瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

たまログ-玉島地域写真デジタルアーカイブ化プロジェクト

たまログ実行委員会 安原梨乃(代表)

実施期間

活動の目的

『たまログ-玉島地域写真デジタルアーカイブ化プロジェクト』では、岡山県倉敷市玉島地区の景色、文化、暮らしを記録した古い写真の調査・収集・整理・アーカイブ化・発信を通して、急激な高齢化と社会環境の変化で失われつつある、本来玉島が持っていた技術・知識・文化・感性の再発見と収集に取り組んでいる。「むかし」と「いま」の写真を、地域の情報遺産として「みらい」に活かすことを目指している。

活動の経過

たまログの研究・活動は三つのプログラムで構成されており、まず2014年5月に活動内容を周知するため、日本語英語併記のリーフレットを作成した。以下にプログラムごとの経過を示す。
【プログラム①むかし玉島フォトアーカイブ】古写真データ調査収集のため、個人だけでなく幼稚園、高校などを訪問し協力を求めた。定例活動としてデータのスキャン・整理・保存を行った。提供を受けた写真の中から一部を紹介する『まちと女の子写真展』を2015年2月28日、3月1日に開催し、さらなる調査収集、デジタルアーカイブ化の足掛かりとした。
【プログラム②むかし玉島オーラルアーカイブ】町の人の声を残すインタビューの事前取材および撮影を行った。取材協力者7名のうち3名を動画撮影、1名を録音。取材を継続中である。
【プログラム③いま玉島レジデンス】2015年度に海外から玉島へ写真家を招くため2014年8月にメンバー1名が渡欧。選定のためトルコにて推薦者(グルテキン・チズゲン氏、イスタンブール写真美術館理事長)・応募者と面談。2015年10月~11月に1名招聘が決定している。

活動の成果

活動テーマとしている「地域写真」が持つ様々な可能性についてあらためて考えている。私たちは地域にある写真資料すべてを地域写真と定義しているが、玉島地区に残るそれらは実に多種多様である。2013年度までに収集していた約200件の写真データに加え、今年度は新たに146件を収集したが、内容はスナップ写真といったものから、学校・企業等の記念写真、観光名所の風景写真、肖像写真など多岐にわたる。調査により、まだ写真自体貴重であった明治・大正期のものが個人宅に数多く所蔵されているのも発見した。
そうした古写真のデータ提供を受け、2015年2月28日、3月1日に玉島中央町において『まちと女の子写真展』を開催した。地域の雛祭りに合わせ「女の子」に焦点を絞ったコンセプトを練り、大正期の幼稚園卒園写真や戦前戦後の写真などを約15点紹介した。「こんな時から幼稚園や制服があったのか」や「場所はどこだろう」など町や生活文化の変化に関心を示す人がいる一方、地域にも時代にも縁のない若い人から「キュンとする」「今も昔も女の子だなぁ」などの反応があり、誰かの思い出といった個人的な写真からでも普遍的な美しさや抒情性といったものを感じ取っている様子が見られた。こうしたことから、地域写真の持つ可能性は、事実を証明するような論証的要素だけではなく、町に息づいていた暮らしの哲学や美意識という目に見えないものを伝える象徴的要素もあることが確認できる。
次に地域写真の別の可能性として再現要素について述べたい。私たちは町の人のインタビュー撮影を活動のプログラムの一つとしているが、その際、収集した写真の活用を試みている。特に半世紀近く世代間ギャップがある取材対象者との会話の糸口として、写真を一緒に見るという効果は大きい。記憶の再現とともに、「昔の話はいいなあ、元気になる」とインタビューが2~3時間に及ぶこともしばしばである。また人種も文化も違う海外においても、地域写真は言語を超えて伝わる手段とも成り得る。海外写真家招聘のためメンバーが渡欧した際も、写真を提示することで活動趣旨や玉島地区に対する理解が深まった。この写真家滞在プログラムは岡山県主催事業の一つとして、2015年10月~11月にかけて玉島地区で開催予定であり、トルコ人写真家が滞在制作を行うことになっている。

活動の課題

写真アルバムは持ち主とともに失われていくことがほとんどである。息の長い活動を目指しているが、地域の高齢化は加速している。写真収集やインタビュー取材は急務だが活動にあたる人も経費も不足しているのが現状である。収集したデータの利活用や安全な保管も含め、行政やメディア(TV新聞等)など他機関や他団体との活動連携の必要性を感じている。