瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

瀬戸内海の離島における空き家活用プログラムの立案及び『男木島マスタープラン(仮)』の制作

architects atelier ryo abe 安部 良

実施期間

活動の目的

産業の衰退、人口減少、高齢化が加速した影響で、男木島においても家屋が取り壊され空地が目立ち、路地空間の輪郭が消滅しかけている。男木島固有の伝統的な集落景観を保全しながら、島民生活の活力や島外との新しい交流を生み出す計画が必要とされている。よって、以下を本活動の主たる目的とする。①空き家活用方法の提案と実行、②景観保全のためのガイドライン制作、③空き家活用を中心とした島全体のマスタープラン制作。

活動の経過

2010年から継続している男木島集落全体の家屋の実体調査として、空き家を中心とした家屋の実測調査を行っているが、2014年には、将来的な景観指定の申請等を念頭に置いたより詳細な調査を始めている。2011年には男木島島民に対し研究の経過報告会を開催し、意見交換を行った。2013年には男木島集落全体の家屋の実態調査を行い、多くの空き家を含む調査可能な住宅の図面を作成し、各住戸の状況や改修の必要箇所を把握した。また、空き家の実態調査を通し、空き家所有者の意識調査も行った。さらに島民参加による具体的な活動として、島民やアーティスト、島外からも参加者を集めた『島おこし座談会』を定期的に開催している。
今年度は男木島コミュニティー協議会と協力し、島民主体でアーティストや島外の専門家とともに島の将来像を描くマスタープラン「男木島集落 将来計画案」を作成。さらには、集落景観の魅力や景観的資源を発掘し伝えて行くための活動として「男木島あるもの探しワークショップ」を開催。また、集落景観を活用した島おこしイベントとして「男木音楽部 with 大友良英(男木音楽祭)」を企画し、Art Setouchi 2014 秋として実施された。

活動の成果

(1)集落景観保全計画のための空き家実測調査
空き家を中心に家屋の実測調査及び図面化を2010年より継続している。集落全家屋の約15%を調査済み。今年度は集落景観に特に重要な家屋、伝統的な形態を残している家屋8軒を重点的に調査した。(協力:九州大学 准教授 田上健一、九州大学 准教授 谷正和)
(2)マスタープラン「男木島集落 将来計画案」
空き家を保全活用しながら、島の産業を活性化し、新しい入居者の住環境を整備するための計画案。集落全体を「景観再生エリア」「景観保存エリア」「景観活性エリア」に分類し、それぞれのエリアの空き家活性方法を計画。2016年度瀬戸内国際芸術祭へ向けたマスタープランとして、芸術祭実行委員会への提案も行った。
(3)高松市立男木中学校での授業
男木中学校の授業として講義を行うとともに、中学生と一緒に島内を巡った。上記マスタープランを参考にしながら島の将来像について話し合い、中学生たちが自ら島に対して問題意識を持って関わることへのきっかけづくりとなった。
(4)「男木島あるもの探しワークショップ」
男木島にある様々なものを探りながら、島の魅力を発掘するワークショップ。漁船の柱や梁を使って立てられた電柱や、神社の鐘が担っている集落での役割、その場所ならではの風習といった、普段は気づきにくい島の魅力を島外参加者たちに伝え、さらには島民ともその価値を再確認することができた。《場所:男木島内各所及びコミュニティーセンター/参加人数:16名/指導:九州大学 准教授 谷正和》
(5)「男木音楽部 with 大友良英(男木音楽祭)」
大友良英を中心に、こえびカンダダン、男木島民、島外からの参加者が集まり行われた。それぞれが楽器や音の出る道具を持参し、男木島内の3カ所にて即興で曲を演奏。途中の道程でも演奏しながら、イベントの最後には男木小中学校体育館に集まり、島のお年寄りたちも参加し総勢100名程度で演奏会を行った。《場所:男木島内各所/参加人数:106名/出演音楽家:大友良英、江川良子、木村仁哉、こえびカンダダン》

活動の課題

景観保全の指針となる男木島マスタープランを島民と共有し、同時に行政や芸術祭との協同を可能にする場づくりを進める。また、以下のような活動の継続、及び新たな展開を進めてゆきたい。①集落景観の価値付け、修理修景方法づくり、②地元学に基づいた地図づくり、③島民と入島者と島外家族を繋ぐイベントづくり、④島民のアルバム写真などを活用した島史づくり