活動の目的
四国北部方言は、近畿主流方言とは異なる特殊なアクセント現象が複雑に分布し、日本語アクセントの歴史的・地理的展開解明の鍵をにぎる可能性がある。本研究は、臨地調査によりこの地域のアクセントの実態を把握し、あわせてアクセント現象のデータベースを開発、その分析を通じて、アクセント体系変化過程の解明のための手法の開発をめざす。
活動の経過
1. 臨地アクセント調査
図1に示す、愛媛県の5市の27地区、55名の方にお会いし、各地域のアクセントについてのご教示をいただくことができた。発話音声はデジタル録音資料として保存、研究のための使用許諾を各話者からいただいた。
2. 地域史資料の収集
臨地調査に際し、話者や、そのご紹介をいただいた方々から、言語の地理的分布の考察の参考となる、地域史にかかわるさまざまな文献のご紹介・提供をたまわった。私家版の地域史など、一般図書館では見られない貴重な資料を閲覧する機会や、ご提供をたまわることもあった。
3. アクセントデータベースの構築
学生アルバイトに依頼し、他研究者による、四国方言アクセント調査資料の電子データベース化作業を遂行した。
活動の成果
音声データの詳細な分析は終了していないため、現時点での見通しを報告する。
1. 今治市島嶼地域アクセント
広島県側に「東京式アクセント」、四国本土側に「中央式(いわゆる京阪式)アクセント」が分布することは知られていたが、今回の調査により、その境界をカバーする10地点で詳細なアクセントデータを得た。この結果、二つのアクセント体系の境界が鵜島と大島(宮窪)の間にあることが確認された。東京式側には広島方言などに似た現象がみられ、境界の鵜島には京阪式の接触の影響を示す現象がみいだされる(写真解説も参照)。
2. 中予~東予地域アクセント
過去の調査では、中予を中心に「中央式アクセント」が分布し、新居浜市中部以東に「讃岐式アクセント」が分布することが報告されている。今回の調査で、これが現在の高年層でもほぼ変化していないことが確認された。一方、過去に調査が不十分だった地域南部の山間地域を重点的に調査した結果、別子山(新居浜市)まで中央式が分布していることが確認できた。また、徳島県との県境近くについては、旧新宮村のみ、他地域で無核型の語にアクセント核があらわれる「山城式アクセント」が分布することが確認できた(図2参照)。
3. アクセント体系と音調実質の関係
下降音調タイプ(図2参照)は四国では讃岐式諸方言にみられる特徴と考えられてきた(異なる観察・報告あり)が、中央式アクセントの西条市の旧石鎚村(ほぼ廃村)から小松町に移住した人々に下降音調がみられたことが注目される。下降音調を独立の音調型として分類する方針をとると、四国全体のアクセント型を分類し、データベースを構築する際にも問題となるため、今後さらに慎重な分析・検証が必要となる。
活動の課題
音声データの分析をすすめ、学術会議などでの公表をすすめる。また、その過程で判明した、データの不備を補充するための追加調査を実施する。それらのデータを用い、四国北部のアクセントの地理的・歴史的展開を総合的に把握するための分析手法の開発を最終目標とする。