活動の目的
瀬戸内海沿岸地域は、"海を共通の背景とした文化景観"が一様に展開するのではなく、各地方で実に多様な文化・社会景観を持っていることが大きな特徴である。しかし、現在の歴史・文化教育ではこの"多様性"について考えるカリキュラムには必ずしもなっていない。本研究では、瀬戸内海沿岸地域の文化多様性と教育の現状について調査し、その課題と展望について議論する。その上で、どのような活動が効果的かについても提案したい。
活動の経過
春頃から共同研究者と研究計画について情報交換を行った。具体的な活動を行うための、事前情報の収集と調査範囲、瀬戸内海域における歴史教育と食育との関わりについて議論した。
7月には、事前調査における現状と展望をまとめた。日本文化財科学会にて「環瀬戸内海地域における文化多様性と学校教育の現状」という題で研究発表を行った。
8月には具体的な調査範囲を瀬戸内海に隣接する自治体における小・中学校とし、アンケート作成の準備にかかった。ただ、イベントの趣旨を明確にする上でも、現状における基礎的な調査を行うことを優先事項とすべきと判断し、調査対象を大幅に増やして1000校弱とした。
アンケートの回収率を高めるために、大学、NPO法人の共同による調査であることを記した特製クリアファイルを作成し、アンケート用紙と同封することとした。
1月に協議の末アンケートの骨子を作成し、フォーマット化および発送準備等を依頼した。2月にアンケートの分析を行い、3月にイベントを企画していたが、日程調整に難航し実現できていない。しかし、2015年度の前半には行う予定である。
活動の成果
「瀬戸内海」の地域と「食」の意識、実践教育に関するアンケート調査を行った。瀬戸内海に接する自治体に所属する小・中学校876校を対象とした。アンケート項目は18項目を設定し、SD法を基本としつつ一部自由記述式とした。これらのアンケート項目について、データ化と基礎統計処理を行った。アンケート回収率は43.84%であった。ここでは瀬戸内海地域と食に関係する項目を取り上げて、アンケート調査からうかがえる、瀬戸内海と教育現場における実践について概要報告したい。
地域との関連を持つ活動を行っているとする学校は93%にのぼり、具体的に課外活動として児童・生徒と地域が連携して何らかの活動を行っていると回答した学校は75%であった(図1)。具体的には、清掃活動やボランティア活動などが多い。
瀬戸内海に関する教育の実践は、必ずしも多くない。「よく行っている」「ある程度行っている」と回答した学校は、50%を下回る。特に実践度が低かったのは瀬戸内海と歴史、林業、労働に関する教育においてであり、25%にも満たない分野もある。反対に多かったのは漁業、農業、環境、工業であった(図2)。
これらの点からは、学校教育では地域と結びついた具体的な活動は行っていても、それが瀬戸内海というキーワードとはほとんど結びついていないことがわかる。地域力を高める活動として、または人間力を育成する活動として、必ずしも瀬戸内海との関わりに積極的である必要はないのかもしれない。しかし、自らの生きる地域が、歴史的に瀬戸内海という環境特性によって育まれてきたことを考えれば、少し残念ともいえるだろう。これは、学校教育において瀬戸内海と歴史教育に関する実践が低いことからもうかがえることである。
一方で、学校給食に関するアンケート項目では、地域の食材、伝統的な調理方法を積極的に取り入れており、また食育が特定の科目に偏ることなく実践されていた(図3)。以上の調査により、瀬戸内海と地域を結ぶ観点としての「歴史」と、地域と学校教育を結ぶ効果的な観点として「食」が重要であると評価できる。
活動の課題
これまでは「歴史」と「食」が交差することは少なかった。従って、両者の特性をもつ「食文化」をキーワードとする体験交流型(歴史的)食育事業を開催することが、あらためて瀬戸内海と地域について考える契機となる可能性がある。2014年度には、そうした場を設けることができなかった。しかし、2015年度前半には開催したいと考えており、NPO法人や各種施設と調整中である。