活動の目的
瀬戸内海の島々や沿岸地域は、古くから石の産地として知られ、石材の採石・加工を通じて石材産業を発展させてきた。特に庵治石(香川県)や大島石(愛媛県)、北木石(岡山県)など、銘石を多数産出してきたが、近年は、新建材の登場や安価な外国産石材の進出により、出荷量が減少。いずれの産地も衰退の色が隠せない。
そこで本プロジェクトでは、瀬戸内の石材や石文化を広く知ってもらうため、「瀬戸内国際芸術祭2013」の開催に合わせて、主要石材産地の石を使った「石あかり」を制作し、3カ所のイベントで展示、マスメディアなどを通じて広くPRした。
なお、紹介する産地については、現在採石が行われている主要な産地として、以下の3 県6カ所を選定した。
・庵治石(香川県/牟礼町・庵治町)
・小豆島石(香川県/小豆島)
・青木石(香川県/広島)
・大島石(愛媛県/大島)
・北木石(岡山県/北木島)
・白石(岡山県/白石島)
活動の経過
本プロジェクトは、1 産地調査、2 石あかりの制作及びイベント等での展示紹介の2 つの行程に分かれて行った。
1 産地調査
産地調査は、文献調査を中心に各産地の石の特徴、歴史、暮らしにまつわるエピソード等を調べてパネルにし、「石あかり」と共に各会場に展示した。(以下概要)
瀬戸内海では、約400年前、大坂城の修築を契機として採石が始まった地域が多く、明治期以降、近代化に伴う石材需要の高まりとともに、それぞれの特徴を活かしながら、産業として発展。皇居や国会議事堂、日本銀行本館をはじめ、多くの著名な建造物や港湾建設等に使用され、産地としての礎が築かれた。また明治中期以降、家制度が確立されると、それまでの個人墓から、家単位で墓をつくる習慣が定着。特に高度経済成長期に入ると、大都市への人口集中や核家族化によって墓地の需要が増加、所得水準が向上したことなどから、高級墓石としてブランドを確立する産地も登場した。
こうした石材産業の歴史は、島の経済発展とも密接に関わっており、例えば、犬島のように、最盛期には人口が6,000人まで増え、「築港千軒」と呼ばれる程の繁華街を形成した地域もある。いずれの産地も、島民の多くが石材業や海運業等に従事しており、当時の資料や石工達の労働歌等からも、石材業が島に与えた影響は大きい。
2「 石あかり」の制作
今回取り上げた6つの産地それぞれの石の特徴がわかるよう、同じ形状で「石あかり」を制作。海に浮かぶ船を型どったデザインを採用し、それぞれ異なる6色のあかりを灯した。なお、制作は本会メンバーの職人が担当した。
活動の成果
1 むれ源平 石あかりロード
地元石材業者が制作した石あかり約300点を、ことでん八栗駅から駒立岩までの旧庵治街道沿い約1㎞に展示し、ライトアップを行った。
期間:2013 年8月3日~ 9月16日
期間中来場者数:約8 万人
2 高松空港 そらの美術館「KCAS 展」
高松空港のターミナルビルを美術館に見立て、「空」をテーマに制作した絵画やオブジェなど、約40点を屋上やロビーに展示。あわせて島の石あかりを展示した。
期間:2013 年11月9日~ 12月7日
期間中の空港利用者数:約11 万人
3 石あかりロードin 玉藻公園
「瀬戸内国際芸術祭2013」の秋会期に合わせて、高松城跡が残る玉藻公園で「石あかり」を展示。期間中は園内を夜間無料開放し、盆栽カフェなど様々なイベントも行われ、大勢の見物客で賑わった。
期間:2013 年10月5日~11月4日
期間中来場者:約2 万人
活動の課題
瀬戸内海の人々は、古くから石と密接に関わりながら暮らしてきた。産業としての発展はもちろん、巨石を祀った祠や、美しい景観を形成する石積みの塀や段々畑、石工たちの工房が立ち並ぶ町並みなど、島嶼部や瀬戸内海沿岸の産地では、今も暮らしの中に石文化が息づいている。
一方、都市部では、ライフスタイルの変化とともに、石はもはや身近な存在ではなくなりつつある。今回、3カ所のイベントやメディア等を通じて、瀬戸内の石材と石の文化をPRしてきたが、まだまだ十分ではなく、今後も継続的な情報発信が重要と考える。また、今回の調査でわかったことは、生産量の減少や後継者不足等により閉山を余儀なくされている産地が増えていることである。こうした消えつつある産地の歴史を記録する意味でも、継続的な調査が求められる。