活動の目的
砂浜海岸では、青々とした松林と白い砂浜からなる「白砂青松」の景観が親しまれている。一方、砂浜には「海浜植物」と呼ばれる植物が生育するが、地域の保全の意識が低く、各地で絶滅の危機に瀕している。そこで、本研究では、白砂青松だけでなく、海浜植物を活かした海岸景観の創出をめざして、瀬戸内海の海浜植物の分布と海岸の利用の変遷を明らかにすることを目的とした。
活動の経過
瀬戸内海の中部沿岸域の砂浜を対象にして、砂浜に生育する海浜植物と砂浜の特徴を調査した。調査は、白砂青松百選に指定された代表的な砂浜に加えて、人工海岸や島嶼部の海岸など様々な特徴を有する砂浜を対象とした。調査地点は合計18地点で、春季(5~6月)と夏季(8~9月)の2時期に分けて、各砂浜の全域を踏査して、生育する海浜植物を記録した。出現した海浜植物は、各県のレッドデータブックを参照し、絶滅危惧種に指定されているかどうか判定した。また、各砂浜の特徴を把握するために、空中写真を使用して、各砂浜の長さと幅を求めた。
次に、各砂浜の海浜植物の生育要因を探るために、各砂浜の海から陸方向に合計75本の調査測線を設けて調査した。各調査測線上に2m×2mの方形区を連続して設け、方形区内に出現した海浜植物の種類と植被率を記録した。また、同調査測線上にて水準測量を実施し、各砂浜の地形断面を作成した。なお、本資料では、海浜植物の分布の実態に絞って報告する。
活動の成果
調査対象とした18地点の砂浜には、合計28種の海浜植物が出現した。各砂浜における海浜植物の種数は、有明浜が20種で最も多かった。一方、人工海岸のふれあいビーチは全く出現しなかった。宮島の包ヶ浦では、シカの食害が激しく、シカが好まないハマゴウの1種だけが生育していた。海浜植物の絶滅危惧種の種数も有明浜が7種で最多となり、他の砂浜では2種以下となった。
砂浜の長さは、虹ケ浜が2.7kmで最大であった。砂浜の平均幅は、海浜植物の種数が最も多かった有明浜が72.8mで最大となった。また、島嶼部で人為的な影響の少ない馬島は、砂浜の規模は小さいが、海浜植物の種数は多かった。次に、海浜植物の最大の生育地であった有明浜の海浜植物の分布に着目した。図の調査測線には、8種の海浜植物が出現し、海から陸に向かって、生育する種が変化した。海から陸に向かって波や風など海からの影響が弱くなり、このような環境に対する耐性に応じて、生育する海浜植物が変化したと考えられる。また、絶滅危惧種は、ビロードテンツキやハマウツボなど陸側に分布していた。有明浜は、対象地の中で最も砂浜幅が広かったために、砂浜の陸側を好む絶滅危惧種の生育が可能であったと考えられる。
有明浜は、約45年前から県の天然記念物に指定され、他の地域の砂浜より一足先に、人為的な利用や開発から海浜植物を守ったことも、海浜植物が豊富な要因であるだろう。近年は地域のボランティア団体が外来植物の駆除や絶滅危惧種のモニタリング、海浜植物の観察会などを実施している。このようにして保護された海浜植物は、季節ごとに色とりどりの花を咲かせ、地域の観光パンフレットに掲載されるなど、地域の貴重な観光資源になっている。
以上より、瀬戸内海の海浜植物は、人為的な影響により衰退しており、その保全は海岸景観を彩る貴重な観光資源になりうると考えられた。
活動の課題
本研究では、瀬戸内海中部沿岸域の海浜植物の危機的な状況を検出し、観光資源としての有用性を検討することができた。今後は、豊かな海浜植物が広がる海岸景観の重要性を行政や一般の方に認知してもらい、保護活動を拡大する必要がある。また、海浜植物の観光資源としての活用方法を模索する必要があるだろう。