瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

戦前小豆島醤油醸造業の市場及び海外輸出に関する研究

岡山商科大学 経営学部 天野雅敏

実施期間

活動の目的

小豆島は、醤油醸造業の近代化に取り組み、持続的な発展を実現してきた産地である。醤油醸造大企業として1907年小豆郡苗羽村に創設された丸金醤油株式会社は、丸金高等醤油と称される良質な醤油を市場に投入し、ハワイやアメリカ西海岸向けの輸出も試みた。本研究では、戦前小豆島醤油醸造業の市場や海外輸出に注目し、グローバルな観点から醤油醸造業史研究を推し進めようとするものである。

活動の経過

戦前小豆島醤油醸造業の市場や海外輸出に関する研究を行うために、盛田株式会社小豆島工場を訪問し、同工場の所蔵する旧丸金醤油株式会社の経営資料を調査し、関連資料の収集につとめるとともに、外務省外交史料館を訪問し、同史料館の所蔵する日本醤油醸造業関係資料を調査し、関連資料を収集した。そうした関連資料の収集のなかから、醤油醸造企業・醤油醸造業者の内外の博覧会への出品が散見されたので、視野を広げてそうした方面の資料収集も進めた。また、千葉県の野田市郷土博物館を訪問し、同博物館の所蔵する醤油醸造業の市場とその国際化に関連する資料類を調査し、それらの資料の収集につとめるとともに、兵庫県のたつの市立龍野歴史文化資料館を訪問し、同資料館の所蔵する醤油醸造業の市場とその国際化に関連する資料類を調査し、資料収集につとめた。たつの市立龍野歴史文化資料館は予定調査対象地に含まれていなかったが、関西の重要な醤油産地として調査対象地としたものであり、外務省外交史料館には、日本醤油醸造業関連資料のみならず豊富な国際博覧会関係資料が所蔵されていたため、本研究の重要な調査対象地としてとりあげ、調査研究にあたった。

活動の成果

丸金醤油株式会社の作成した「各種受賞記録簿」によると、同社は、1909年アラスカ・ユーコン太平洋博覧会で「銀賞」を受領しており、1910年の日英博覧会では「金牌」を、1915年のパナマ・太平洋万国博覧会では「名誉賞牌」を受領している。野田醤油株式会社の「二十年史」には、茂木佐平治家の醸造した亀甲萬印醤油の主な受賞記録の紹介がある。茂木佐平治は数次の国際博覧会に亀甲萬醤油を出品し、海外輸出に強い関心をもっていた。本研究では、国際博覧会や国内博覧会の審査報告等を検討の俎上に載せることによって、それらの博覧会のなかに醤油醸造業史の動向を剔出(てきしゅつ)し、その意味するところなどについて考察した。
日英博覧会とパナマ・太平洋万国博覧会に出品した醤油醸造企業・業者の褒賞受賞状況を示した表1、表2によると、醤油産地の動向がよく投影されていた。褒賞受賞数と褒賞受賞等級別分布を勘案すると、野田・銚子などを擁する千葉県が卓越した醤油産地であったことが示されており、それに龍野を擁する兵庫県や小豆島を擁する香川県が続いていた。日英博覧会の醤油の陳列は、千葉県醤油合同によるものと全国醤油合同によるものとからなっていたが、パナマ・太平洋万国博覧会では、図1に示したように、千葉県醤油合同、香川県醤油合同、兵庫県醤油合同、1府6県醤油合同によるものがみられ、醤油産地ごとに陳列の分化が進んでいた。国内博覧会の審査報告も醤油産地のこのような動向をよく伝えていた。この研究成果は、社会経済史学会中国四国部会2014年度大会(徳島)で報告され、同部会会報第47号にその概要が掲載されるとともに、『岡山商大論叢』第51巻第1号に論説「醤油醸造業史と国際博覧会・国内博覧会」(2015年5月刊行予定)として掲載されることになっている。

活動の課題

国際博覧会・国内博覧会の審査報告等の検討から、野田・銚子を有する千葉県の醤油産地としての卓越した位置と、龍野を有する兵庫県や小豆島を有する香川県がそれに次いでいたことが明らかにされたが、それらの醤油産地の研究の進展には自ら偏差があり、時代的な偏りなどもみられる。それらを考慮して、醤油産地の研究をさらに進めたい。