瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

いずみや(丸ずし)の地域資源としての活用可能性に関する学際的研究

愛媛大学 淡野寧彦

実施期間

活動の目的

本研究が注目する「いずみや(丸ずし)」(画像1)は、愛媛県を中心に根付く伝統的な郷土食の一つである。アジなどの魚とオカラを主原料とし、握り寿司とほぼ同型のため、手軽に喫食することができ、かつ栄養成分的にも優れているが、今日では喫食機会はごく限られてしまっている。本研究では、主に愛媛県を対象とし、いずみや(丸ずし)の地域資源としての活用可能性について、学際的アプローチによって考察することを目的とする。

活動の経過

愛媛県食生活改善推進協議会の協力を得て、県内の全支部226カ所に対していずみや(丸ずし)に関するアンケートを実施し、203支部より回答を得た(各支部長が回答)。回答者の性別は女性199名、男性1名、不明3名であり、年齢の平均と標準偏差は67.1±7.4歳であった(38~85歳、不明:5名)。この調査により、いずみや(丸ずし)の認知有無や呼称、主な原材料(魚種、薬味など)、調理・購入機会などについて、全県的な情報を得た。
また、愛媛県松山市で料理店を経営するI社の協力を得て、いずみや(丸ずし)の調理方法を提供してもらい、「日本食品標準成分表2010」に基づいて、一つ当たりの栄養価計算を行った。さらに、I社の利用客に対して、いずみや(丸ずし)を実際に食べてもらい、いずみや(丸ずし)に対する嗜好(酸味、甘味、大きさなど)や食べてもよいと思われる個数などについて回答を得た。これらのほか、愛媛県内におけるいずみや(丸ずし)の販売状況や調理・消費形態などについて、県内各地の小売店等への訪問および聞き取りや文献解読によって情報を収集した。

活動の成果

愛媛県食生活改善推進協議会へのアンケート結果をもとに、まず、いずみや(丸ずし)の呼称や認知有無についてみると、東中予地方では「いずみや」、南予地方では「丸ずし」と、呼称に明確な違いがみられた。また、いずみや(丸ずし)自体を知らない回答者が203人中22名存在し、その多くが東予地方在住であった。調理には、アジ、コノシロ、イワシ、アマギ、サヨリといった比較的小ぶりの魚が主に用いられる(画像2)。また薬味としては、ショウガが58件と特に多く、ネギとゴマが各41件などと続いた。利用される魚種を地域別にみると、アジは県内各地で用いられるのに対して、コノシロは東予で、イワシは中南予で、アマギやサヨリは中予南部から南予北部(おおむね伊予市から八幡浜市)で多く、キビナゴは宇和島市以南のみに利用が限られた。これらのように、食文化の地域差がより具体的に示された。
I社が提供するいずみや(丸ずし)を栄養学的に分析した結果、同重量の押寿司と比較した場合、いずみや(丸ずし)はオカラを用いるが、砂糖を入れるために炭水化物の量には大差なかったものの、食物繊維は多く含まれ、カルシウムやn-3系脂肪酸も少量ながら比較的多く摂れることが確認された(画像3)。I社利用客が実際にいずみや(丸ずし)を食べたうえでの嗜好としては、甘味・酸味・塩味・大きさ・魚とオカラの分量のバランスのいずれにおいても、「ちょうど良い」とする回答が最多であり、その風味に対しておおむね好評価が得られた。全体的な味の好みでは、「とてもおいしい」と「まあおいしい」で全回答の9割以上を占めた。また、1回の食事につき何個食べてもよいかについては、2個程度を挙げる回答が目立った。利用客らは普段、いずみや(丸ずし)を食べる機会はほとんどない傾向にあったが、実際に食べたうえでの嗜好状況はおおむね良好であり、いずみや(丸ずし)が大勢に受け入れられる可能性のある料理であることが明らかになった。
なお、本研究で得られた内容の骨子を、第60回四国公衆衛生学会一般講演会(2015年2月)および日本地理学会2015年春季学術大会(2015年3月)において発表した。

活動の課題

いずみや(丸ずし)の栄養学的利点は多く、その嗜好についても多数の高評価を得た。今後は、一層大勢の人々に手軽に喫食してもらえる機会や仕組みづくりとそのアピールが重要であると考えられる。今回、調査協力を得た食生活改善推進協議会や料理店などとさらに連携を強めた活動を展開するなどして、いずみや(丸ずし)の地域資源としての活用を目指して、引き続き研究を進めたい。