活動の目的
北四国で大勢の人々に親しまれている太鼓台は、別名「刺繍の太鼓台」と言われるほど、肉厚で豪華な刺繍が装飾されている。私たちは、装飾刺繍で時代的に先行する地芝居(地歌舞伎)と、その影響を大きく受けた太鼓台文化、というこれまで全く指摘されることのなかった「新たな関係性」を掲げた。今回助成での探究活動は、それを確かなものとすることを目的に取り組んだ。
活動の経過
香川県下の小さな地歌舞伎(地芝居)「衣裳展」を見学したことが、「新たな関係性」イメージ獲得の動機となった。初めて直に見る衣裳が、あまりにも太鼓台刺繍と似ていることに驚かされた。
早速、地歌舞伎の衣裳に関する資料や情報を入手し、計画・行動に移した。①地歌舞伎に伝えられている古い衣裳を多数実見すること、②記録・撮影し、これまで実見し培ってきた太鼓台刺繍との比較検討をすること、③作業自体をできるだけ大勢の仲間と共有して実施すること、とした。しかしこれまでは、他の伝統文化(今回は地歌舞伎)の範ちゅうへ入り込むことは全くなく、大きな不安や躊躇があった。
案ずるよりは産むが易しで、幾度かの綿密な打ち合わせを経て、祇園座様の215点に及ぶ衣裳の網羅的な調査撮影作業を共同実施できた。8月初旬の土日、両団体・延べ約百名は、各人それぞれの持ち場において「一心不乱」に作業に集中した。異文化間のコラボレーションは新鮮で、今後の探究作業等に大きなヒントを与えてくれた。
活動の成果
◇異なる伝統文化への理解
太鼓台文化の解明を目指している私たちは、これまでは太鼓台文化の中だけで解決を図ろうと、自文化に偏った狭い視野での探究を行なってきたのではないかと反省させられた。伝統文化が模倣の文化である以上、他文化との関連性等、その影響力を大いに考慮し、参考とすることが重要であると、今回の探究を通じ再認識させられた。
◇地歌舞伎への理解度を高め、次の段階に進む。
豪華刺繍を飾る太鼓台と地歌舞伎の衣裳とが大変に酷似していることが、今回の「農村歌舞伎祇園座」の衣裳群を実見することで、ようやく明らかになり始めた。これまで不明であった太鼓台装飾刺繍のルーツが、地歌舞伎衣裳の発展とともにあることが推測されてくる。しかし、それはまだまだ祇園座一団体だけとの比較であり、個別的でささやかな「比較・検証」でしかない。
豪華刺繍への発展・解明は、太鼓台文化の最重要「共通理解」の一つである。今回の取り組みで、先輩格の伝統文化・地歌舞伎との関連が、あらためて身近なものとして理解できるようになった。
同時に、祇園座に続く第二・第三の異なる伝統文化とのコラボ・共同作業を行い、理解度を高め、自らの文化に対する探究を、一層深めていかなければならないことを強く認識させられた。
◇「共通理解」を発信し続ける。
今回活動で得られた太鼓台文化の「共通理解」(主なものに、地歌舞伎との深い関係性、地歌舞伎衣裳から太鼓台の装飾刺繍へかじ切りしたターニングポイント、先進地における昔の太鼓台規模、太鼓台蒲団部への探究など)は、成果報告書『地歌舞伎衣裳と太鼓台文化』(A4カラー、108頁)にて論及することができた。
この小誌を、太鼓台文化圏及び地歌舞伎文化を伝承している各地の団体、公共図書館等へ無償配布し、太鼓台文化の「共通理解」を、これまで同様、さらに発信し続けていく。
活動の課題
太鼓台刺繍と地歌舞伎衣裳との重層的で深い関係が、より明らかになり始めた。まだまだ近隣の地歌舞伎にも、このような衣裳が多数ある。
文化間の関係性をさらに深めていきたい。作業により、この地方における伝統文化や、風土の持つパワー等が次第に明かされていく。それは、人々の自信となり、将来の文化伝承に力を与える。