アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

MAT, Nagoya 2022 地域交流プログラム

Minatomachi Art Table, Nagoya

実施期間
2022年4月1日~2023年3月31日

活動の目的

Minatomachi Art Table, Nagoya(以下、MAT, Nagoya)は、2015年より名古屋港エリアを舞台に、まちづくり団体との協働によってアートプログラムの活動を行っている。現代アートの展覧会、レジデンス、スクール、ワークショップなど地域との交流を目的とした様々な企画を提供している。東海エリアには、芸術、建築、デザインを学ぶ大学が数多くある。アート、建築、デザイン、音楽など、分野を超えた表現者たちの交流が生まれる場をつくり、港まちの住人、働く人、訪れる人と様々な世代が表現者と交流しながら、アートがテーブル(媒介)となる活動を実施している。

活動の内容

地域の課題となっている問題に向き合い、3つのプロジェクトを実施した。
1 アーティスト長島有里枝による「ケアの学校」を行った。社会で周縁化される人びとや事象をテーマに制作する長島が、会場を自身のスタジオとして公開。来場者と対話や交流を重ねながら「ケア」について考え、小さな物語が数々生まれた。
2 スタジオプロジェクトでは、ミュージシャンのICHIを招聘し、滞在制作、ワークショップ、ライブなどの活動を行った。滞在中にまちの中で拾い集めた不用品や廃材で大型演奏装置を作成した。
3 「みなとまち空き家プロジェクト」では、建築を学ぶ有志の学生が、職人監修のもと、空き家をアーティストのスタジオとして改修した。

参加作家、参加人数

参加作家/長島有里枝(アーティスト)、宮田明日鹿(アーティスト)、ICHI(アーティスト)、港まち手芸部、みなとまち空き家プロジェクト ほか
年間来場者総数/20,870名(述べ人数)

他機関との連携

港まちづくり協議会、アッセンブリッジ・ナゴヤ、みなとまちこども食堂、トワイライトスクール(学童保育)、まちの社交場「NUCO」、10代の子どもの居場所「パルス」と連携した。愛知県内の芸術系大学、アートセンター、芸術祭などの団体と連携し、広報協力、技術協力などを行った。

活動の効果

「ケアの学校」をきっかけに、長島さんの表現媒体である写真、小説、フェミニズムなどのキーワードによって、アーティスト、地域の団体、プロジェクト、人々をゆるやかに結びつけ、自主的な活動の場や居場所が生まれた。
若手作家によるフェミニズム読書会、みなとまちこども食堂、10代の居場所「パルス」、港まち手芸部、トワイライトスクール(学童保育)へのアーティスト派遣などの活動が相互に連携しながら今後も継続していく予定。

活動の独自性

まちづくり団体と協働して実施しているプロジェクトながら「アートそのものは、まちを変えるためには存在していない。アートの本質は、既存の価値観にとらわれる事なく、独自の視点で物事に向き合い、新たな意味や存在意義を問い続ける事だと考える。」というステイトメントを掲げている。アーティストがまちを訪れ、関わる事でこれまで見えなかった風景や問題・課題に気づき、それらをまちが受けとめる事で、異なる価値観や他者を受け入れてきた港まちらしい、地域の多様性がさらに広がることを期待している。MAT,Nagoya は、テーブルという言葉が多様な意味をもつように、このまちの中でさまざまな意義や表現を持った媒体として活動を行っている。

総括

活動を始動してからの約8年間で社会におけるアートの役割も大きく変化していった。近年は、アーティストと共にまちと深く関わるリサーチを行い、個人的な事象だけでなく、社会的構造によって引き起こされる問題や課題にまで気づきをもたらすプロジェクトへと移行していった。長島有里枝「ケアの学校」では、さまざまな事情で生きづらさを抱える人たちと共に問題を考える場をつくった。港湾エリアは、外国籍の住人も多く、少子高齢化した地域とのコミュニケーションの難しさなどの課題を抱えている。今回のプロジェクトを契機に地域の子ども達を支援する「子ども食堂」との連携や学童保育へのアーティスト派遣事業などが始動した。単年度のプログラムや一過性の芸術祭では実現が難しい、人と町との関係の構築を継続しながら、今後もアーティストとのリサーチベースのプロジェクトを計画している。アーティストにとっては、滞在制作によって新たな表現やアイデアが生まれ、その作品が芸術祭への参加、美術館の作品収蔵などの成果へと広がりが出ている。制作に寄り添い、種まきを続けることで、育つ人やモノや事があると体感している。

  • 長島有里枝「ケアの学校」展示室の様子

  • ICHI ワークショップの様子

  • 空き家プロジェクト 改修の様子