活動の目的
かつて風待ち潮待ちの港町として栄えた牛窓は、往時の面影を偲ばせる佇まいが、しおまち唐琴通り沿いの所々に残っているが、訪れる観光客は年々減少し、観光リゾート地として賑わったバブル期のブームが去った後は、旧来の観光地づくりから脱却することができず、衰退の一途を辿っている。牛窓は、美しい瀬戸内海の自然景観、朝鮮通信使由来の歴史文化遺産などとともに、県内で有数の優れた農業資源を有している地域であるが、高齢化・人口減少に歯止めがかからず、平成12年過疎地域に指定された。本活動は、このような地域の現状に対し、地域固有の優れた自然、レクリエーション、歴史文化、農漁業資源等を統合的に活かした、観光と連携した農業・漁業の多次元産業化及び地域の生活文化の発掘と継承の取り組みによる新たな地域の魅力創出と地域力の向上を図ることで、地域再生を目指している。
活動の経過
1. 永田農法の習熟と農作物の試験栽培
永田農法は、植物が持つ本来の特質を最大限発揮させながら独自の液肥で栽培することにより、美味しい結実を得ることに特徴を持っている。その永田農法の技術について、発案者の永田農業研究所永田照喜治氏を4月及び8月の2回牛窓に招き指導を受けた。
永田農法に習熟するため、数種の作物で試験栽培を行った。永田農法で普及しているトマト及び当地域の気候風土への適応を見るために十角ヘチマ(台湾産)、パッションフルーツを栽培した。十角ヘチマは、台湾で美味しいヘチマと言われているように食用として、及び化粧用のヘチマ水の採取を目的として栽培を行った。パッションフルーツは、国内で鹿児島県大隅半島が主な自生地と言われるが、牛窓でも自生していることが分かり、特産農作物としての可能性を探るため栽培を行った。トマトは、永田農法による栽培の成果が分かりやすいこと及び同農法の技術を習得するため栽培した。栽培は、協議会メンバーに地域住民を合わせた20名の協力を得て、プランター、植木鉢、家庭菜園で栽培した。
1-2. 農地の現地踏査
永田農法が適した農地・農作物を探るため、永田氏と8月、現地踏査を行い、農地の現況、栽培作物、農業基盤等を調査した。牛窓は、気候は瀬戸内式気候、地形は丘陵性傾斜地が多く、土壌は粘土質が主で水分・肥料成分の保持力に優れている。農地は海風に当たり畑作に適している。中でも「前島」は無霜地帯で優れた農業適地である。営農の現状は、キャベツ、白菜、南瓜、冬瓜、大根などの作物を輪作し高収入を得ているが、重量作物でかつ単価が比較的安いことなどが農業の魅力を妨げ、後継者不足をきたしている。若者が魅力を感じ新たなビジネスを創出する農業・農村の多次元産業化に向けた取り組みを進める。
2. 地域産食材による試作・試食会
地域産農海産物を使った試作・試食会を3回行った。7月の試作・試食会は、元ホテルオークラ岡山総料理長湯浅シェフの指導で、南瓜、冬瓜、ジャガイモ、スイカ、海産物としてイゲス、ボラを食材に使った郷土料理膳を試作・試食した。メニューは、ボラ南蛮漬け、コロッケ、イゲス、南瓜ぜんざい、そうめん南瓜サラダ、ところてんゼリーなど13品目で、参加者は29名。9月、試験栽培していた十角ヘチマで、豚肉、ニンニクの中華風炒め物料理の試作・試食を行った。また、ヘチマから無添加の化粧用「ヘチマ水」を試作しメンバーが試用した。使用感は、肌になじみ潤い感があるなど使用者に好評で高い評価が得られた。11月の試作・試食会は、単品料理で、大タコ入りネギヌタ、アミ大根、5色ナマス、ゲタくずしかけ飯など6品目で、参加者は20名であった。
3. 牛窓マイスターのワークショップ
牛窓は、港町の歴史文化と風土に育まれた普段の生活の中に、都会の人には懐かしく珍しい生活の知恵や習わしが今も伝えられている。また、その地域風土の魅力に惹かれて牛窓に移住し新たな文化を育む人もいる。そんな技術や知恵を持つ人を「牛窓マイスター」として9人(昨年度12人)を認定した。牛窓マイスターは、地域に住む人たちや観光で訪れる人たちに、その技術を披露し交流を広げている。「牛窓にこられ~Ⅱ」として小冊子を作成し、マイスターを紹介している。牛窓マイスターの技術を紹介するため、4月の竹細工に始まり、漁網で作るアクセサリー、ししこま作り、牛窓の民話、門松作りなど、計11回のワークショップを行った。
4. 師楽de 楽・農・市(産直市)
11月末、農業が盛んな師楽地区の住民“師楽人” が中心になって産直市を地区の集落の中で開催した。農家の前面にある農作業小屋を販売スペースとして利用し、農家と消費者をより近づける産直販売を試みた。農家13軒が参加し、来場者約260人、芋掘り体験参加者82人であった。当日は、婦人会が食事を提供した他、焼きそば、ラーメン、喫茶などの出店があり賑わいを見せた。
活動の成果
永田農法による農作物の試験栽培は、試行錯誤の連続であったが、同農法の説明会、相互学習などにより基礎的技術の習得ができた。露地栽培の十角ヘチマの収穫は良好であった。トマト栽培は、露地栽培で良好な生育状況であったが、収穫直前の熟したところで害鳥獣に食べられてしまった。鉢植え栽培は、育苗管理に四苦八苦したが、収穫したトマトの糖度は7度を超える良好な成果を得ることができた。
地元産材を使った試作・試食会は、主材料に品質に定評がある牛窓産の旬の食材を使い、いずれの会も料理は美味しく好評であった。今ではあまり使われることがなくなったイゲス料理、ほとんど食材として使われることがないボラ料理は、安い材料費ながら高い評価を得た。
11月、地元市商工会が主催する瀬戸内市産業祭りイベント地域産食材を使ったグルメコンテストで、協議会メンバ―が中心となって創作した「牛窓元気スープ」が最優秀グランプリを獲得した。ゲタミンチを主材に牛乳スープ仕立ての料理である(レシピは、てんころ庵HPで紹介)。
活動の課題
観光と多次元産業化を図った農業・漁業が連携する地域再生を目指す活動は、第一歩を歩み始めたところである。本年度の活動は、反省すべき課題は多々残ったが、今後は活動継続の上で、より多くの地域住民の合意形成と若い世代の活動への参加に努める。まずは、現在取り組んでいる第一歩の活動を成功させることに注力し、情報の発信と6次産業化のモデルを作ることを重点課題として取り組みたい。高齢化・人口減少が続き、このままでは、地域は限界集落からさらに厳しい段階へ陥ることは避けられない。地域再生について、住民の意識を高め、自治体の明確で揺るぎないビジョンが示され、地域が一つになった地域再生の取り組みが求められる。牛窓地域に潜在する優れた地域資産を活かし新たな観光と農漁業・農村の多次元産業化により、若者が参入しやすい新たな地域産業を創生していかなければならない。そのために、この活動がわずかでも寄与できるよう、仲間を増やしながら取り組んで行きたい。