瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

大崎上島における東野住吉祭櫂伝馬競漕の普及・啓発活動

広島商船高等専門学校、大崎上島町東野伝統文化保存委員会 柴山 慧

実施期間

活動の目的

大崎上島の旧東野町における櫂伝馬競漕は250年以上の伝統を誇る夏の一大行事である。しかしながら、大崎上島町は高齢化率が40%を超え、少子高齢化、過疎化が着実に進んでいる自治体であるため、この櫂伝馬競漕も年を追うごとに参加者の減少、規模の縮小が問題となっている。このような流れに歯止めをかけるため、本活動を通じて櫂伝馬の広報や普及・啓発活動を進めてきた。

活動の経過

具体的な活動としてはチラシ・ポスターを作成、facebookやYouTubeを活用したネットでの広報活動、当日の櫂伝馬への体験乗船を通じた普及・啓発活動の二つである。
広報活動では、近隣にある広島商船高等専門学校の協力を得て、ポスターのデザインや当日の写真記録、YouTube向けの紹介動画の作成などを学生にしていただいた。作成されたポスターは島内各所だけでなく、近隣市町村の竹原市や呉市にも張り出し、チラシは大崎上島町約4700世帯に全戸配布した。普及・啓発活動では従来から実施していた体験乗船に使う船の数を2艇から3艇に増やし、それに使用する櫂を本団体で用意することができた。例年、体験乗船では初心者が扱うことによって櫂が折れることが多々あり、その費用の捻出が課題であった。福武財団の助成金を得て、これをクリアできたということは、活動を進めるうえで大きな後押しとなった。

活動の成果

本活動における成果は以下のようにまとめることができる。
1. まずは櫂伝馬競漕関係者のモチベーションの向上である。今回の助成対象になったことは、自分たちが長年受け継いできた櫂伝馬が他県の財団からも貴重な伝統文化として認められたということであり、今までにない経験であったことは間違いない。当日に向けての会議の場でも、これまでにないほど前向きな提案や話し合いが数多く行われ、関係者間の意識が活性化し、長らく櫂伝馬を出すのを止めていた地区の復活にこぎつけることができた。
2. 広報活動に広島商船高専の学生の協力を得られたことによって、地域住民と学生の交流が生まれ、学生の伝統文化に関する理解の深まりや地域の課題をどうやって解消していくかなどの課題解決能力の向上に寄与することができた。櫂伝馬によって地域と学校がつながるという新しい連携の形を示すことができた。
3. facebookを通じての広報活動では、櫂伝馬当日の動画を複数アップしたところ、3000~11000人が閲覧するほどの広がりを見せた。
4. 平成28年度の櫂伝馬では例年よりも多い4団体からの取材申込があり、テレビ、新聞、雑誌等さまざまなメディアで紹介されることとなった。
5. 体験乗船の参加者は平成27年度は112人であったが、平成28年度は168人となり1.5倍の増加となった。この理由としては、体験乗船用の櫂が助成金によって確保されたことにより、従来より船を1艇増やせたことがあげられる。

活動の課題

平成28年度の活動を終えた現在、29年度の課題として考えているのは、体験乗船参加者への配慮である。櫂伝馬当日は8月13日であり、夏の直射日光を浴びて、影のない船上で行うのは女性や子どもには少々厳しい環境でもある。今後は体験乗船者が快適に過ごせるような工夫を考え、さらなる参加者数の増加を目指したい。

  • 櫂伝馬競漕の様子

  • 大盛況だった体験乗船

  • 雑誌「せとうち暮らし」に掲載