瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

瀬戸内の塩が育んだ近代東アジアネットワーク-児島、野﨑家に集った「人」と「書画」-

岡山大学 遊佐 徹

実施期間

活動の目的

倉敷・児島の地で江戸末期以来塩業を営んできた野﨑家は、明治期に入ると本業を発展させるだけでなく、人的、文化的な面でも東アジア交流ネットワークの中心地になっていった。本研究ではその文化交流のグローバルな一面を「書画」コレクションの存在と交流の担い手となった「人」に注目しながら解明することを目指した。

活動の経過

本研究は、主に三つのカテゴリーをもって進められた。一つ目は、野﨑家に赴いての調査で、野﨑家塩業博物館の支援を受けながら主要収蔵品の実地調査や収蔵品の伝来過程の考察を行った。二つ目は国内外の東アジアネットワーク資料所蔵施設における調査で、上海図書館、上海博物館をはじめ、国会図書館、国会図書館関西館、大阪府立中之島図書館等において、一年間を通じて文献資料を中心とする資料閲覧と収集を行った。三つ目が、本研究のメインであるとともに、3年にわたる野﨑家研究プロジェクトの集大成ともいえる国際シンポジウムの開催(2017年3月15日、於岡山大学)で、国内外より5名の専門家を招いて、野﨑家の書画コレクションの概要、形成過程、それに関わった人物、特長ある作品についての分析、解読といった内容の報告により、私たちが目標としてきた野﨑家研究のこれまでにない新たな一面を紹介することができたとともに、その重要性を海外に発信することができた。

活動の成果

最も大きな成果は、国内外に向けて野﨑家の存在とその研究の重要性をアピールできたことである。これまでの野﨑家研究が塩業に焦点を当てたドメスティックなものを中心としてきたのに対し、本研究はグローバルな視点からの研究を目指してきたが、今回、野﨑家の書画コレクションに着目したことで、野﨑家を東アジアネットワークの結節点の一つとして位置付けることが十分に可能となった。これはまた、瀬戸内海地域文化研究の新たな可能性の発見にもつながるものであり、ともすれば東京圏、関西圏を中心に語られてきた日本の近代文化史を大きく修正することを可能とする意味も持っている。さらに、今回の研究成果をこれまでの2年間において実施した研究内容と総合することで、野﨑家と非常に深い関係を持つ閑谷学校人脈、そして貴族院議員として活躍した野﨑武吉郎の政治資本を加えたよりダイナミックな東アジアネットワークの描出が今後可能になることになる。一方、書画コレクションの研究という点においても、本研究は、折から進められていた東京大学東洋文化研究所による『中国絵画総合図録 三編 第五巻』への野﨑コレクションの著録作業とリンケージするものとなり、絵画コレクションの存在を国内外に発信する事業の一端を担うことができたのは、望外の喜びとなった。また、同時に書のコレクションに関しても、目録作成の事業が進行中であることをひと言付け加えておきたい。

活動の課題

野﨑家に収蔵される総点数一万数千点に達する野﨑家文書について、特に東アジア交流に関連した文書に焦点を合わせた調査・整理を行うことで、今回の研究で確認できた事実と獲得された成果に新たな知見を加えて研究のさらなる進展を図るとともに、既存の文学史、美術史の書き換えにつながるような新資料の発掘を目指す。

  • 3月15日開催のシンポジウムポスター