瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

郷土における未来文化遺産の創生 ―中津万象園と丸亀に関わる文献史料の研究と活用

公益財団法人 中津万象園保勝会 真鍋有紀子(共同研究者:武藤夕佳里、縄稚貴靖、岡村梨加、倉田眉貴子、須崎智恵)

実施期間

活動の目的

永い歴史と風土の中で育まれてきた郷土の宝物(文化・歴史的資源)を後世へと継承する取り組みを“未来文化遺産の創生”と位置づけて行う研究と活動。中津万象園(1688年京極藩の別邸)と丸亀に関わる文献史料の研究を通じて郷土の歴史や文化を振り返り、宝物となる“資源”を掘り起こしていく。さらに、丸亀藩京極家の6代目藩主・高朗(1798-1851年)が残した『琴峯詩集』を元に、江戸時代当時の人々の個性や感性を浮き彫りにして、現代の丸亀の人々の共感をよび覚まし、未来を育む。

活動の経過

〇経過
8/29より方針について検討。まずは、丸亀に残された資料の中から、何に焦点を当てるかを話し合い、結果、今回の研究活動においては、
①琴峯詩集(京極高朗著、尾池松湾編、兼光堂蔵版、元治元年・1864年)」
②「丸亀繁昌記(津坂木長(1809-1866年)著。ただし、今回は『解説 丸亀繁昌記(草薙金四郎著、1941.6.10賀雀庵発行)』を元に研究。)
の2点に注目し、“文芸に描かれた丸亀の姿を現代に浮かび上がらせる”ための試みを行うこととした。また、現存最古といわれる煎茶席『観潮楼』が園内にあり、その修復記念茶会が同園にて行われたことから、江戸期の煎茶遊びの情景を観察する機会を得た。
〇『琴峯詩集』の研究
9/27、10/23、11/7、8、2015.1/17、26の期間、『琴峯詩集』の世界観をどのように伝えるかの検討と成果物の作成を行った。
〇『丸亀繁昌記』の研究
11/22、23、24の期間、丸亀繁昌記の舞台となった丸亀湊~丸亀城、また湊~中津万象園をつなぐルートを実際に歩き、江戸を体感できるルート形成の可能性を模索した。また、全文訳が存在しないことから、それにも挑戦した。

活動の成果

〇『琴峯詩集』の研究/活動の成果
『琴峯詩集(京極高朗著、尾池松湾編、兼光堂蔵版、元治元年・1864年)』は、丸亀京極藩の6代目藩主である高朗侯の残した漢詩集だが、その内容は身近な季節の移ろいや草花の美、訪れる人との交情や旅の情景を描いたものが大半を占めている。
その詩文を読むと、親密で小さな物事に寄せる侯の温かな思いや喜びが伝わってくるようで、“江戸時代のお殿さま”のいわば体温を伝えるには好適な資料であると考えた。
しかし、漢詩という媒体になじみのない現代において、この魅力を伝えるにはどうすればよいかを検討した結果、「原文+超訳(象徴するタイトル付)+イメージ写真」で構成された絵葉書という形で表現することを試みた。今回は、季節(冬)、煎茶、中津万象園に因んで6編の琴峯侯の漢詩を抜粋。それぞれ「春」「香」「茶」「陽」「遊」「景」の6文字をキーに絵葉書を構成した。(共同研究者:武藤夕佳里、縄稚貴靖、岡村梨加)(写真参照)
〇『丸亀繁昌記』の研究/活動の成果
丸亀繁昌記はそのまま原文を一読しても、十分に当時(天保年間)の丸亀湊の賑わいぶりの伝わる大変魅力的な文章だが、諧謔の効いた文章は意味をとりづらく、広く親しまれるには難しいものとなっている。そこで、香川県大手前中学・高等学校の倉田眉貴子氏及び須崎智恵氏に現代語訳を依頼し、全文訳を行うことで、金比羅参詣に沸く丸亀湊の情景を明らかにした。(共同研究者:倉田眉貴子、須崎智恵)
さらに、期間、丸亀繁昌記の舞台となった丸亀湊~丸亀城、また湊~中津万象園をつなぐルートを実際に歩き、江戸を体感できるルート形成の可能性を模索し、ルート上に遺構を落とし込んだMAPを作成した。
〇まとめ
今回の研究活動によって、江戸期のまちの様子やそこに生きる人々の感覚(センス)を体感できる機会を発信していくための下地ができたと考えている。引き続き『琴峯詩集』及び『丸亀繁昌記』、そしてさらに新たに翻刻された『丸亀京極家御連枝日記』を手がかりに、丸亀における“江戸~現在”、“現在~未来”の両方の視座からの宝物を発掘していくことで、より親しまれ、楽しまれる郷土の未来文化遺産を創生し、それを後世に残す取り組みを行っていきたいと考えている。

活動の課題

①琴峯詩集:より詩の世界を味わうために、季節に応じて発信を行うなど継続して研究活動を行っていく必要があると考えている。
②『丸亀繁昌記』:地元の歴史研究者や、江戸時代から続く産業の継承者等との共同研究により、さらに鮮明に江戸期の賑わいを描き出し、丸亀のまちづくりにつなげていく必要がある。※なお、新たに『丸亀京極家御連枝日記(香川県立文書館)』が発行されたため、関連づけて研究活動を行えばさらに興味深いものとなると考えている。