、地域と芸術祭への積極的な協働の取り組みが評価され「ふじのくに美しく品格ある邑」知事顕彰を受賞した点からも地域再生の取り組みとして大きな成果といえる。今後は、大井川の持つ特異性と無人という意味を、作家や地域とともに掘り起こすとともに、大井川流域の集落から生まれ集落が動かす新しい地域芸術祭に向けて歩を進めていきたいと考える。