瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

岡山県南部地域における南海地震を引き金とした土砂災害ハザードマップの作成

岡山理科大学 生物地球学部 生物地球学科 佐藤丈晴

実施期間

活動の目的

今後想定されている南海トラフ巨大地震の発生は、過去の南海地震等の経験から岡山県において甚大な被害が及ぶことが想定されている。本研究では、2011年3月に発生した東北地方太平洋沖地震で土砂災害が発生した斜面を対象に、どのような条件で災害が発生したのかを分析し、地震時の斜面崩壊危険度評価に基づいたハザードマップの作成を試みた。

活動の経過

採択いただいた2013年度3月より2014年度の研究に取り掛かった。前年度より基礎研究を行っており、その成果を5月の砂防学会、6月の特許研修会にて発表を行った。多くの研究者、実務者と議論することで、改善案をご提示いただいた。最大の課題は、基本となるデータが兵庫県南部地震であったため、地震の種別が異なる南海トラフ巨大地震への対応としては不十分であったという点である。そこで、3.11東北地方太平洋沖地震における土砂災害及び地震動データの収集を行った。分析を進めていくうえで、データフォーマットの課題や、地震動データの解明に多くの時間を要したが、冬になって危険度評価式を定義することができた。この評価式を用いて、前年度までの研究成果である岡山県玉野市における南海トラフ巨大地震時における最大加速度に、地形要素を加えた地震時における土砂災害発生危険度を地図上に表示し、ハザードマップの基礎図面を作成することができた。

活動の成果

本検討では、東北地方太平洋沖地震で土砂災害が発生した地形要因の特徴を整理し、判別分析による判別得点に基づいた評価手法を採用した。
東北地方太平洋沖地震において被災した斜面とその隣接斜面を特定し、各斜面の主測線から該当する10mDEMを特定し、分析に用いる要因を抽出した。具体的には、画像1のように急傾斜地のポリゴンデータを設定し、斜面縦断方向に主測線を設置して、星印で示した斜面上部の遷急線と斜面下部の遷緩線及びその中央点の座標のDEMデータを読み取った。検討に用いた斜面の総数は243斜面であり、そのうち発生斜面数は83斜面である。地形データは国土地理院が公開している基盤地図情報(10mメッシュデータ)を採用した。10m格子状のデータ(以下10mDEMと記す)からメッシュごとに標高値から傾斜度、曲率の2指標を算定した。
東北地方太平洋沖地震の最大加速度データは、防災科学技術研究所のK-netのデータを引用した。全国に分布するK-netの観測所1200箇所の東北地方太平洋沖地震時の最大加速度を入手し、GISデータベースにプロットした。本検討では10mメッシュ単位で検討を行うため、K-netの各観測所で得られた最大加速度を内挿補間(クリギング法)により10mDEMデータを作成した。
本研究では説明変数3要因(傾斜度、曲率、最大加速度)に対して目的変数(危険度)を評価することから重判別分析を採用し、得られる判別式を危険度評価式として用いた。変数選択の方法として変数増加法を用い、3要因すべての説明変数を用いる条件とした。その結果を式(1)に示した。
y=0.019x1-0.011x2+0.00052x3-0.57…(1)
  x1:傾斜度
  x2:曲率
  x3:最大加速度
この式(1)を用いて岡山県玉野市の急傾斜地崩壊危険箇所について危険度評価を行った結果をハザードマップとして表示したのが、画像2である。この図は玉野市の中心部を拡大して示しているが、x1、x2、x3基本データさえ揃えば、岡山県のどの地域でも画像2のような危険度評価マップを作成することができる。

活動の課題

東北地方太平洋沖地震で土砂災害が発生した位置は、未公開である。今回用いたデータは地すべり学会員が現地を調査した結果を引用させていただいた。また、地震データについても、K-netの地震計のデータを取り寄せたが、他にも自治体などで地震計が設置されていると推定される。基本データを密に取得し、より精度の高い評価式の作成が求められる。