瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

瀬戸内海の離島集落における『生きた景観づくり』 男木島らしい住空間存続のための取り組み

安部良アトリエ一級建築士事務所

実施期間

活動の目的

男木島では、過疎高齢化に伴う人口減少が進み、集落の約半数が空き家となっている。一方、魅力的な集落景観や自然環境等、島の魅力が人々を惹きつけ、近年は人口の30%以上を移住者が占めるようになった。私たちは島の大きな資産である、男木島特有の集落景観の魅力を継承するため、里山・里海といった自然環境の育成を含めた「生きた景観」づくりを目的に、集落の空き家調査や移住環境調査、景観づくりの勉強会を行う。 2020~2021年度は新型コロナウイルス感染症の影響から、現地での不特定多数の人との接触を避けるため、活動内容を臨機応変に変更しながら、長期的な活動目標を達成するための足掛かりとなるような活動を進めてきた。空き家整備・活用のためのマニュアルや基盤整備のための情報収集とともに、学術分野での発表も行いながら、男木島らしさをつくり出すための議論と提案を行っている。

活動の経過

新型コロナウイルス感染症の影響で現地での活動が困難となるなか、現地協力者や外部専門家とのオンラインでの意見交換を重ね、非対面での交流の可能性を広げた。2020年10~11月にはZoomを活用した島間交流会を実施し、ゲストに地域づくりや福祉環境の専門家・園田眞理子氏(明治大学)を招き、コロナ禍での瀬戸内海地域の各島の状況や、福祉や医療現場での課題、今後の展望などを語り合った。
感染症の状況が比較的落ち着いた2020年9月に現地入りが可能となり、島民との接触は控えながらも現地での調査を再開。これまでの研究と最新の調査結果をまとめ、2020年11月に日本建築学会全国大会にて発表を行った。また、香川大学原研究室および高松市歴史資料館の協力を得て、写真や映像フィルム等の男木島の資料を見つけた。
2021年度は、これまでの研究内容を広く発信していくための整備を重点的に進めてきた。10年以上におよぶ調査研究内容を整理し、学術的知見に基づく情報基盤としてウェブサイトを公開するため、情報整理やプライバシー保護の方法など検討を重ねた。
2021年度末にはコロナの状況を見極めながらも、現地の協力もあり対面での活動が実現。生きた景観づくりのための活動の一環ともなる、男木島にある雑木林(通称・荒神林、こじばし)の整備を兼ねた環境ワークショップ(WS)を開催。島の子どもたちを中心に、樹木の調査や落ち葉集めをしながら、里山や荒神林の生態系について学ぶ機会をつくった。同時に、移住者および移住希望者による空き家改修の準備が進み、改修に向けた勉強会と意見交換が活発化した。

活動の成果

1 オンラインによる交流の可能性の拡大
医療・福祉資源が乏しい離島での活動の難しさを痛感しながらも、Zoom等の活用が一般的になり、また男木島ではICT活用に関し知見のある移住者が多く、これまでにない意見交換や交流のあり方が見出された。

2 男木島の情報発信基盤の整備/ウェブサイト「男木島アーカイブプロジェクト」公開
10年以上に及ぶ男木島の空き家と移住に関する研究の結果、男木島では空き家の存在が移住を生み出していることが客観的に解明できている。そうしたこれまでの調査研究から得られた情報を広く公開し、男木島での多様な活動に役立てられる情報基盤として、ウェブサイト「男木島アーカイブプロジェクト(https://ogijima-archive.org)」を立ち上げた。

3 生きた景観を作るための勉強会/里山環境整備
2021年度に島の子どもたちと行ったWSが足がかりとなり、自治会やPTAを巻き込んだ荒神林の整備計画へと発展した。具体的には、里山整備をしながら、荒神林の中心に残る旧保育所建物を多世代の活動場所としていく準備が始まっている。自然環境とも一体となった、男木島らしい生きた景観づくりに向けた具体的な一歩であると考える。

4 空き家整備・活用/DIYワークショップに向けた活動
移住者や移住希望者による空き家改修の計画が進み、私たちの専門性を活かした具体的な支援の機会が増加している。整備方法の相談や、DIYワークショップ準備など、次年度以降の活動につながる基盤をつくることができた。
男木島ではこれまでも移住者による空き家の改修や整備が積極的に行われており、改修方法に関するリソースも蓄積されている。そうした島の知的・人的資産も活かした空き家の改修WS開催に関し、具体的な目処を立てることができた。

活動の課題

研究・活動成果の多くを島内へと還元し、島の自治活動や島民中心の空き家活用・景観保全団体へと役割を委譲させていくことを目指し、継続的な情報提供や専門家との連携と併せ、下記に取り組みたい。
1 「生きた景観づくりマニュアル」検討委員会を発足し、住宅整備方法をマニュアル化する。
2 島内に空き家管理・整備・移住相談と「生きた景観づくり」をリンクさせた活動母体を設立。
3 管理者不在の空き家の所有権者と連絡をとり、管理契約を結べるシステムを検討する。
4 行政との連携が課題だが、規制の制度の流用は島の独自性や移住の増加を断ち切ってしまうリスクも考えられるため、適切な支援を得るための体制づくりを検討する。

  • 「黒木島アーカイブプロジェクト」

  • 生きた景観づくりと空き家改修方法の勉強会

  • 空き家を活用方法と石垣修繕方法の勉強会