瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

地域で運営する小さな島の美術館-離島集落の記憶を伝えるアーカイブとキュレーション-

東北大学 土岐文乃

実施期間

活動の目的

本活動は、離島集落において失われつつある暮らしの記憶を掘り起こし、現代的な問題意識からその記憶をキュレーションすることで、記録に残されていない島の暮らしの一側面を浮き彫りにしようという試みである。豊島の廃業した海苔工場を地域で運営する「唐櫃美術館」に改修し、都市・建築学の視点から暮らしの記憶を新たな表現方法で展示することで、島の歴史に新たな価値を見いだすことを目的とする。

活動の経過

2016年に「唐櫃美術館」をオープンし、「KARATO meets ∞」をテーマに豊島の基礎的調査を行い、春・夏と展示を行った。その際の調査は、主に島の暮らしについてヒアリングし、現在では見ることのできない風景を絵に描き起こすというものだった。3回目の展示となる今回は、逆のアプローチをとり、現在見ることのできる特徴的な建物を記録し、その建物にまつわる話を聞くという方法をとった。豊島を訪れた人が実際に立ち寄れる場所として、今回は商店や宿を取り上げ、建物の特徴を表現した図とテキストを展示した。普段の開館は不定期であるが、瀬戸内国際芸術祭開催年は多くの人が訪れるため、会期中は毎週火曜日を定休日として開館している。持続的な運営をしていくために、瀬戸内の海苔を使用した、食べられる「海苔チケット」を制作し、入場料100円としている。そこで得られた収益は、半分を美術館運営にあたっている地元有志に還元、もう半分を次の展示経費としてプールしており、展示の更新を続けられる仕組みづくりを目指している。

活動の成果

活動内容は、①調査、②展示、③アーカイブの大きく三つから成る。
①調査:豊島の四つの集落(家浦・硯・唐櫃・甲生)の違いを捉えるべく、現在見られる建物を収集した。豊島では地元大工が八棟造と呼ぶ屋根が二重になった格調高いa.住宅が多くみられる(244件)。また、それぞれの集落で特徴の異なるb.商業(商店・宿)41件、c.産業(工場・作業場)57件、d.集会(公民館・集会所・井戸・大師堂)22件の建物がみられる。これらを目視で確認しながら、地図と写真に記録した。このうち、お話を伺うことのできた家浦・唐櫃のb.商業13件については、建物の特徴を示す図を作成し、いつ頃どのように始めたのか、建物ができた経緯も含めて200字のテキストにまとめている。家浦は大正・昭和創業の商業があり、時代の変化に応じて古い建物を改修してきたのに対し、唐櫃は20、30年前に始まった商業が多く、小屋やガレージ等を転用したものが多いという特徴があった。
②展示:どこにでも出張可能な建物の記憶を伝えるシンボルとして、各建物の図とテキストを掲載したフラッグをデザインし、これまでの展示に加えるかたちで更新した。
③アーカイブ:これまでの成果をまとめた冊子『豊島のくらしとたてもの』を制作した。
また、1960年頃より豊島で盛んになった海苔養殖であるが、豊島内ではその海苔を買える場所がないことから、展示コンテンツをモチーフとしたお土産品を制作した。

活動の課題

今回、記録できたのは調査のごく一部のため、少しずつ展示コンテンツを増やしていき、唐櫃美術館のコレクションとしたい。また、運営の課題として、管理人が高齢化したり、遠方からの参加のためサポートが行き届かない等の課題があるため、近隣の大学との連携を模索し、よりオープンにさまざまな人が使える美術館にしていきたい。

  • 「豊島のたてもの」をフラッグのように展示

  • 豊島のリサーチ本『豊島のくらしとたてもの』

  • 豊島の賜物をモチーフとした海苔パッケージ