瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

瀬戸内海産海藻資源の健康・長寿食への活用-先人に学ぶ安心・安全な活用法の検討-

広島工業大学 生命学部 食品生命科学科 村上 香

実施期間

活動の目的

海藻アカモクはミネラル、食物繊維や色素などの機能性成分を多く含むことから、近年、注目されるようになった。その一方で、アカモク原藻にはヒ素が多く含まれる。本研究では瀬戸内海(広島湾)産アカモク原藻の部位別ヒ素分布、さらに、塩ゆで加工による総ヒ素および毒性の高い無機ヒ素の挙動を分析した。先人の知恵に学びながら安全な食品としての調理・加工法を提示し、その栄養・機能性と安全性を確保することを目的とした。

活動の経過

アカモクを伝統的に食用利用していた地域では、若い未成熟のアカモクを塩ゆでして刻んだものが食べられてきた。一方、アカモクの食品としての旬で、食物繊維およびミネラルの豊富な時期は配偶子放出期である(Murakami K, et al. Journal ofFood Composition and Analysis 24:231-236, 2011)。
<Ⅰ.アカモク原藻の部位別ヒ素含量>山口県周防大島で採取された配偶子放出期のアカモク原藻の雌雄それぞれ約1.4 ㎏を仮盤状根、茎、枝・葉・気胞、生殖器床(画像②)に分けて、部位別の総ヒ素含量を測定した。
<Ⅱ.アカモク塩ゆで調理・加工による総ヒ素および無機ヒ素含量の変化>山口県周防大島で採取された配偶子放出期のアカモク雌雄それぞれ1株を仮盤状根から30cmを廃棄部として、残りの上部;可食部を茎、枝に分けた。枝は下部から順番に二つに分け、枝に葉と気胞を残して、生殖器床を取り分けた。茎は枝の付け根の節ごとに下部から順番に二つに分けた。一方は原藻(生)として、もう一方は塩ゆで(5倍量2.2%NaCl溶液、1分間)調理・加工品として、各部位の総ヒ素含量と無機ヒ素含量を測定した。

活動の成果

Ⅰ.アカモクと同じ褐藻であるヒジキは生殖器官にヒ素を多く含むこと、アカモク原藻においてヒ素含量は、未成熟株に比べて成熟株に多く、含有量のピークは成熟と一致している(MurakamiK, et al. IUSN 20th International Congress of Nutrition,2013*)ことから、アカモクにおいても水溶性食物繊維;フコイダンを多く含む生殖器床にヒ素が多く含まれていることが考えられた。しかし、総ヒ素量は生殖器床、茎および仮盤状根と比較して、枝(葉および気胞を含む)に多いことがわかった。[2016年9月アジア食品衛生管理協会会議(3rd AFSA:インド・ブバネシュワル)にて発表]
Ⅱ.Ⅰ同様に総ヒ素量は枝(葉および気胞を含む)に多く、生殖器床では枝の1/3以下であり、無機ヒ素量はさらに低かった(画像③)。これまでに、著者らはアカモクの1分間の塩ゆで調理・加工が総ヒ素の軽減に有効であることを報告している(*)。部位別の塩ゆで調理・加工においても総ヒ素の減少が確認され、さらに、無機ヒ素は75-87%減少していた(画像③)。これらの結果より、1分間の塩ゆで調理・加工は無機ヒ素の軽減にも有効であることがわかった。[2017年10月国際栄養学会議(IUSN 21st:アルゼンチン・ブエノスアイレス)発表予定]
著者らは、ラットにおいてアカモクの塩ゆで調理・加工品の経口摂取による便秘改善効果と腸内細菌叢の変化や血中コレステロール上昇抑制効果を確認し、食品としての有用性を実証している(Murakami K, et al. International Dietary FibreConference 2012&2015)。
先人の知恵に学んだ調理・加工方法は、その栄養・機能性と安全性を確保することができることが確認された。この成果は瀬戸内海全域でのアカモク利用普及につながり、地域水産資源の有効活用により、健康・長寿を通じて暮らしを豊かにする可能性が期待される。

活動の課題

機能性成分として水溶性食物繊維やフコイダンを抽出・精製する際のヒ素の挙動を解析し、より安心・安全な食品・機能性食品素材としての価値を示す必要がある。
また、ヒトを対象として腸内環境改善効果や血中コレステロール上昇抑制効果を検討し、健康・長寿に寄与する食品としてのアカモクの機能を実証する必要がある。

  • ①アカモクの塩ゆで調理・加工

  • ②アカモクの各部位名称

  • ③アカモク部位別ヒ素含量の塩ゆでによる軽減