活動の目的
昨年度に引き続き、覚城院蔵書の保存状態の改善と蔵書総体の把握に努める。これにより悉皆調査と研究を行う環境を整えることを目的とする。
と同時に、資料の収集、人的ネットワークの形成、諸機関や寺院との交渉などを通して、覚城院とその周辺寺院や他の増吽関係寺院にも基礎調査の範囲を広げ、覚城院を中心とした増吽の研究への布石とする。
活動の経過
覚城院では、2~5人で年間4度、延べ11日間調査を行った。本堂須弥壇下の典籍について前年度からの作業を継続して典籍の虫干し、塵払い、函の入れ替えなどを行い、蔵書の整理を行った。
当初は、本助成でできうる範囲で、全典籍の保存環境改善を最優先に行う予定にしていたが、本年度より科学研究費補助金が採択され、より人数をかけた調査が可能となった。故に、簡易調書の作成、入力にも取りかかることができ、保存のための整理から、本格的な調査研究へと移行しつつある。
加えて、増吽の生誕地とされる與田寺がある東かがわ市の歴史民俗資料館や、覚城院什仏が200点以上寄託されている香川県立ミュージアムを訪問し、増吽の研究と覚城院の調査活動に対する理解と協力を要請するなど、今後の展開を予測した研究ネットワークの構築にも着手している。
本研究の中間目標として、3年後を目途に覚城院での調査成果公開を目的とした宝物展示の開催を指向しており、蔵書調査のみならず、関係各方面への働きかけも重点活動として行った。
活動の成果
覚城院では経年劣化のため、継続使用できない典籍函もある。故に新たに中性紙段ボール箱を追加し、極力原態の纏まりを保持しつつ、雑然としていた典籍を全29函に振り分けた。
この内、15箱まではひと通り全典籍に目を通すと同時に、典籍番号をつけて管理し、書名を入力して作業用目録の作成を行った。さらに、典籍の特徴を把握するため、書誌項目を限定した仮調書の作成にも着手している。
未だ何かを論ずる段階ではないが、覚城院蔵書の形成を考える上で今後重要となるこの典籍群、覚城院固有の典籍の他に、伊予の実報寺の旧蔵書や覚城院塔頭の金光寺行範所伝の典籍が相当数流入していることが確認される。
また、神道関係典籍も散見されており、主に鑁善・英仙などの影響を受けた高野山からの流入典籍と思われるが、出雲との関連が窺えるものもあり、興味深い。
前年報告書で指摘した点を含め、蔵書の整理・保存作業を通して徐々に覚城院蔵書の特徴が把握されつつある。
一方で、増吽関係資料の収集として、明石市の密蔵院を訪問し、増吽に関係する寺伝を聴聞した。また岡山県の長福寺所蔵の伝増吽筆十二天絵像、および同時代筆の両界曼荼羅のデジタル撮影を行った。さらに、徳島県石井町の蓮光寺に於いても、四国大学須藤茂樹准教授の紹介により、増吽筆との裏書が残る不動明王絵像と両界曼荼羅の実査を行った。
以上の活動を通じ、覚城院蔵書を中心とした増吽研究の基盤を形成しつつ、夏には国文学研究資料館で行われた、第1回日本語の歴史的典籍国際研究集会「可能性としての日本古典籍」において、「増吽年譜雑考-安住院・覚城院蔵書調査を通して-」と題した報告も行った。
活動の課題
覚城院蔵書の整理は分量が多い上に状態も決して良くないため、今後も長い年月を要することは明白である。加えて、中四国から近畿に散在する増吽の足跡調査にも時間と費用は不可欠である。研究遂行のためには、学術面のみならず、関係各所や地元住民など広く一般の関心を引くことが必要であり、成果の還元方法を絶えず工夫していかなくてはなるまい。
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典籍を一点一点開き、調書を作成・入力する
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番号を付した紙を挟み、典籍を整理管理する
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関連資料の高精度デジタル撮影を行う