活動の目的
日本のカブトガニは近年、急激に個体群密度を低下させ、環境省や地方自治体の発行するレッドデータブックでも最も絶滅が危惧されている。法的保護策がない海域では、成体や幼体、卵が持ち去られ、産卵場の破壊が続いている。カブトガニを保護することは干潟、藻場の保全と同義である。日本産個体群の保全のために、特に法的保護政策が施行されていない地域を中心に、地元住民―研究者―行政者の連携を強化して保全活動を展開する。
活動の経過
以下の活動を本事業期間内に実施した。その経過を記す。
1)カブトガニ保全のためのシンポジウム開催:
4月20日に関係者が会して、北九州市立自然史・歴史博物館を会場として9月24日(日)に日本産カブトガニの生息状況、国や地方自治体の保全活動に関する情報を国民に還元すること、研究者や保護活動者のネットワーク構築を目指したシンポジウムを開催することを決定した。当日までに、パンフレット、グッズ、研究論文などの配布物の準備を行った。
2)曽根干潟のカブトガニの分布調査:
7月、9月に曽根干潟でカブトガニ生息状況調査を実施した。また、7月31日~8月4日には広島大学生物生産学部附属練習船で沖合の生息場所の環境調査を実施した。
3)ハチ干潟(広島県)のカブトガニの分布調査:
2015年から継続している分布調査を事業期間中、大潮干潮時に毎月実施した。
4)保全アピール活動:
事業期間内を通して、テレビ、ニュースレター、研究論文、学会発表などを介してカブトガニ保全をさまざまな層に訴えた。カブトガニの存在をわかりやすい形で認識してもらうために関連グッズの開発も試みた。
活動の成果
1)曽根干潟(福岡県)のカブトガニ保全のためのシンポジウム開催:
北九州市立自然史・歴史博物館にて9月24日(日)にシンポジウム「ヒト、カブトガニ、干潟―海はだれのもの?」を開催した。環境省閉鎖性海域対策室坂口隆氏を含む8名の講演者がカブトガニの保全政策と現状、各地の生息状況の発表を行った。総合討論では活発な意見交換がなされた。103名の参加者があった。講演要旨集、研究論文、カブトガニの生活史を解説した下敷き、広島大学公認グッズ・カブトガニの絵入りコースターを参加者に配布した。
2)曽根干潟のカブトガニの分布調査:
7月25-27日、幼体の分布調査では1個体/m2の最高密度が確認された。沖合の環境調査では、海底直上に低溶存酸素層が存在したものの(>5mg/L)、上層と比較して極端な貧酸素水塊は形成されていないことが判明した。前年の調査結果を広島大FSC研究報告に発表した。
3)ハチ干潟(広島県)のカブトガニの分布調査:
カブトガニ幼体は底質温度が約17℃以上であると底質上で活動し、以下になると底質に潜って冬眠することが判明した。また、8、9月に新規加入が認められた日本ベントス学会の学会誌に調査結果を発表した。
4)保全アピール活動:
8月25日、テレビ局HTVがハチ干潟のカブトガニを取材し、9月4日にオンエアされた。NHK・Eテレ番組「ドスルコスル」でも、代表者への取材が10月26日にオンエアされた。広島大学広報誌HU-plusに学生と共同開発したカブトガニ絵入りコースターが紹介された。本製品は広島大学公認グッズとして認定されている。その他、広島市安佐動物公園、「海の生き物を守る会」、大学博物館等協議会のニュースレターにカブトガニの保全活動が紹介された。この他、小学生、大学生、高校教諭を対象にした講演会も各1回実施した。8月27日、「カブトガニを守る会笠岡大会」で2題の発表を行った。
活動の課題
今回の活動を通して最も印象に残ったことは、絶滅危惧種の保全に対する研究者、保護活動家の熱意とは対照的に、行政者の対応の鈍さ、あるいは無関心が顕著なことであった。おそらく、どのような希少生物の保全でもこの点が最大の難題であろう。国が適切な指導、監視をして保全しないと日本の希少生物は守れないことを痛感した。生物の絶滅は個体群の分断から始まるからである。
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シンポジウムでの総合討論
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曽根干潟の底質硬度調査風景
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脱皮中のカブトガニ幼体(ハチ干潟)