活動の目的
本調査研究では、瀬戸内海地域のうち、芸予諸島及びその沿岸を中心に、埋もれている景観資産を掘り起こすことを目的とした。
具体的には集落、農業、漁業、加工業、港湾等のほか、しまなみ海道沿いの歴史、映画、食、花卉、製塩、海運等の多様な景観資産を整理するとともに、現代の景観資産の掘り起こしを図った。
活動の経過
芸予諸島及びその沿岸を中心に、以下のとおり、調査研究を進めた。
1. 景観評価の変遷の分析:瀬戸内海固有の景観資産として、どのような景観資産が注目されてきたか、風景写真集をもとに1930年頃の風景、1960年頃の風景、1990年代以降の風景に焦点を当てて、景観評価の変遷をレビューした。
2. 芸予諸島の景観資産の多様性について、生業景観の観点を中心に、農林漁業景観(段々畑・棚田・花卉栽培・漁港)、産業景観(加工業・製造業・工場・コンビナート)、交通運輸景観(橋梁・港湾・航路・灯台)、生活景観(集落・市場・商店街)、湿地景観(藻場・干潟・溜池・用水路)等につき、特に埋もれている景観資産という点に重点を置き、資料から抽出を試みた。
3. 10月には共同研究者合同現地調査、12月には共同研究会を実施し、意見交換を行いながら、共同研究者が、各自のテーマに沿って、分担執筆した報告書を作成し、取りまとめた。
活動の成果
1. 10月には、外部アドバイザーとして西田正憲奈良県立大学地域創造学部教授をお招きし、共同研究者合同現地調査を実施した。
2. 12月には、共同研究会を開催。写真家の高橋毅氏をお招きし、スライドを交えながら「美しき瀬戸内海」と題して基調講演をしていただいた。また、外部アドバイザーの西田正憲教授のほか共同研究者がそれぞれ発表を行い、意見交換をした。なお、発表者は次のとおり。岡田昌彰(近畿大学理工学部教授)、井原縁(奈良県立大学地域創造学部准教授)、立花律子(特定非営利活動法人DREAM ISLAND代表)、滝川祐子(香川大学農学部技術補佐員)、宮本結佳(滋賀大学環境総合研究センター講師)、佐山浩(関西学院大学総合政策学部教授)
3. 共同研究者等が分担執筆し、報告書を作成した。
4. 報告書では12月の共同研究会での議論を踏まえ、景観資産登録制度の政策提言を行った。なお、瀬戸内海景観資産の登録については次のとおり整理した。
○瀬戸内海景観資産登録:瀬戸内海らしい景観のリストアップ
①湿地-干潟・藻場・湿原・用水路・溜池・河川
②生業景観
農林漁業景観:段々畑・棚田等
産業景観:加工業・製造業・工場等
交通運輸景観:橋梁・港湾・航路・灯台
生活景観:集落・市場・商店街
5. 報告書には、外から来た人に景観資産登録制度を理解してもらい、楽しんでもらえるような一つの仕組みとして「しまなみ自然歩道(仮称)」構想を盛り込んだ。
6. 資料編として、①瀬戸内海の主な景観について、多島海〔展望地点〕、海洋〔展望地点〕、瀬戸、山岳、特異地形地質等、白砂青松、自然林、干潟、野生生物、歴史的港、社寺、城郭、歴史的町並み、合戦場跡・戦跡跡、石切場、段々畑・傾斜畑等・梅・水仙、養殖筏等、洋式灯台、軍事遺跡、精錬所等、送電鉄塔、臨海工業地帯、長大橋(島に架かるもののみ)、新たな海洋レクリエーション、環境文化・新たな創出、といった区分に整理したリスト、②しまなみ海道及びその周辺の地域イメージと地域資源を整理した178カ所のリストと位置図を盛り込んだ。
活動の課題
今後、本調査研究を継続し、同様の観点から豊予諸島、備讃瀬戸地域にも拡大していき、従来、国立公園、文化財等で価値付けられてこなかった瀬戸内海固有の景観資産の体系化を図るとともに、景観資産登録制度や「しまなみ自然歩道(仮称)」構想の具体化をいかにして図っていくかが課題である。