活動の目的
終戦後から約10年間、吉和地区を中心に活動していた自主劇団「星劇団」について、なぜ吉和地区で星劇団を設立、活動をしていたのかを明確にする。当時の隠れた歴史を掘り起こし、この土地の人々や伝わる歴史に対し、別の見方や可能性を提示することが目的である。当時星劇団に所属した人々と同じ世代の若者が、ワークショップを通じて体感し、自らの感性で解釈をし、次世代へとつなげていく。
活動の経過
当初計画していた調査活動は、尾道の吉和地区とその周辺の聞き込みを中心に想定したものだった。しかし、横谷が山口県の秋吉台国際芸術村に滞在し、調査を進めていくにつれて、家船の停泊地が吉和地区だけでなく、五島列島や山口県もコースに入っていることを知り、山口大学の先生方のご協力を得て、家船のことを記録に残している周防大島の宮本常一資料館を訪ね、学芸員の高木氏に話を聞く等の展開があった。調査を進めるうちに数珠つなぎに広がりができた。当初の予定の星劇団の再演に早急に持ち込むよりも、当時の聞き込みを中心に、じっくりと内容を検討することのほうが、高齢化でどんどん話を聞ける人が減っていくなかでは、急がれる対応だった。尾道歴史学の林氏に相談し、ともに人権文化センターの吉和地区出身の砂田氏に相談を持ちかけたところ、吉和地区のご高齢者を集めるために、回覧板によるローラー作戦、新聞による呼びかけ、吉和公民館での聞取りなどが始まった。星劇団を知るきっかけとなった川原さんには引き続き話を伺い、尾道大学の卒業生と学生の協力者とのミーティング、情報共有も並行して進めた。
活動の成果
2016年度の当初の計画に沿って調査を進めていたが、実際にはこの調査に興味を持った方、特に吉和地区に生まれた方を中心に、尾道の他のエリアの方、県外の民俗学や美術史の専門家の先生方にも、歴史的側面、あるいはアートプロジェクトとして進めていることに興味を持っていただき、紹介の輪は予想外の広がりを持つことになった。調査を進めていくと、星劇団に参加していた方々はおおよそ90代に入り、すでに亡くなっている方も多く、直接話を聞ける機会が減ってきているのを肌で感じたのは、私だけでなく協力者の方々も同じだった。当初はワークショップを含め、星劇団の再演の実施を念頭に置いて進めていたのだが、むしろ当事者の方々の生の声を記録することを優先して進めていくほうに方針転換した。録音機材を使用した聞き取り、告知、インタビューを繰り返し、それらの素材を調査に興味を持った学生たちと作業していく流れになった。これらは当時の状況を星劇団を通じて若い世代が体感する、当初の計画のワークショップに当たるといえる。星劇団の再演にこだわって進めている点には変更はないが、次々と出てくる新しい証言を、劇団の公演という形にすることが、ここではベストではないという判断である。また、ご高齢の方々に星劇団の話を伺っていると切っても切り話せないのが第二次世界大戦中から、星劇団が発生した終戦直後までの話で、これらを書き起こし、シリーズの出版物として作成中であるが、今まさにこのレポートを書いている最中にも、吉和地区での聞き取りの予約が入っている状況であり、すべてを終えて、これらの歴史と文化を取り込んだ、再演を含めたベストな形ができ上がりつつある。
活動の課題
調査対象がご高齢の方も多いせいか、当時の記憶だけでなく、人生の過程で記憶が混ざり混み、星劇団の再演のための詳細なアイデアや、演目を話してくださる。星劇団というキーワードを基に、貴重な証言をもれなく記録することがまずは課題で、増えてきた若い世代の協力者や、ご高齢者につなげてくださる方々とともに、プロジェクトは継続することになる。
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会館でのワークショップでの意見交換会
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