瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

「瀬戸内海研究フォーラムin 山口」 ゆたかな海の再生~いま求められる文化・環境維新

特定非営利活動法人 瀬戸内海研究会議 浮田正夫

実施期間

活動の目的

瀬戸内海の環境は、沿岸域の人間活動によって広範囲で影響を受けやすく、その要因は多岐にわたっている。諸問題を解決するためには自然科学はもとより人文・社会科学を含むあらゆる学問分野からのアプローチが必要との観点に立って、瀬戸内海の総合的な環境の保全と適正な利用に資するため、研究および知識の普及と相互理解を図ることを目的として、瀬戸内海研究会議が1992年に設立された。以後、毎年新たなテーマを企画設定し、瀬戸内各地で研究フォーラムを開催している。2013年に当研究会議は任意団体から特定非営利活動法人となったが、今回は移行後初の開催となる。

活動の経過

本フォーラムを山口県で開催するのは2回目となる。前回は18年前に山口市で開催し、この年は1月に阪神淡路大震災があった。2011年には東日本大震災とそれに続く原発事故が起こった。瀬戸内海については、昔は赤潮も非常に多く、汚れていた。現在は、見た目には非常にきれいになったが、生産量が低迷している。これは、様々な原因が複合しており、明確に答えを出すことができない。現在の環境問題は全般的にこのような状況になっているのではないか。このような状況から、我々のこれまでの考え方、人と自然との関係などを根本的に考え直すべき時期ではないかと考えている。
宇部市は、1950年代の大気汚染の改善を国際的に認められ、1997年にグローバル500を受賞している。また、山口県は歴史的にみると、中世には大内文化があり、明治維新発祥の地でもあることから、本フォーラムのテーマを「いま求められる文化・環境維新」とした。本フォーラムがこのようなことを考えるきっかけになれば幸いである。
第1セッション
テーマ:もり・かわ・うみの保全と再生
座長:関根 雅彦(山口大学大学院理工学研究科教授)
①椹野川河口域干潟自然再生について
②魚の餌としてのアサリ
③河川改修工事に伴うヒヌマイトトンボの保護対策
第2セッション(ポスターの概要発表)
テーマ:環境保全・創造に関する研究並びに活動報告
座長:山本 浩一(山口大学大学院理工学研究科准教授)
第3セッション
テーマ:水産業の取り組み~ゆたかな海をとりもどす
座長:須田 有輔((独)水産大学校水産学研究科教授)
①瀬戸内海等における一次生産量の推移について
②里海を実現する小わざ
③山口県における水産振興対策
第4セッション
テーマ:中世大内文化から維新・近代化まで~いま求められる文化
維新
座長:湯川 洋司(山口大学人文学部教授)
①サビエルが見た大内文化の山口
②維新の裏話~いま求められる維新の精神
③金子みすゞの詩の世界

活動の成果

第1セッション
第1セッションは(公社)日本水環境学会中国・四国支部の「第43回水環境フォーラム 山口」との共催で実施した。
近年の環境問題は、多くの要素が複雑に絡み合い、因果関係が分かりにくくなっている。このような現状を踏まえて、環境問題の原因を探る研究事例や森・川・海を一体としてとらえた自然再生の取り組みに関する講演が行われた。
第2セッション
口頭での概要説明とポスター展示を組み合わせたハイブリッド形式により、瀬戸内海における環境や生物などを対象とした研究、環境保全・再生を目指した市民活動、文化的な活動など様々な分野から全26題の発表があり、参加者による投票の結果、下記の3名が表彰された。
最優秀賞:野上 文子(沖洲海浜を楽しむ会)優 秀 賞:惠本 佑(山口県環境保健センター)、奥田 哲士(広島大学環境安全センター)
第3 セッション
近年、漁業生産の減少が大きな問題となっており、原因のひとつに、魚類の生息環境が悪化している可能性が指摘された。ここでは、海域環境の現状や水産業の復活を目指した漁業者・行政それぞれの取り組みについて講演が行われた。
第4セッション
豊かな海の再生には、技術的なテーマに加えて、精神的な部分も重要な時代になっているという認識から、山口県にゆかりのある歴史や文化をテーマとした講演が行われた。また、山口県にゆかりのある詩人 金子みすゞの詩について、地元の子ども会による朗読が披露された。
第5セッション
環境修復事業としての藻場・干潟造成技術や環境改善への応用が期待されるユニークな技術といった最近の環境保全・再生技術に関する発表に加え、開催地宇部市における環境改善のしくみづくりについて講演が行われた。

活動の課題

特定非営利活動法人瀬戸内海研究会議では、「美しく豊かな瀬戸内海をめざして」次のような活動を推進していくことにしている。
1 瀬戸内海の総合的な環境保全と適性利用等に関する調査研究を進め、その成果を普及・啓発・提言に活かす。
2 国内外の先進事例などの情報発信や技術交流を通じて、研究者、住民、行政、事業者等の多様な主体が連携し、自然の営みと人の営みが融合した美しく豊かな瀬戸内海をめざす。