活動の目的
葦の芸術原野祭実行委員会は、北海道・斜里町での地域芸術祭の企画・運営を通して、知床半島に根付く文化の再発見と、アートによる新たな価値観の創出を目指す有志団体。
当団体は、「アート」と「地域の生活」を不可分の創造的行為と捉え、継続的な芸術祭の開催を通じて地域間・世代間コミュニケーションを図り、知床半島固有の多層的な文化の継承と、新たなアートの創出をおこなっている。長期的な目標として、アーティストインレジデンスの整備による当活動の通年化、産業・観光業、他機関との連携による芸術祭のエリア拡大を図り、知床半島における「アートによる地域振興」を実現していく。
活動の内容
2022年度の芸術祭では、参加型プロジェクト、音と身体表現によるパフォーマンス、インスタレーション展示、地元食材を用いたフードイベントを実施し、それらが相互に影響し合う場を創出した。会場(旧図書館)に残された空っぽの本棚を活用し、来場者から持ち寄られた思い出の品とエピソードを展示することで、「大きな歴史」には残らない郷土史・個人史を発掘し、来場者と場を作っていくプロジェクトを実施した。また、パフォーマンスでは、知床をテーマに地域住民と作家が小発表を繰り返し、それらを統合する新作『葦の波』を発表した。インスタレーション展示では多領域の作家が協働し、個々の作品の枠を越えた群像的な空間を展開した。
参加作家、参加人数
参加作家/Airda、あかしのぶこ、岩村朋佳、加賀田直子、加々見太地、川村喜一、川村芽惟、北山カルルス、黒木麻衣、小林大祐、今野裕一郎、坂藤加菜、佐々木恒雄、中山芳子、橋本和加子、船木大資、真青はてな、松本一哉、山田涼子
参加人数/スタッフ含め総員32名(うち作家19名)
他機関との連携
斜里町立知床博物館による郷土史展示の合同実施、斜里町唯一の私設美術館「北のアルプ美術館」との連携展示、近隣飲食店舗でのワークショップ等を実施した。次年度は斜里町公民館との連携事業、その後は友好都市弘前市との共同イベント等を企画している。
活動の効果
2022年実施プロジェクトのうち、地域住民と参加作家の共同制作によるパフォーマンス作品『葦の波』は、最も大きな反響をもたらした。知床で暮らしてきた人と、知床で暮らし始めた人、知床を訪れた人たちが舞台上にさまざまな表現手段を持ち寄り、それぞれの経験や知床の風土、現存するものや失われたものを想像させる公演となった。満員御礼となり、発表後も多くの人々の心に残っていると耳にしている。
活動の独自性
多数のプログラムを同一会場で実施し、メンバーが「創作」と「運営」の垣根を越えて一体的に関わることで、芸術祭そのものを絶えず変化する有機体として駆動させることを企図している。アーティストが作品制作だけではなく、準備から当日までの運営を担い、地域の人々との交流を深めることで、アーティストの一方的な作品発表にとどまらない互恵的な場づくりを実現している。2022年度の「おもいでうろうろプロジェクト」では、古今のモノやエピソードを募り、郷土史・個人史の語り手と聞き手が出会う世代間交流の場が生まれた。また、それらの経験が新作オリジナル公演へと昇華され、地域に還元されるという循環を生み出している。
総括
継続開催を目指しながら、常に新しい交流を促し、会場に訪れる人々と共に数々の企画を実施することができた。第2回目となる2022年度の開催を経て、葦の芸術原野祭が着実に地域に浸透していることを実感している。
19日間の会期で総来場者数は834人であり、昨年度の475人(13日間)を大きく上回る実績となった。来場者のうち2回以上来場しているリピーターが133人(16%)おり、日々変化する会場と人々との交流を楽しまれていた。「おもいでうろうろプロジェクト」の出品数は計158点、公演鑑賞者数は計128人。地域では当芸術祭を「あしげい」の愛称で認知してくださる方が増え、次回を楽しみにしてくださっている。
会期中に実施したアンケートでは、「様々な人の想いに触れた/懐かしくも新しい知床を感じた」といった感想を多数いただいた。次回以降は、より地域の方々が主体となる企画と実施体制を確立していきたいと考えている。
葦の芸術原野祭が地域に浸透し、地域にとっての豊かさになることが、当活動継続の要であると感じている。長期的な視座に立ち、地域固有の芸術文化を育みながら、葦の芸術原野祭を全国に反響を呼ぶイベントにしていきたいと考えてる。
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地域共同制作新作オリジナル公演 『葦の波』
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遊休施設を活用し、老若男女が交流する会場
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世代を越えて郷土史や個人史を継承する企画